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ミクロコスモス総合版2004年5月28日文章「ひとつのこと」
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発行 ミクロコスモス出版
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文章 ひとつのこと
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とあるコラムのコンテストの応募作品を読んだ。一生懸命書いてるらしいが、どうもすっと読めない。対して、名コラムは、最初の一言から最後の読点まで、一気に頭脳に流れ込むように読める。
何が違うのだろう。理由はいろいろだろうが、読みやすさの要は、全体がまとまって「ひとつ」になっているることだろう。
余計な思いを切り捨てることなく、また関連のない事を無理に「文章風」に羅列すれば、文章に亀裂がはいる。亀裂ごとに、読み手はひっかかり、読みが止まる。
一気に読める文章を書く人の創作の手法を伺った事がある。答えは、「一気に書ける瞬間まで、何もしない。」だった。文の達人が「文章は天から降ってくるのさ。鉛筆持って待っていればいい。」とよく言う。
つまり、一瞬にして降ってきた「一瞬の思い」を書きとめれば良いのだ。もともと一瞬の「ひとつの思い」だったのだから、読む時にも、一塊りになってすっと入ってくる。すっと読める名コラムの秘密は、「ひとつの思い」のようだ。
それにしても、この天から一瞬にして降ってくる「ひとつの思い」というものは、不思議なものだ。なんとか、その正体をつかんで、解剖して、分析して、図示して、明確に表示してみたいと思う。
それが出来ない事が悔しいが、良く考えてみれば、この世で一番の難題なのだろう。なにしろ、ひとつの事をひとつでない言葉で示すのだから。それは、まさに世界を知る事そものではないか。
ひとつになっていない文章なぞ、読んでも仕方がないと思う。世界を知る事はできない筈だから。
y/k
【編集長の追加】
本の紹介 「小説教室」
今日の記事と同じような事が書かれた、小説家による「小説の書き方」を読みました。105円の古本として買って、なんとなく積み上げておいたのだけど、先日風邪で頭痛がして、頭がまとまらない時に、ぐうたらしながら読んだら、すっと3時間で読めてしまったものだ。
高橋源一朗の「小説教室 一億三千万人のための」(岩波新書786)だ。
この人、いわゆる「はずし」系の小説家で、ちょっと「格調の低い内容」だが、すらすら読める文章を書く人だ。
まあ、筒井康隆の系譜なのだろうか、博識であり、抜群の言語能力をもつ。
「課外授業 ようこそ先輩」での小学生への授業をきっかけに、書いたという小説作法の本なのだが、技法書と言うより、これ自体で充分小説に近い。小説を書く秘訣をいくつかの「鍵」としてまとめているが、その一つ目が
1 なにもはじまっていないこと、小説がまだ書かれていまいことをじっくり楽しもう。
であり、二つ目が
2 小説の、最初の一行は、できるだけ我慢しても、遅くはじめなければならない。
なんて書き方なのだから、読者の期待を見事に「はずして」進めている。これを読んで、小説が書けるようになるかは不明だが、「書きたくなる」事は確かだ。
付録とされている、 「小説家になるためのブックガイド」は、これだけで、近現代の「はずし・ずっこけ系」の文章家達のアンソロジーとなっている。
彼の小説の方はあまりお勧めしないのだが、この本は、さまざまな意味で高度の技法が込められている。
巧みに「はずし」を続けて、そんな事は出来ない、出来ないと言っておいてて、実は裏で完成させてしまっている。
学校の教師と言うのは、絵の描き方を、言葉で説明してしまうような人種だ。どうも肝心な核をもたないままに、余計な外壁ばかりを言い続ける。
この本は、それと反対だ。絵の描き方を絵で説明している。小説の書き方なのだから、小説で説明するのが本当だろう。その意味でも、教える立場にある人にも、教育の技法書としてもお勧めする。
ブックオフで105円になっている所をみると、決して「古典的名著」になることはないだろうが、ちょっと頭をやわらかくしてくれる事は間違いない。買い込んで、ふと、そんな気になる日に、一気にすっと読んでみてはどうだろうか。
編集長 森谷
高橋源一朗
「 一億三千万人のための 小説教室」
(岩波新書786)ISBN4-00-430786-4
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今日はここまで ではまた。
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