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ミクロコスモス総合版2003年1月29日なと氏の古典「梁塵秘抄2」
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発行 ミクロコスモス編集部
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なと氏・よもぎ・編集長の古典談義「梁塵秘抄2」
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【今日の原文】
仏は常にいませども
現(うつつ)ならぬぞあはれなる
人の音せぬ暁(あかつき)に
ほのかに夢に見えたまふ
【なと氏】 さあて、お約束どおり、梁塵秘抄より。これも有名な歌です。解釈する前に、単語の意味を押さえておきましょう。なんだか、授業みたいだけど。
二人にききます。現(うつつ)はどういう意味でしょうか。
【よもぎちゃん】
ああ、なんか聞いた覚えがある。かなり解釈が難しい言葉だったな。とりあえず、簡単に現実だか夢だか分からない、ぼうっとした状態のこと。「夢うつつ」とか言うあれ。
【なと氏】
それは古今集以後の誤用。ならぬぞ、と否定されているから、ここではそうではない。
【よもぎちゃん】
そうね、反対の意味かしら。現実のこと。夢とか神とか仏とか虚構のものの反対。『源氏物語』蛍に「うつつの人もさぞあるべかめる」とかあるあれ ?
【編集長】
うつつの語源をご紹介しますか。語源は私におまかせあれ。
まず「うつ」は「空」という意味。中空のいれもの。うつろ、うつわ(器)。それから、中空の場は、子宮や籾や蛹のように生命が生まれる所という意味をもつ。竹取物語で竹の中の(うつ)な場に姫がうまれたでしょ。
それから、創造の場としての「うつ」において、目に見えるものとしてこの人間世界に存在するようになることが「顕し」、あるいは「現し」となった。・・ということ。
うつつ は「うつし(顕)」の「うつ」を重ねた「うつうつ」の意味で、人間世界に実在している意味となった。・・というのもある。 ちょいと、国学の入った語源論かも。
【なと氏】
まあ、確かに背景はそんなものだけど、この時代における用法はどうだか難しい。他に
「うつつにも似ずたけく厳(いか)きひたぶる心いできて」
源氏物語 葵の巻
のように「目ざめていて、意識がはっきりしていること。」という意味にも使われている。
さて次に、「あはれ」だけど・・・・難しい言葉だ。この語の解説はおいておいて、いくつか解釈を引用してみます。
【口語訳1】
仏、つまり阿弥陀如来は、不滅なものとしていつも存在するのだが、目に見えないことが、尊いのだ。人の物音のしないような静かな暁には、かすかに夢の中に姿をみせてくださいます。
【口語訳2】
阿弥陀如来さまは、いつも私たちの身近にいらっしゃってくださるのですが、私には迷いが多いので、お姿を見ることができず、哀しい事です。たまたま一人で眠った夜の暁などには、夢のなかで、かすかにお会いすることができますが。
ふたつの違いは分かるかな。
【よもぎちゃん】
「あはれ」の解釈ね。【口語訳1】は尊い、貴重だと解釈して、【口語訳2】は、哀しい、寂しいとか解釈している。大差ないようだけど、仏の考え方に違いがでるわね。【口語訳2】だと、きんきらきんの阿弥陀如来だけど、【口語訳1】だと、阿弥陀如来もぼうっとしている事になるわね。
【なと氏】
まあ確かに、【口語訳1】の方が日本風の仏教観かもしれない。どちらにせよ、阿弥陀如来を礼賛している事は変わらない。この歌はたくさんの法門歌の一編なので、前後の意味合いからは、どちらも正統解釈とする事ができる。
【編集長】
実は、最初に読んだ時に、全然別の事を考えた。それはプレヴェールの
天にましますわれらの父よ
どうぞ天にとどまりください。
地上は われらがのこりましょう。
こちらも 時折り素敵です。
というのを思い出した。プレヴェールの詩は、別に神様・仏様とかを否定するわけでないけど、神様は神様で、人間は別の地上世界で、苦しい事もあるけど、時々は人生を楽しみますから・・と言う意味でしょ。
【なと氏】
なんだか、本居宣長の解釈に似ているけど。仏教や儒教に対抗して、「あはれ」日本人の心として、自然な感情を最大の価値をした思想だけど。ちょっと無理な解釈です・・・
【よもぎちゃん】
人の音せぬ暁(あかつき)に ほのかに夢に見えたまふ
の部分は、どう解釈するの。
【編集長】
・・とにかく、ぼうっとしていて、なんだか分からなくて有り難いと言う意味。
【よもぎちゃん】
ねぼけ編集長そのものね。編集長が妙な解釈するなら、それならば・・・
阿弥陀如来って法とか法則そのものでしょ。「あはれ」は、寂しいと単純に考えて・・
宇宙の法則は、いつも世界そのものだけど、
現実は理屈どうりにならくて、寂しいわ
あけがた、ばたっと起きてみると
ちょっと理想が見えたりする
すごいでしょ。・・よもぎ訳よ。
【なと氏】
[二人を無視の様子で]ええと、読者のみなさま、ふたりの妙な解釈はほっておいて、【口語訳1】が、ほぼ正統な解釈ですので、これを覚えてください。では終わります。次回は、まだ未定。
なお「もののあはれ」については、後日詳しく、講義いたします。
【編集長・よもぎ】
まだ言いたい事があるつてのに勝手に終わるな・・・・
そうだ、そうだ・・・
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今日はここまで ではまた。
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