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ミクロコスモス総合版2002年12月19日ミニ哲学講座「心身問題」
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               発行 ミクロコスモス編集部

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       ミニ哲学講座 「心身問題」
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 「哲学って何してるの?」こういう疑問はいつも出て来ます。「船舶工学」 という「学」は、みれば誰でも「船をつくる方法を研究してる」とすぐ分かり ます。「法学」「考古学」なんてのも良く分かります。「社会学」「宗教 学」あたりになると、何が目的なんだか分からなくなって来ますが、なにやっ ているのか、想像はつきます。しかし、「哲学」となると、目的も、実際にや っている事は一般には分かりません。

 というわけで、「ミニ哲学講座」では、哲学者って、何をやってるんだか、 少々見本を切り出してお見せしたいと思います。スイカとか何かを議論しても 味は分からないので、とにかく断片を取り出して食してみることにします。第一回の切り出しは「心身問題」です。

 心身問題つて「心」と「身体」の問題です。それじゃ、「文学は『文』の 『学』てすよ。」ってのと同じでなんだか分からない。そこで問題の例

「どれだけ人間はけずったら命がなくなるか。」

これが心身問題です。順次、命ある 人間を削ってみましょう。


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 髪の毛を切っても死にません。少々みかけは変わるかもしれませんがいのちはなくならないでしょう。髪は女の命なんて 言う人がいるかも知れませんが、命には別状ないのが事実です。爪やら、 髭なんかも同類でしょう。
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 もう少し削ってみましょう。事故で片腕、落としてもちゃんと治療すれば死にません。人間としての機能 は少々不便ですが、人間の命としては同等と思われます。腕や手がないからと いって生命が減っていると考えれば、障害者への差別思想となるでしょう。色 々困る事は多いけど、両手両足なくても、一人前に生きてはいけます。

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 内臓はどうでしょうか。手足と違って、削ると死んでしまうでしょうか。胃 なんかは大部分切除しても特別な栄養物とすれば生きていけます。腎臓は片方 でも生きていけます。「心臓は削ったら死んでしまうよ。」そう言えばそうで す。では、心臓は命なんでしょうか。

確かに、そう考えた時代もあったし、現在でも心臓が止まる事が死の判定基準のひとつとなっています。「命って心臓だ」と言うことで、みんなが了解すれば、心身問題は解決。 結論が出てしまいます。しかし、そうもいかないようです。

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「心臓を機械に置き換えて、生きていたら、それはどうなる?」実際に近代医 学では、そんな事が出来るようになってきました。、将来臓器を移植したり、 みんな機械に置き換えたりして、サイボーグとか言われるものが出来たらどう なるのでしよう。どこまで、人間の体は機械に置き換え可能か。

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 これを移植したり機械に置き換えたりしたら「人が人でなくなる」ってものがありま す。「脳」です。脳を取り替えると、別人になってしまいます。脳がなくな れば、その人の命もお終いという事になります。脳が心だ。さあ、これで心身問題は解決 でしょうか。

「唯脳論」なんて言葉が出来ている位ですが、脳を命のありかと考えるのは、 最近の主流でしょうか。人間が人間であるのは「考える」からである・・と言 うのが根拠でしょうか。

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さて、脳で考える事が命の本質ならば、他の部分は余計なんでしょうか。ガラ ス容器の栄養装置にプカリと浮かんだ脳に、神経替わりの電極をつないで、テ レビカメラやら、耳の替わりのマイクやらつないだら、それで生命でしょう か。そんな事考えて、死んだら脳を冷凍保存しろなんて遺言を書いてある人が いたそうで、実際に冷凍されて、未来での再生をまっているそうですが・・・

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いや、考える事が人間の命の本質なら、何も脳なんかいらないでしよう。脳と 同じ機能を持つ、きわめて優秀なコンピューターを開発して、誰かの知識を脳 からすべて移したら、そのコンピューターは生命を持つ事になるのでしょう か。逆にコンピューターをどんどん、巨大化していったら、どこかで「自我」 をもって、自分を主張したり、生命としてふるまうようになるのでしょうか。

「2001年宇宙の旅」の宇宙船のコンピューター「ハル」みたいな話しですね。 こう考えると、「命は人の身体にはない」と言うのが心身問題の結論になりま す。それでお終いかと言うと、まだ続きはあります。


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 考える事が生命だ。コンピューターの情報が命だとすると、「命は言語」で出来ている事になります。プログラムや情報は言語の一種で、ふつうの言語に還元できるものだからです。もうこうなると、「いのち」というのは、生物の体から離れてしまいます。

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 「人間の体には命がないなら、命はどこからやってくるの?」という事にな ります。霊魂なるものを考えたり、別の身体に「輪廻転生」するとかいう思想 になったりします。神様が与えるとか、永遠に変わらない生命のもとから貰っ てくるとか言う話しにもなります。

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さらに、話しをどんどん展開させるとどうなるでしょうか。「宇宙は生命その ものだ。」とか「不滅の永遠の生命が宇宙を越える所に存在して、それが個別 の身体に宿る・・・」てな話しになってきます。ここらは完全に宗教領域です。でも、これも心身問題という哲学の領域ではあります。

心身問題への入門のための「人間はどこまで削れるか」という話しを終わりま す。質問を受けましょう。

【質問】なんだか、ばばっと言われて、騙されている気がするんですが。

【答え】実は、少々騙しています。細かく指摘されたら、間違いを含んでいるのです。片腕なくても命に別状ないなんて言ってますが、実際は大問題ですよ ね。しかし哲学ってのは、あんまり細かい事は、ほっていて全体的な事を考え る学問なんです。全体の流れと言うか、大きな議論の枠は正しいと信じてくだ さい。

他人の肝臓をもらうと、脳は自分でも、提供者の個性が少し移ってくるなん て話しもあるようです。こまかく検討すれば、どの議論も本当はもっと複雑な んです。

【質問】心身問題って「心」と「身体」の問題でしょう。どうして、削ると 「命」がなくなるって問題になるんですか。

【答え】心と命って同じと考えいます。哲学って細かいと事考えないものなん です。命あるものだけが心をもつているでしょう。石に心はありません。

【質問】心身問題なんて考えて、何の役にたつんですか。

【答え】上の説明を良く聞いてください。途中で出てきた議論ですが、ちゃん と考えたら、どれも現代の大問題だと言うことが分かるでしょう。命のありか たが、心臓にあるか、脳にあるか。「脳死」の問題、「死の判定」の問題は、 世界的な大問題です。脳死問題も脳を細分して大脳・脳幹・・とか技術的に複 雑な問題なんです。臓器移植だって、良し悪しは心身問題が基本です。

【質問】心身問題を解くには、どんな勉強が必要になるんですか。

【答え】そりゃ、この世のすべての事を勉強する必要があります。医学やら、 心理学やら、コンピューターやら、大変です。最後の方で説明したように、宇 宙論やら世界中の神様の事やら、世界中の民族で、どんな考え方をしたかと か、勉強する事は沢山あるのです。

逆に言えば、始めに心身問題があって、後から色々なが学問が、細かいことを 議論するために成立したとも考えられるのです。身体つまり「物」がどうやっ て「命」になるか考えるとして生物学が出来て、DNAがどうのこうのと研究 しているのです。三位一体論とか、宇宙と生命との関係を考える過程で出来上 がっていった神学なんて学問も、心身問題をやっているです。

【質問】他に心身問題に関係する事柄ってあるんですか。

【答え】山ほどあります。「心のありか」という事で心理学の問題です。深層 心理学なんてのは、心を「考える」と言う領域から、身体的な方向にもってい ってます。心身症なんて医学の問題がありますが、これもまさに心身問題で す。精神医学やってる人は哲学を良く勉強してます。

言葉の問題も関係して来ます。考えるって言葉なしに出来ないでしょう。そう すると言葉は命とかいう事になって、言霊論とか出てくるのです。人工知能の 問題とか心身問題です。

哲学って、ばらはらに議論されている大問題を、いっしょくたに「一挙に」解 決しよとする欲張りな学問なんです。

【まとめ】

哲学でやっている問題のひとつに「心身問題」がある。人の身体のどこに命は 存在するか。物はどこから命になるのか。命の源はどこにあるのか。なんての を、あまり細かい事は個別の学に任せて、大きな視野で考える。現代の大問題 の大半は、心身問題問題に含まれる。

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      今日はここまで   ではまた。
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【編集長の小失敗】

 安物の「ミキサー」を購入した。玄米を細かくして「お粥」を作るのが主目 的なのだが。買ってきて、すぐに使ってみた。よく分からずに、お米を入れて スイッチをいれた。

お米が天上近くまで、吹き上げた。・・ふたをするのを忘れた・・というか始 めてで良く認識していなかった。

・・・「使用説明書は良く読みましょう。」・・そんな非常識なのは少ないっ て・・・考えれば当たり前でも、気が付かない時ってあるんですよ。

次はジュースを作ります。
 
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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一   

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