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 ミクロコスモス総合版2002年10月23日詩の問題1「講評編1」
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                発行 ミクロコスモス編集部

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    詩の問題 1 講評編 1 
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 「詩の問題」は、「水滴集」を出している、「切断面の響き」の同人の詩人達 が、作ってくれた詩で人生を考えるための「練習問題」です。読者のみなさん からの解答をいただきましたが、今回はその講評です。問題は次のようなもの でした。

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     詩の問題  1 
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       自分で・・

   主体性・・とかなんだろうか
   小さい頃から
   自分から、何かを選ぶ事はあまりなかった

   この本は素晴らしいよと渡されれば
   喜んで読んだ
   それは、みんな楽しかった

   この曲をきいてねと贈られれば
   なんども聞いて
   好きになった

   私も大きくなり
   私のことを好きだと言った人を
   私も好きになり
   その人の好きなものを、残らず読んだり聴いたりした
 
   いつもこんな調子で、私の本棚には
   人から勧められた本ばかり揃った
   でも、本の専門家の友人が見て
   「教養あふれる良いコレクションね。」
   と、言ってくれた。
 
   いつしか、本を教えてくれた人も、
   曲をくれた人も、歳をとり
   そして、私を好きだと言った人も
   先に天国にいき、私はひとりになった

   誰かが私に素敵な本を教えてねと言うと
   私は、沢山の人の思い出とともに
   紹介された本を贈った
   それらは不思議に、まだ書店にも並んでいた

   夏も終わりのある日
   頼まれた本を買いに本屋に行った
   なぜか突然、不思議な位に自分から
   生まれて初めて自分から
   一冊の本を選んだ
   それは

   (        )

さあ、ここから「問題」です。(   )に適切な言葉をいれて続けてください。

一言でも良いし、1行でも良いし、数行でも続けて、なんなら小説書いてもか まいません。
前の部分を多少変えてもかまいません。
この詩を完成させるはあなたです 。感動の名作に仕上げてください。

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という問題でした。さて以下読者よりの解答例です。


【解答例1】数人より

   ・・・・・・
   生まれて初めて自分から
   一冊の本を選んだ
   それは

   聖書、般若心経、浄土三部経、孔子、法華経、資本論・・・

【評】
 ・・とか書いた人。ミクロコスモスの読者には、色々な宗派の人やら○○主 義者とかいるもんで、そんな答えもありましたが、ちいとこの詩の状況に合わ ないのではないですか。だいたい問題の詩の読解力不足と言うことで「没・ ・」。

 だいたいね、この詩の主人公は、とっても気がよくて、なんでも受け入れる人なので、彼女の本棚には、コーランだ、葉隠だ、霊界物語だ、毛沢東語録だ、 資本論だ、サルトルだ、○△経典だとか、もうとっくに、○○主義者達から勧められた本は全部並んでいます。凄い賢い人なんですよ、彼女は。本棚に は、その種の本は揃っています。

 ただし、それらを全部読んだりはせず、彼女は一カ所しか読んでないのです。 どこかと言うと、くれた人が「ここが一番大切なとこだよ。」とか「私が一番 感動したとこだよ。」とか付箋をつけてくれた所です。でも、そうして彼女は、多く の名著から、一番の大切なエッセンスを読みとる事で出来たのです。主体性がない 人は、お馬鹿だと思いこんでません。彼女は主体性がないからこそ、広大な教 養を人から受け取る事ができたんです。

ミクロコスモスは、レベルの高い同人誌なんで、世界の基本的な 哲学やら宗教やら思想やらは、基本の所をとっくにクリアーしていて、その上 の詩情を求めるというレベルで解答してください。



【解答例2】   k/s

   生まれて初めて自分から
   一冊の本を選んだ
   それは

   善財童子の物語
   そこには、一人の求道者が
   智慧を求めて、53人と出逢う
   振り返ると、私もそんな人達に
   出逢って、智慧の本をもらった
   そうして、たどりついた今

【評】

 華厳経入法界品の引用でしょうけど、解答例1の人達ほどでないでしょう が、まだまだ観念的で、思想まるだしです。方向は悪くはないとしても、なん でもかんでも自分の持っている思想に、物事を引き込もうというのは、硬直的 になる。思想をもって、でもそれがくだける程に、詩情の方に自分を投げかけ るつもりがないと、詩は成立しないのです。10点満点1点。もっと、たくさん 詩を読んでください。詩とは実存的で、現実の事物に近い、生きたものに写さ れるものです。


【解答例3】 と/な

   生まれて初めて自分から
    一冊の本を選んだ
    それは

  「本を作る本」 だった
  
   私は、初めて
   文章を書きたくなった
   その本のとおりに
   出逢った素敵な人達
   読んだ美しい本の事など書き綴り
   一冊の本をつくった
   みんなの思い出がひとつになり
   私になった

   【評】

うん、10点満点まあ6点。そんな本、確かに読みたくなりますよね。でもね、 彼女、手紙は沢山書いたから、文章はもともとうまいのです。設定のつじつま あわないでしょ。最後の「私になった」と言うのも、悪くはないけど、まだち ょいと観念的かな。詩なのだから、情景と音楽性が欲しかった。


【解答例4】  す/き

   生まれて初めて自分から
   一冊の本を選んだ
   それは
   「弦の量子論と超弦理論」

   帰って読んだけど
   私には、なにひとつ分からなかった
   だた、ひとつ分かった事は
   まだ、まだ大きな世界が
   広がっているという事が
   分かったこと

【評】

 だから・・、彼女は賢いんで、数学者の友達も多かったんで、見当違いして、そん な本を買ってしまわない程度の物理の識見はあるのです。・・・まあ、彼女がやっぱり 自分では本が選べないたちで、自分で選んだらやっぱり失敗したという事を演 出したと言う所は評価しましょうか。だったら、もっと、とてももなく一部の 人にしか用のないような、「 旋盤加工における潤滑油利用 」みたいな本に すべきだったのです。まあ、3点。そんな彼女も、知らない世界があったと終 わらせようとますが、でもとにかく賢い人なんだから。


【解答例5】や/と
 
   生まれて初めて自分から
   一冊の本を選んだ
    それは
   「憎しみ」と言う名の本

   世界のあらゆる憎悪と悪意が記されていた
   私が初めて目にした、悪の世界

   でも、沢山の人からもらった勇気と美しさは
   それらを中和し、静かにあやし
   やがて、うまれた一つの心
   静かな心が少し熱くなった
   
 
【評】 まだまだ、観念的で、詩ではないと言う事でしょう。静かな知識と、 憎しみと悪の世界との葛藤により、慈悲だの愛だのが生まれるという、思想の つもりでしょうが、「勇気と美しさ」とか「うまれた一つの心」とかは、詩の 言葉とはいえません。2点。もっと、一段具体的な事物に象徴させる技巧を使 った方が良いでしょう。

 勇気ある本棚の本達は、美しい言葉で教えてくれた
 憎しみと、贈られた友情達は、戦って
 静かな・・・

とかとする方が、より詩的になります。これが象徴的な手法です。


【解答例6】  め/と

   生まれて初めて自分から
    一冊の本を選んだ
    それは

   真っ白なページばかりの本
   でも、不思議な香りかして
   めくるたびに、光や闇が跳びだした
   超音波も放射線も宇宙線も飛びだした
   最後のページを開くと
   ブラックホールに
   ドッカーン・・私は吸い込まれた


【評】 馬鹿っ・・・ アホかいな。SFじたてにでもするつもりですか。 0点。詩だから、音や香りや情景が必要だってのは分かっているらしいけど、 とにかくお馬鹿。5月17日号参照のこと。だいたい思想性ゼロでしょう。ちゃ んと問題読んだの?


【解答例7】 無名氏

   生まれて初めて自分から
    一冊の本を選んだ
    それは

   「遠州森の石松」

   旅行けば〜 駿河の国に茶のかおり
   ペン ペン ペン ペン ・・
   そうして、私は
   姉御になった〜
   ペン ペン ペン ペン ・・


【評】

 ・・@@@@@@ 大馬鹿・・・「はずし」をしようとしているらしいが、 ちっとも可笑しくない。はずすなら、もっと見事にやれ。マイナス10点。
   


 【解答例8】  も/あ

      生まれて初めて自分から
     一冊の本を選んだ
      それは

     「編集長のがらくた箱」

      ミクロコスモス編集長の
      名作、定価980円
      失敗満載、お笑い満載
      そうして、私も
      ミクロコスモス読者になった


【評】

・・・編集長でしょ。こんなもの混ぜたのは。そんな低レベルの本なぞ混ぜな いで。もう評価保留と言うか、退学処分。参加禁止。


【評者より】
 と、どんどん盛り下がってきてしまったので、今回はここで、お終い。ほん とに、レベルに達するのがまるでなし。

 いいですか、問題の詩を良く読んでください。そして、高い目で読みとって ください。詩の「私」は、主体性がないという設定ですが、多くの人に愛され ている事から分かるように、きっかけを与えられた本に対して、実は積極的に 読み込んでいるのです。

 無用に自我を発揮させなかったからこそ無心で、だから彼女は多くの人から 愛されたし、またとらわれない広い知識をもちえたのです。

そんな彼女が、人生も終わりに近づく頃、ふとみせた自分。それは、何かを考 えてもらいたいのです。自我を消し去る事により広がる世界。それは初歩の段 階。そんな段階を通りこした世界で、究極的にみつける「私」を表現してほし いのです。

 また、詩の問題ですから、観念的になったり、説明的でなくて、あくもでも 具体的で、現実的で、しかも、情景と、音と、香りまでするものでなければ、 詩ではありません。良く情景を思い描いてください。この主人公の顔立ちと か、喋り方とか、どんな人と出逢い、彼女の夫になった人はどんな人で、どん な本を、どんな人達から紹介されて、その本棚はどんな材質で、どの程度の大 きさで、彼女の部屋にはどんな午後の光が差し込むのかとか・・・  もっと  ぐぐっと来る、情感あふれる解答を期待します。

では、感動の名作をめざして、全員もう一度やり直し。「合格点なし」という 事で、また再募集です。今年の大晦日が締め切りです。
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   今日はここまで   ではまた。
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【お知らせ】本日はなし。

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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一