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ミクロコスモス総合版2003年3月31日3月お終いの御挨拶と物語
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3月お終いの御挨拶
3月も終わります。日本では年度の切り替えとなる3月末日は、けじめの日となる事が多いようです。公的な事はもちろん、転勤、卒業、進学、進級、転居・・それに伴う分かれと出会いの季節です。引っ越し荷物と共に、遠くにいってしまう幼なじみの友達。
時に激論を交わしながら、共に仕事を仕上げた仲間の転勤を見送る飛行場。卒業とともに、大学進学のために遠い町に出ていくクラスメイト。
どこにてもある、使い古されたような物語ですが、いつも確実におこり、去っていく物語です。心が空になったような一瞬の静けさがよぎる・・そんな別れの物語です。
卒業式を過ぎても、まだ会えるのでしょうけど。かわらずに、これからもつきあう友でも、3月31日から4月に変わる時を時計が打つ時、古い人格との別れが何か心の中で、はじけるような気がします。そして、ふと何か成長したように、友が別の人になっていく。
そんな気がするの季節です。人のつくった区切りなのでしょうが、でも桜の蕾が開く時、春の暖かな空につつまれる時、どこかで人は、別れと出会の小さな物語の舞台を転換していくのです。
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さて、ミクロコスモス放送局の恥じる事を知らないDJ番組番組があります。原稿より、3月最後の番組の原稿を載せて、雑誌の3月最後の御挨拶とさせていただきます。
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誰が決めたか、3月は別れの季節。春のしずかな日射しの中で、別れの涙をふくと、ほら春の花と暖かな空があなたを出迎える。
季節はやがて新緑の季節に。小さく凝縮して光の粒になっていく思い出を心しまうと、ほら、だれかがあなたの愛をまっている。
やがて出会いの季節です。であった最初の一言を、意外と一生覚えていたりします。新しい出会いに、真剣に取り組んでください。青春はこわれもの。過ぎてから気がつく。
過去まは取り戻せませんが、未来はこれから作れます。どうぞ、お便、リクエストお待ちしています。
この番組が、人と人を結び、過去と未来を行き交う、駅のようであればと思います。
番組ミクロコスモス 3月最終号。DJは天国の電気技師森谷昭一でした。・・・・・・
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てなわけの、しょうもないアナウンスなんですが、
さて、同じ3月最終号の、なかにある科学者の若き日の物語があります。もう20年以上も前に書いた作品なので、今みると、下手くそな文章なのですが、改訂版は又の機会にして、原典版をお読みください。本当は音楽付きで、朗読された番組のテープもあるのですが、添付するには長すぎますので、また改訂版ができたらお届けします。
ちょっとだけ編集長の思い出が仕込まれた、若き日の作品です。
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ジョン・コルグ
ジョン・コルグ ケストワルド大学で細胞学を専攻する22なる青年だ。もう卒業も近い。友人達は卒業式の服だの卒業パーティのパートナーの事ばかり気にしている。
でもひとり、彼はそんなことは全く頭にない。彼のすべては研究室のネズミの培養細胞に注がれている。この四年間、一日もかかさずに観察をつづけてきた友達にみたいに感じる細胞が定温器のフラスコの中で生きている。
かれはこれに色々な薬物を投与して、細胞の異常を研究している。卒業を前にして、彼の研究はどうしてもうまく進まない。
もちろん彼の卒業研究は、卒業のための単位はおろか、学長賞さえもらえるものだ。でも、彼はずっと先を目指していた。
彼の育てている細胞が彼の熱意に応えてくれるなら、それは世にも不思議な現象をみせてくれるはずだ。それは世界を変えるかもしれない。
彼は細胞のどんな細かい振る舞いでさえ、みのがすまいと時間のたつのも忘れて顕微鏡に向かった。
機械ばかりの研究室には、あまり季節感はない。クリスマスパーティや夏の旅行に、仲間が青春を謳歌している時、かれは季節の流れから、はずれた世界で、独り永遠と向き合っていた。
普通の人々は、季節と暦の中に組み立てられた物語に、命と死を配置する。でも彼は違っていた。ふと見る窓の外に舞う雪に、遠い夕焼けに、一瞬、はるかな世界を感じるのが、彼の四季だった。
こんな彼にも楽しみはあった。彼は無類の音楽好きで、いつも顕微鏡をのぞきながら、ルネッサンス音楽や現代音楽をきいていた。そして研究に疲れると、だれもいない実験室でバイオリンをひくのだった。
卒業が近づいた。仲間はもう就職も決まり、それぞれの道に散ろうとしていた。でも細胞は彼の期待した動きを見せてくれない。
そして卒業式の日、仲間はみな仕立て上がりの服装で学位を受けた。彼の名が呼ばれた。だが、彼の姿はなかった。彼は実験室の顕微鏡の前にいた。
誰もいなくなった3月のキャンパスで、もう卒業生となってしまった彼は、なんとなく居るべき場所を失ったような気分だった。
でも、実験を中途にしては四年間の自分が無になってしまう気がして、顕微鏡の前を離れられなかったのだ。
3月もお終いに近いある日、自分の人生は何だったんだろうと思いにふけりながら、顕微鏡をのぞくと、彼の夢が目の前にに現実としてなにげなくそこにあった。
細胞が彼の予測どおりのふるまいをしていたのだ。彼は何時間もそれを見つめた。そしてデーターをとり、写真をとり、急ぎ論文にまとめた。
それは、彼が夢見たほど大きな結果ではなかったが、後にその論文は地味だか確実に賛嘆の声とともに学問の世界に広がった。
論文を書き終わった時、3月の空がやけに広く、太陽の光が柔らかだった。何か自然が自分を祝福してくれるような気がした。彼の卒業式だった。そして、めったにない本当の卒業式だった。
「事務室が取りにこないと怒っていたぞ。」と教授が卒業証書を渡してくれた。
そして明日から、どうすべきか呆然としていた彼に「よっぽっど、その細胞が気に入っているんだな。」と言って「まあ、その細胞ごと、ここへ行け。」と、ある研究所の研究員の職を紹介してくれた。
3月31日、彼はその細胞とバイオリンをもって郊外の研究所に引っ越した。その細胞は彼の夢では、もっともっと不思議な振る舞いをしてくれるはずだ。
それは世界を変え、多くの人の命を支えるようになるはずだ。彼は幸せな人間だ。多くの人は、季節と儀式によって、運命に流され、構造に取り込まれる人生をおくるのだが、彼のような人間だけが、自ら四季を創造していける者だからだ。
ジョン・コルグ 細胞生物学でノーベル賞受賞。
彼の細胞分化についての理論は、後に厳細胞コントロールへの道を開いたと言われる。
細胞学の仕事を完成させてから、かれは音楽の道に進み、作曲家として多くの美しい歌曲と室内楽を残した。
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今日はここまで ではまた。
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【編集長の御近所情報】
小田原は桜満開です。人だらけです。
【お知らせ】
今月は、ほとんどの読者より継続希望を頂きました。転勤しようが、引っ越そうが、あんまり関係のない、電子ネットワークを通しての、おつき合いは、別れなどなくて、良いですね。4月もいつもどおりよろしくお願いします。
編集長は、勤務先が変わります。同じ学校なのですが、分校みたいな所にゆきます。住所は同じです。詳しくは明日号で。
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ミクロコスモス出版 ミクロコスモス編集部
編集長 森谷 昭一
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