──────────────────────────────
ミクロコスモス研究版2004年6月3日「知識単位学5」
──────────────────────────────
発行 ミクロコスモス出版
編集長 森谷 昭一
─────────────
知識単位学 第5回
担当 森谷 昭一
─────────────
【知識の実体】
今回は少し知識の実体について考えてみます。
知識が普通にいう意味で「物」でない事は明かです。勉強する前と後で、脳の重さは変わらないと思われます。よく「頭に入る」とか言いますが、脳という「入れ物」に知識という「液体」が流し込まれて、中にたまっていくような訳ではないでしょう。
ノートという媒体に、鉛筆で情報を書き込めば、少し重くなりますが、知識の本質からすれば、情報に質量がある訳ではないと考えられます。増えたのは鉛筆の粉です。石に文字を刻めば、重さは減りますが、石の上の情報は増加しています。
人は知識を受け取ったり、知識を送り出したり、知識を伝えたり、知識を蓄えたりします。いったい知識に関わる事が起きる時、どような事が起こっているのでしょうか。
「あなたは知識が一杯詰まっていて、頭が充実していそうね。」「頭が空っぽで、たたくと音がする。」などと冗談を言いますが、意外とこのような「水槽と水」のようなモデルで知識を捉えてしまう事が多いのではないでしょうか。
そうでないとしたら、いったいどのようなモデルを知識を扱う時のモデルとして想起したら良いのでしょうか。
【知識のモデル】
ひとつのモデルとして、次のような図式を定置してみましょう。
知識の主体となる系を考えます。人間そのものを考えても良いし、脳だけでも良いし、一台のコンピューターを選んでもかまいません。その内部には、多数の「要素」があり、その「状態が変化」するものとします。状態の変化は二値でも良いし、多数の醜態をとってもかまいません。
コンピューターのメモリーなどを考えれば分かりやすいでしょう。メモリーの原理は小さなコンデンサーが莫大な数だけ升目に並べられたようなものです。それが、外部の信号によって充電されている状態とそうでない状態が変化します。この変化によってもたらされたメモリーの状態が書き込まれた情報です。この場合はに、とりうる状態は二値です。
脳は仕組みが複雑なので、少し単純化しますが、脳細胞、あるいは神経単位と呼ばれる要素があって、これが状態変化すると考えられます。
「知識とは、系の中で状態変化可能な要素の状態である。」
と単純に考えておきます。
きわめて単純化したモデルを図示してみましょう。●と○は要素を示します。黒と白が状態の変化を示します。デジタル回路の荷電・非荷電、脳細胞の発火・非発火などを考えても良いですが、私としては、もう少し広い対象へのモデル適応を考えてはいます。
系? 系?
記憶系
○●○ 信号化 ○●●○
●○○○●○ 通信線 ○○○○○
○○●○●○ ○●○●○●
●○○●○○●○○●○●○○○○○●
○○●○○○ 伝達 ○●○●○
●○○● ●○●○○
主体 作動体 感覚器 主体
上側にふった説明は、デジタル回路です。系? と 系 ? はふたつのコンピューターを考えても良いでしょう。一番右側と、一番左側が、それぞれのバードディスクのなりモニターなりの状態です。
下側はふたりの人間なり、二匹の生物なりを考えてふってあります。一番右と、左は脳の状態という事になります。ふたつの主体としておきました。
ひとつの○は隣接する○に作用して、●なり○に状態を変化させます。とのようなルールで、状態が変化していくかは、系により様々なものを想定できますが、チューリングマシンのようなものがコンピューターでは、基礎となりますし、脳もいくつかのモデルが提唱されていますが、基本的な図式はこれで良いでしょう。
真ん中に細い線のようになっている部分がありますが、通信線なり、人と人の伝達手段でもかまいません。右からだんだん、○がへっていきますが、ハードディスクから情報を取り出して、信号化していく装置を示します。通信回線は基本的に一本になり、シーケンシャル(一列に連続していいる)な信号が伝達されます。モールス符号のようなデジタルな信号に知識が還元されると想定してのモデルです。
言語も、基本的には、デジタルなシーケンシャル信号ですから、人のコミュニケーションもこのようなモデルで考えてみます。
このモデルで分かる通り、知識の現象と言うのは、決して物が出入りするようなものではない事が分かります。むしろ波動の伝搬のような状態の伝搬です。
このようなモデルは完全に「構造的」です。要素部品は固定されていて、移動しません。情報は完全に順序列なり、位置に依存して意味をもちます。
少し離れて、知識について考察をしてます。それは、人の知識と知恵の違いといった問題です。沢山の本を読んで、それが頭に入っているかと言えば、人間の記憶領域そんな大きくないようです。
でも、本を読むと、知識は増えたり減ったりはしないかもしれないけど、変化するものです。「考え方」とでも言うものが、書物から感銘を受けたり、講義を受けたりする事により変容します。それは、人間という知識の系の状態の変化と考えられます。大量の知識を蓄えても知恵には達しないとかいって知識と知恵を区分したりします。
悟りのような人間の脳の状態のひとつも、大量の知識を蓄えることによって到達するものではないでしょう。知識を量で図る段階で、知識を集合論的に考えているからです。むしろ、知識という水で洗われて清浄になった残余構造が知恵であり悟りのような状態と言った方が近いでしょう。
【知識のあり方 構造 関係性 】
さて、図式化したモデルで、知識というのはどのような存在と考えたら良いでしょうか。知識は常識的に言う「物」でない事は確かです。それは「関係性」です。構造的な存在を考える上で、関係性として捉えて思考する事は重要です。
ただ、この思考法はなかなか、身につける事が難しく、ちょっとした思考の転換を必要とします。数学の群論を勉強して頂くのが早道なのですが、この講義では、それに詳しく触れる事ができませんので、何かの機会に触れられる事をお勧めします。すこしだけ、その入口になるような事をお話しておきましょう。
じゃんけんを考えてください。石はハサミより強く、ハサミは紙より強く、紙は石より強いという「三すくみ」の関係になっています。石、ハサミ、紙 の代わりに 蛇、カエル、なめくじ とかにしても「関係」はかわりません。
このようなものが構造にあたります。(本当はちょっと違うのですが、入門という事で了解してください。)
音楽で、ある旋律を構成する音を一つだけ上げたり下げたりしたら違う旋律になりますが、全体をすべて上げれば、移調されただけで、旋律の構造は変わりません。音楽は構造的なものです。
構造をみるというのは次のようなことです。
1 2 3
2 3 1
と書いて、上の順列を下の順列に入れ替える事を示します。すると
1 2 3 2 3 1 A B C
2 3 1 3 1 2 B C A
の3つは同等なものとして イコール でつなげる事が分かります。
もし分からない人がいたら、同じ数字なり文字なりを線でつないでみてください。
関係に注目してしまえば、数字や記号はそれぞれ差異性をもっていさえすれば、どうでも良く、構造は「もの」に依存しない事になります。
今、このように講義している内容の元は、私の脳細胞の状態なのですが、理解してくれる人の頭脳に遷移していけるのは、実体となる要素の部品が異なっても、同じ関係性を転移できるからです。
【 悟りの話 】
ちっと余談ですが、悟りの話をしておきましょう。人は集合論的な思考を根強くもつものです。実体を求める思考をもつとも言えるでしょう。そこから、関係性への思考、構造を見る目への転換は、少々ばかり跳躍を必要とします。
仏陀の悟りの内容として、「これある故に、これあり。」との説明をしたと言われます。すべてに原因がある事を示しているなどと説明されますが、少し違うと思います。この言葉を通して、説明されているのが「関係性」への思考に転換せよという事だと思います。
苦しみや我執などの実体的思考、集合論的な捉え方から、関係性、構造性への飛躍が、大きな思想史上の転換となり、後の空の思想などの展開に繋がっていったと思います。縁起という概念は、関係性そのものを示します。
多分、数学的な定式化が可能なものです。後代の禅問答における飛躍なども、そのようなものを定式化すると、意外と容易に理解できるものです。
この知識単位学での知識の扱い方が定式化されて、分析手段が確立したら、思想史に適応して、古代の思想から、宗教史や、近代の思想の分派などを総括的に描いてみたいと考えています。
知識単位学は、実はかなり広い範囲での応用性を意図しているのですが、そのひとつとして、少し御紹介しておきました。
さて、余談で時間が来てしまいましたので、今回はこれで終わります。あまり予定どおり進んでいないのですが、また質問などどしどしお寄せください。
それらか参考書など紹介して欲しいという意見がありましたが、今の所ありません。というより、過去の学説史とかにしたくないので、あえて日常の概念を道具として出発しています。
講義を反復して理解してもらい、現実の問題に適応しながら、考えて頂く方が、この講義では好ましいと考えています。
ただ、同じミクロコスモス研究学園の、講義録はすべて関係のある事ばかりですから、是非参考にして読み返してください。
では、梅雨になりますが、腐った物を食べて腹をこわさないように、勉強を続けてください。
────────────────────────
今日はここまで
ではまた。
────────────────────────
【へちがら】
なんだか、お腹が痛い事が続いたので、どうしたかと思った。ちょっと一日だけ食器を洗わないでいたら、もうカビが生えていた。
危ない季節になっているのを忘れていた。ちゃんと、片づけをこまめにしないと、そこらじゅう腐ってしまう・・・・
みなさん、梅雨に向けてのカビ対策などありましたら、御教授ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ミクロコスモス出版 ミクロコスモス編集部
編集長 森谷 昭一
★ 編集部宛メール 公式メール 執筆者・編集部員に内容のみ転送の場合あり。
micos@desk.email.ne.jp
|