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ミクロコスモス総合版2003年2月7日切断面の響 詩作研究室 1
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                発行 ミクロコスモス編集部

【編集部より】

 同人「切断面の響き」では、詩作の相互錬磨、批評の場として「詩作研究室」を続けていますが、ときたま、その一部を、そのまま総合版に掲載して、詩作の裏側を紹介してみる事にしました。

【同人代表より】

詩作は孤独な作業だと言う意見もありますが、「伝える」という機能からすれば、互いに表現を批評しあうのも、詩による会話を成立させる一助となると、考えます。詩作の批評の場そのものが、さらに一編の詩となるよれば、それは最高の作品なのかもしれません。

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  同人 切断面の響き 試作研究室 1
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【読者作品】


    屈折しない光


  横断歩道に事故で飛び散った車のガラスが光る
  信号を屈折させて、赤に緑に光る

   詩からも、空からも
   いちばん離れている、こんな所でも
   光はきちんと屈折する

  着飾ざられた宝石がライトを屈折させる
  ここでの虚飾のため車を走らせ、物を抱え込む

   詩からも、空からも
   いちばん離れている、こんな所でも
   光はきちんと屈折する

  私は、それらを区別したくない

  横断歩道に血が滲み
  宝石をめぐって騙し合いが続く

  この砂浜はあたたかい
  光はきちんと屈折して
  砂粒すべてが光っている

  太陽の下で正しく雨がふり
  光はきちんと屈折して
  虹のかかる昼下がり

  私は、それをはっきり区別したい

  強い魂よ
  すべの道を砂浜のように温かくせよ
  すべての人の心に
  屈折しない光を放たせよ


【作者の一言】

夜の路面は哀しい世界です。乾き汚れたアスファルトに散る小石に、行き交う車のライトがせわしく影を落とします。その路面は時に交通事故の血を吸い込み、破片が散らかされ、油にまみれて、大量の車がそれも蹴散らして、そして何も無かったように、存在を続けます。
この詩は、アスファルトの上にふと見たガラス片に屈折する信号の光に心動かされて作りました。なんとも哀しい光景だったからです。

そして、そんな哀しい風景を成立させている社会のしくみや、人々の心の「すさみ」を、道のガラスから知らされた気がしました。

しかし、同時に急に脳裏に浮かんだのは、昔訪れた南の島の砂浜の感触と、みずみずしい空と虹でした。

なんだか、強い魂をもった人達が、真っ直ぐな感性でこんな哀しい事を、やめさせる日が来る事を願って、つたない詩につづってみました。

【評者A】

 草も生えない、殺伐とした路面ほど、哀しい地球上の土地はないでしょう。それは評者も強く同意します。そして、ガラスに光る信号の光などは、実際に体験したゆえの、強い印象を与えてくれます。

 しかし、屈折という言葉を持ち出した時点で、思想の道具としての言葉の利用となって、技巧性と形式の罠に捕まる危険をおかしています。屈折と言う事で「対句」として使われる「宝石」も、車の横溢の根元となっている物質主義への、比喩としては少々陳腐なものとなっています。

 南の島の砂浜と空の描写が、どうも定型的です。作者は昔の事として、確かに身体にそのみずみずしい体験をもっているのだから、もっと詳しく思い出して、より肉感的な表現ができるはずです。ガラスの破片をみつめたような、緻密さで砂浜のやさしさを表現されたら、より強い詩となるはずです。

「それを区別する」という部分と「強い魂」への呼びかけは、思想的な部分でしょうが、読者が一読して分かるような呼びかけにはなっていません。場合にはよっては、永遠の謎のまま読み飛ばされてしまうかもしれません。もっと的確に伝える方法を模索してください。

より緻密な言葉が熟成される事を期待します。


【評者B】

その意図や訴えかけには強く賛同しますが、どうにも弱い詩になってしまいそうです。この詩の意図は告発であり、呼びかけであるのだから、あまり遠回しな表現や、沈静する心を歌ったりしたなで、強く意図を言い放ったらどうでしょうか。

「虹のかかる昼下がり」のような南の島をリゾート地にしないで、そこに強く生きる人々の暮らしとの連携をも模索する、図太い表現も出来るはずです。前半の切り込みは、見事だとおもいますので、後半でもっと直裁で、強い力を発揮されたら、力強い詩、さらには社会的な呼びかけにして欲しいです。身体に宿る訴えが、より強く響く事を望みます。

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      今日はこここまで ではまた。
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【お知らせ】

 詩作実験室で、批評の場にのせて欲しい作品がありました、編集部までお送りください。みんな口うるさいので、何を言われても怒らないという条件付きですが。批評された後、自己添削して、作品を仕上げていただき、よければ発表させていただきます。
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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部

   編集長  森谷 昭一  

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