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ミクロコスモス放送局2002年12月23日夜の内緒話「時計のジャズクラブ」
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               発行 ミクロコスモス放送局

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      夜の内緒話「時計のジャズクラブ」
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ミクロコスモス放送局のDJ番組の台本です。

ジャズに合わせて、とりとめない話をする「夜の内緒話」のコーナーです。今日は、小さなジャズスポットが舞台です。実在はしないけど、例えば横浜の港近くのちょとした店を思い浮かべてください。

曲「ビルエバンス・アローンより」 CI


 「変わっていないな。」

久しぶりにやってきたジャズクラブで、粗末な椅子ににひとり座って男は思った。

「時計はそのままだ。指してる時間まで同じだ。」

20年以上も前だった。男は始めてそのクラブに来た。その時、目に入ったのが止まったままの古風な懸時計だったのだ。男は、何もかも茶色に染まった、そのジャズクラブを繰り返し訪れるようになった。時に独りで、時に人も誘い。いくどか女も連れてきた。

「あの時は、俺と彼女の他には客はひとりだけ。クァルテットを3人で聴いてたって事だ。でも最後まで、やつら夢中でやっいたな。」

その時のクァルテットも、今では世界的になっている。

 ジャズの似合う町を男は去り、あらゆる所を渡り歩いて、あらゆる事をして、あらゆる事を知った。出会いも、裏切りも、別れも喜びも、悲しみも。

  
(曲を大きくして、多少間をとる)

ある時、ふとこの町に戻って、港の近くの通りを歩いて、このジャズクラブの前に来てしまったのだ。

 「どうも、思い出がありすぎるな、ここは。」

男は思った。でも、なんとなく時効って言葉を思いうかび、ちょっと決意して、ドアを押したのだった。

  
(ここでドアの音)

あいかわらず、客は少ないようだが、熱気は同じだった。

  「ぶら下がっている模型の飛行機もおんなじだ。」

ステージを見ると、若い連中がビルエバンスをやっていた。

  「今日のピアノも、懸命にやっているな。」

男は昔とおりに「ジンジャエール」を頼んで、深く息をしてから、ピアノを聴いた。

  「俺も夢中でやったんだが。」

男は、店で変わったところを探してみた。

  「俺だけかな・・・そうか、人だけって事か。」

そう、店も店の物はなにもかも変わっていなかった。そして、男はふと思った。

  「あの時計・・、ちょっと出来すぎてるな。」

一度音量を上げて、後に FO

   
FO=フェードアウト FI=フェードイン  CI=カットイン      

【編集長より】

今日の「夜の内緒話」のライターは(こ/あ)さんです。ちょっと毛色の変わったライターが加わりました。まだ、未完成で、また書き替えるそうです。そのうち番組に作ります。

みなさんジャズは好きですか。編集長はこれがまた大好きで、東京・横浜のジャズスポットの梯子をしてました。(こ/あ)さんの話しのように、今は有名になったけど、昔は客が3人だったなんてアーティストもいましたね。

過去のジャズメンで、一番好きなのは「ビルエバンス」。彼のピアノは、とっても透き通っています。中でも最高傑作はこの「アローン」というアルバム。彼の始めてのソロですけど、なんともお洒落で、「極上」って言葉がぴったりです。これを聴きながら過ごす夜は最高です。


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      今日はここまで   ではまた。
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【お知らせ】

夜の内緒話のコーナーは、いつもこの曲から始まります。今後も使いますから覚えておいてください。
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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一  

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