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ミクロコスモス総合版2003年3月16日わが青春の街「神保町」
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           発行 ミクロコスモス編集部
           

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    編集長のわが青春の街「神保町」    編集長
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誰でも、気に入りの街というのはあるだろう。生まれた所や住んでいた町とは別に、そこに行くとほっとする、自分が自分になれるような町があるものだ。

編集長にとって「神田神保町」がそういう街だ。わが青春の街といって良い。最初に出かけたのは高校生の頃だったか。中学生の頃から、秋葉原には出かけていた。少年時代は電気少年だった。本好き青年なったのは少し後なので、神保町に最初に行ったのは、多分高校生の後半だと思う。記憶は定かではない。最初に足を踏み入れて、すっかり気に入った事だけ覚えている。

 この街を歩いていると、ほっとする。新宿の街とか渋谷とか青山あたりを歩いていても、なんか違和感がある。話の通じそうな人をみかけないのだ。街そのものの好き嫌いではなく、多分そこに集まる人種との適合性が、街の好き嫌いを決めているのだろう。

神田神保町は、言うまでもなく、古本屋街である。本好きやら、学生、学者、先生といった人種、それから出版社が多いので、そういう関係の人が多いのだろう。

住人達は、古書店の他、印刷関係などか多かった伝統だろうか、東京の気位の高い神田の気質の人が多いようだ。江戸っ子ととか言うのとはちょっと違って、まさに「古本屋のおやじ」風の人達なのである。古本屋のまおやじは、文豪達の家に出入りする時でも、他の商人達とは違って、正面玄関から堂々と訪れたとか言われている。確かに今でも「ちょいと怖い店主」もいないではない。

 ここに来ると、なんだか懐かしい感じに包まれる。同種の人達がいる所に帰って来たような気がする。なにもかも馴染んでしまう。食べ物でも、売り物でも、自分の背の高さ、ちょうど良いものばかりなのだ。

銀座で、食事なんかしたら、なんだか背中がむずむずして来て、落ち着かない。六本木とかで、食事などしたら、なんだか全身警戒態勢に入ってしまう。

 この街は知り尽くしている。最近は、年に数える程しか行けないが、大学生の頃は毎週通っていた。その後も、東京に行くと言えば、大半が神保町通いだった。

路地の裏の小さな書店の各階の、それぞれの本棚のどこにどんな本がおいてあるか覚えている・・・と言ったら、ちよいと言い過ぎだが、でもそれほど詳しくなっている。

新しい店ができたり、変化も激しいので、今はそんな芸当はできないが、人を案内して、その人の欲しい本をみつける手助けなら、今でも簡単に出来る。

 そう、ここで、書店の本棚の本を発掘しながら、「世界を発見」して来たのだ。ここで、多くのものにであった。その人が世界を広げる方法には、旅や冒険をする、人と出会う、映画を見る、音楽と出会う、今ならホームページを見つける・・・など色々ある。本との出会うのも、古典的な世界を広げる方法なのだが、編集長は主にこの方法で、様々な世界に出会ってきた。

言語学、世界の様々な思想家、変形文法、音楽学、図書館学、・・・○○学と、さまざまな学問に出会ったのは、大学の講義や、人伝えではなく、神保町の本屋の本棚だった事の方が多い。

 この街は、自分の家の書斎のような気までしてくるのだ。まあ、神田神保町に集積されている書物を書斎にしたら、全世界の知識を我が物にしたようなものだろう。今でも分からない事を神保町にいって解決の糸口を探してくる自信はある。

図書館のように整理整頓されている訳ではなく、流通つつつある書物なので、労力をかけて、チャンスをつかむ必要はあ。でも貴重な知識が集積されている地帯ではあるのは事実だろう。

わが青春は、貧乏だったので、頻繁に来ても、購入できる本はわずかだった。

一冊程度、目的の本を購入する他は、大抵は外に並べられた50円の本だの、投げ売りの文庫本などで、未知の世界を探検できる古本を買ってくるのが楽しみではあった。

今でも、新本で書物を買うのは、一瞬躊躇する。神田の古書店で探してもない場合に限って、三省堂とかで、しぶしぶ新本を買ってくるのが定石だった。

そんわけだから、かなりつまらない本やら、後になってみれば役立たずの本も、家にたまって、ついには床の材木が折れて、床が陥没ててしまう事態にもなった。しかし、分野など関係なく、ただ本棚をぼっと探っていくのは、今でも人生で一番楽しい時ではある。

多少でも自分で文章を書いてみれば分かるが、力のこもった本を一冊作るのは、ひとりの人生の重みがかかっている。神田の本棚には紙の束が並んでいるのではなく、数多くの人生が並べられてるいる場所である。人生の一大市場であると思えば、本あさりも楽しみが増す。

教師になった後も、自ら通いながら、随分多くの生徒をここに連れて来た。

学問の世界を紹介する、知識の世界に生徒や仲間を誘うには、ここに連れてくるのが一番なのだ。そして、ここでの反応をみれば、その後のその生徒の人生も見通せる気がする。

ここで、いろいろ不思議な世界がある事に心動かされる人間なら、間違いない学問の世界にやがて進んでいく。そして、哲学やら思想みたいな事に頭をつっこみはじめる。

神保町全体に感動する事は知識の世界に広さに感動している事なのだ。生徒によっては、特定の分野のものしか興味を示さない。料理だったり、占いだったり、絵本だったり、いろいろだが、特定の分野での濃密な書物の集積に驚く種類の人間は、特定の専門家として育っていく。

 どうも、この街が合わないらしく、あまり興味を示さないのもいる。そういうには、早めに切り上げて、秋葉原とか、渋谷とか、新宿とか、アメ横とか、別世界に連れて行く。書物の世界が合わない人種はいるものなのだ。

 随分多くの人をこの街につれてきた。そして多く人のこの街で本探しをしたり、話をした。その一人一人の思いでとともに、この街のどこもかしもこも、思い出ばかりの「わが青春の街」なのだ。森谷先生の弟子、仲間、友人・・と言える人は、少なくともこの街に一緒に来た事がある人だ。

そういう候補者達を、この街に誘って、学問の世界の共同探検者を選んでいたのかも知れない。そして、この街を知って、それ以後、さまざまな学問や、知識の世界に入っていった生徒やら仲間達が少なからずいるはずだ。もちろん、神保町体験が最初にして最後になつた人もいるだろうが。

 沢山の人をつれて案内するうちに、神保町入門コースとでも言うべき、コースが出来ている。古文書やら和綴じ本の○○、革表紙の洋書の古書が並ぶ○○、幻想文学専門の○○、医学書の○○、コミック専門の○○、東海林太郎のLPレコードが並ぶ○○、切手とコインの○○、仏教書の○○、美術書の○○、音楽書と楽譜の○○、テレビ局のドラマの台本なんてのを売っている○○、高価初版本の○○、地図の○○、中国書籍の○○、地方出版の○○、理工学の○○、美術材料の○○、中古楽器の○○、・・・・・、食事もふくめて半日コースの、森谷先生の神保町紹介入門コースなのだ。

元生徒の読者の中には、今となって納得している人もいるかも知れない。全コースをまわれば、ほぼ神田神保町の知的世界の全世界一周旅行が終わる。後は、自分で探検すれば良い。
 この街は、本の街であるだけではない。学生の街、(明大、日台、予備校生、専修大、美術系の専門学校、・・)でもあるし、喫茶店の街、出版の街、でもある。そして近くに楽器の街、スポーツ用品の街、が続く。

 この街に来ての食事は大抵決まっていた。「キッチンカロリー」か「△△の餃子」か「△△の天ぷら定食」などで昼ごはん。みな安くてボリュームのある店である。そして、大抵は「タカノ」によって紅茶を飲みながら買ったばかりの本を読んで、以後の計画を立てていた。

そのひとつひとつが、みな自分の背の高さにあったている店なのだ。編集長はあまり高価な食事をおごられても貧乏性なので、あまり喜ばないというより価値が分からない。学生街の定食屋とか、ちよっと「贅沢した」一杯500円程の「タカノ」のロイヤルミルクティーあたりが、一番幸せにになる飲食物なのだ。

 東京に住むなら、このあたりに住んでみたい。または、ここに自転車で買い物に来るのも良い。小田原の田舎でのんびりしている今日この頃だが、神保町だけは、今でも時々、むしょうに出かけたくなる。

先生している人とか、良い歳になった読者の方々にお勧め、かつお願いしたい事がある。そんな、自分の世界を閉じこめた、ミクロコスモスな街歩きコースを、どこかにつくって、誰かを案内してもらいたい。

総合教育なんてのがさかんだか、古書店街研究で、一番奇妙だと思う本をリポートしてもらうだけで絶大な教育効果があると思う。それは、山育ちの人間に海を見せるようなものだからだ。

本好きが減る事を嘆いたり、どうのこうのと評論するが、人は圧倒されるほどの量の世界で初めて、その世界に入っていく。編集長が書物の世界に来られたのは、神保町おかげである。


【蛇足】
 もし、読者で神田神保町にいった事がないなら、明日すぐに行くべし。・・・(日曜はお休みです。)神保町へ行った事のない人は、読者登録取り消します。多分いないとおもうけど。・・・

文章中に出てきた、書店やら飲食店やら、神保町紹介入門コースは、そのうち取材をして写真入りで、バーチャル新保町探検みたないページをつくります。 店名が○○のまま紹介しましたが、実名はそちらで詳しく。

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      今日はここまで ではまた。
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【編集長より】

 大好きな街、ってありますか。わが青春の街があったら、是非紹介してください。
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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一  

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