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ミクロコスモス総合版2002年10月26日切断面「小説の試み」
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発行 ミクロコスモス編集部
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切断面の響き 小説の試み 1
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詩ではなくて小説 1
狭義の「小説」とは、複雑な人生模様を描いて、それを平静にみつめた文章の事です。読み終わった時、「ああ、人生とはこんなものなのだ。」と言う思いをいだかせる文章表現が狭義意味での小説なのです。皮肉や冷徹な精神ともに、それを超越する深い人生への愛情と肯定が、小説成立の必須条件なのです。
それに対して、遠い世界へのあこがれや、言葉を越えるものを描くは「物語」です。言葉の響きに意味を預け、超越世界を探るのが「詩」です。
「長いのが小説で、短いのが詩」などではないのです。だから、詩より短い小説というのは可能です。そんな詩より短い小説を試みてみました。
────秀次の終戦──────────────────
秀次は終戦しばらくして、帰還した。身寄りも、故郷も、夢も、思想もない彼にとって、帰るも帰らぬも本当は問題ではなかった。また戦争でもあればとも思ったが、かわりに高度成長期という戦争とあまり変わらないものが、修次をなんとか運んでいつた。何も思想もないまま、平成の手前で経済狂乱と言う戦争を終わらせるように修次は死んだ。
────「方形の人生」──────────────────
1900年に生まれた彼は、20歳で家業を継ぎ、30で結婚し 60で引退して、80で死んだ。激動の時代にもかかわらず、彼の一生は確かで、どこか整理されていた。
─────「百合恵の背幸」─────────────────
百合恵は、その二人の求婚者とのそれぞれの未来を想像してみた。貧しいが豊かな精神生活。精神は退屈だが、豊かな生活。どちらをとっても、幸せであると想像できた。そして、一人の孤独な暮らしも考えた。それも幸せである事を想像され愕然とした。なにをしても幸せである。百合恵はそれに背きたかった。そして何をも決めない人生を続けた。少しは不幸になる事ができた。百合恵の背幸の人生が完結した。
─────「蔵にさす光」─────────────────
大阪の外れ、蔵の町。そこで生まれ育った佳枝には、その町だけが世界だった。あらゆる時代の波にのまれる事なく、町は残った。佳枝も、変わらない人生を貫いた。その臨終を告げた医者が携えてきた茶皮のカバンさえも、長い歳月の中で変わらぬものだった。
く/あ
──────「血の選択」────────────────
隆一は己の血というものを思った。母方、父方のそれぞれ祖父祖母。四人の性格と人生が、己の中に4分の1ずつとは言わないが確かに生きている事は否定できなかった。だが、それは運命では、隆一は選べる材であると思う事にした。隆一は、母型の父のきらびやかな人生と、父方の母のしとやかな人生を選び、己の人生を調合した。それは、昭和という時代を生きるには、良い選択であったようだ。
─────「冬の蛍」─────────────────
「冬に蛍がとぶわけないだろ。」そういう聡の言葉に、好子はとまどった。凍てつく冬のオリオンの下に、確かに十数匹の蛍が、森の木立の間を飛び交うのを見たのだった。もちろん幻覚でも、星を見間違えたのでもない。物理学者の聡と、生物学者の好子、科学者夫婦の人生は、なにもかも順風満帆であった。ただ、ひとつだけ、それを濁す出来事といえば、あの冬の蛍であった。
さ/い
─────「四畳半四倍」─────────────────
若き日、由江は取り散らかした四畳半で、来るべき未来を考えていた。部屋の割り切れない位置に膝を抱えて座ると、時代が自分を押し潰すようだった。中央に正座して目をつぶると理想の未来が浮かんだ。壁にもたれると、何もかもが変わらず過ぎていくように思えた。窓から僅かに見える空と町をみると、灰色ではあるがが希望が見えた。こうして、年月がたち、多少とも夢と希望の方に由江の人生はシフトしたが、18畳の仕事部屋で、由江の取る姿勢と相対位置は、今でも変わらない。 も/あ
─────解説─────────────────
「小説の一節」ではありません。それぞれ、完結した小説です。これなら、電車の中で、手帳と鉛筆で創作できます。できたら、同人宛にお送りください。
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今日はここまで ではまた。
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【お知らせ】
読者のみなさんも、こんな「小説」を書いてみませんか。できたら、編集長宛お送りください。「詩ではなくて小説」で、世界で一番短いものの記録をうち立ててみませんか。
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ミクロコスモス出版 ミクロコスモス編集部
編集長 森谷 昭一
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