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  ミクロコスモス学園物語2002年10月18日第1回「はないちもんめ」
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         発行 ミクロコスモス編集部

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     いちもんめ学園物語 
    第一回 はないちもんめ
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 いちもんめ学園にいわゆる入学式というのはない。なんだか、なんとなくはじ まるのだ。一度ホールに集められた新入生達は、簡単な説明を受けたあと、ク ラスに分かれて、教室にいって、すぐに授業。なんとなく、いちもんめの学校生活が始まる。

 上級生と一年生が集団で出逢うのは、生徒会主催の「花いちもんめ」をする時である。 「勝ってうれしい、花一匁、あの子が欲しい・・・交換しよう・・」ってあれ だ。

 いちもんめ学園のもとのもとは女子校だったから、多少「女の子な」伝統が生徒会に代々伝わっ ている。「しば」と言われる、巨大緑地に集まり、春の花につつまれ て、大集団で花一匁をやる。

 まあ、全員が手をつなぐ訳にもいかないので、数十人づつ分かれてやる。「だ ん」と呼ばれる、切り株の形をした小さな舞台に生徒会長やら委員達がのっ て、みんなに号令をかける。

 あんまり、挨拶とか説明とかのない学校で、「やれば分かる」って事で、何でもい きなり始めるのが校風といえば校風なのだ。何も説明なしに、生徒会長の草木 美子(くさきよしこ)が大声で「みっなさ〜ん。はないちもんめをやりまあ〜す。こけないよう に、やりましょう〜。では、いちにっさん・・・」

 きょとんとしている一年生は、先輩達に手をつかまれて、列に加わる。いい 加減なようで、人さばきの技術はもっているらしく、いちもんめ委員とか書か れた、花飾りのついた帽子をかぶった委員達が、適切な場所にひかえて、みん なを誘導して列を作らせる。

 トランシーバーをもって、あちこち取り仕切っているのがいる。どうも、影 にはちゃんと演出担当がいるらしい。一年生はみんな、新品のぴかひか制服だ が、上級生達は奇妙な格好をしている。平成初期にいわゆる「コスプレ」とか 言われたような服装だの、どこから借りてきたのか各国の民族衣装やら。列の端には「森のリスさん」みたいな少し 汚れた着ぐるみを着た実行委員がつく。

 演奏があったり、曲を流すなんて事はなく、ただ生徒会長のどでかい声と、委員達の叫び で、大イベントは進行していく。確かに大イベントで、見物者も多い。保護 者やら先生達も、周りで見学しているし、校内に入れない外部の人まで、生垣ごしに見物している。新聞社やら放送局も取材にくる。といっても、地方紙と 学園おかかえのミクロコスモス放送局だけだか。

 始めはばらばらしていた列も、だんだんと揃っていき、新入生の声も大きくなってい く。単純にこれをえんえんと繰り返すのみである。「だん」上で、声をはりあ げている、生徒会長が時々、

「その列、ちょと大きくつなぎます。右の列 と、左の列、つながれ〜」

とか指示すると、着ぐるみの委員が、列を引っ張っ ていき、ふたつのグループをつなげる。

 「まっすぐなれ〜。」という合図で、2列が相対すると、また「負けてくや しいはないめもんめ」とかはじまるのである。生徒会長をはじめ委員達は何を 画策しているかというと、いかに大きな「いちもんめ」の列をつくり、いかに みんながそろって大声でやれるかが目標なのだ。

 「相談しよう、そうしよう」というのがそんな大人数でできるのかと思うか も知れないが、なかなか細かいルールがつけられている。指名は真ん中にいる3人ばかりが相談 してする事になっている。「相談しようは。」、大きな列の場合真ん中の3人でやるのだ。

昔、こりすぎて、なんとか全校を2列にしてやろうと画策したのだが、ちぎれ たり、ばらばらしているうちに、みんな疲れてしまった。さらにひとりがこけ て、連鎖的に数十人がこけて、骨折とまではいかないが、すりむいたり、コブ をつくったりで、「無理は危険」という事になった。

 そんで、今でもあんまり危険になると、「先生ストップ」がかかる事になっ ているが、止められた事はない。まあ、そんなこんなの伝統があるのだが、ま あ春の午後の1時半ほどをえんえんと、これに費やす事は確かだ。

 なんでこんなのが続いているのか不思議だが、生徒会主催のこの行事、生徒総 会で決行を議決する時にも、反対者はほとんどいない。男女共学の高校で、み んなが入りみだれで、手をつなぎ、「交換しようそうしよう」とかいって、組み合 わせを変えていくのだから、「仲良し」つくりの機能がある事だけは確かだ。この学校、いろいろ先進的な事も多いが、一部で妙にクラシックな部分も多い。

 「だれだれちゃんが欲しいとかを、ちやんとやるために一年生は でっかな名札を胸につけたり、頭につけたりする。友達つくりに最適だが、幼稚園児のようで、ま あ大きすぎるのは確かだが。

 最後に、「なんとか、大きくつながつたぞ〜。ここまで、今日はおしまい 〜。」の生徒会長の一声で、大行事はお終いになる。あっ、最後に恒例行事があり ました。上級生による校歌合唱だ。校歌は一度紹介しましたが、 もう一度掲載しましょう。


  いちもんめ 校歌

  どこか遠くからきました
  これから、遠くにいこうと思います。
  けれど、けれど、いま
  こうして共に居ることは
  たしかなことです 
  いまここにいて、いちもんめ


  昔、花がさきました
  ほのかな香り たまや草
  明日に、かならず咲くはずの
  豊かに光る とわの花
  咲かそ 、いつか いちもんめ


  この手でわたそう 花いちもんめ
  いつかは枯れる この花だから
  いつかし消える命ゆえ
  わたしていこう 消えないために


歌が終わると、上級生たちは、まわりに咲く花をつんで、新入生達に胸ポケッ トにさす。

 この手で渡そうはないちもんめ
 わたしていこう 消えないために

というわけなのだが、なんだか目がうるうるするやら、馬鹿馬鹿しいやら、と にかくこういう所なのだからしょうがない。


「では、みなさん。明日夕方、しんかん。場所 ホール 全員、よそいき。詳 しくは掲示。」で終わる。

 「この 歓迎会 場所 ホール ・・・」という言い方だが、これも伝統な のだ。要点メモみたいに、とにかく略す。この いちもんめの行事 を知らせる 掲示板も

  ━━━━━━━━━━━━
 ┃ 
はないちもんめ ┃
 ┃            ┃
 ┃  場  しば     ┃
 ┃            ┃
 ┃  四月7日 13時   ┃
 ┃            ┃
 ┃  一年  よそいき  ┃
 ┃  その他 好きにせい ┃
 ┃      生徒会   ┃
  ━━━━━━━━━━━━

と、なっている。公式文書風に書けば「生徒会行事、花一匁を行います。場所は  中央庭園芝生、開催日時は、4月7日13時より、一年生の服装は 正装の制服 その他の人は 服装自由 」 という意味だが、いちもんめ生徒会方式の掲示は、どういうわけか、いつもこ んななのだ。

それもでっかな筆で、どかんと模造紙一枚に書いてあるから、目をひく事は確 かだ。ちなみに、生徒会行事は、生徒会で連絡とか招集をするから、朝のホー ムルームで先生が連絡するとかしない。だいたい、生徒会でやる行事については先生達もしらない事が多い。連絡組織も、招集組織も学校事務局とは別になっている。

 まあ、とにかく華麗ないちもんめ学園生徒会行事第一弾はこれで終了。いち もんめの「しば」、正式には学園中央庭園芝生周辺は、桜の花がほころび、ま た学園の生物生産コースの生徒達の育てた花壇に花がさきみだれ、そこに花か ざりの帽子をした委員やら、着ぐるみやら、コスプレやら登場して、なんとも 恥ずかしいやらメルヘンな雰囲気をだしている。

入学したての男の子達はは、もと女子校の雰囲気に、あきれているが、女子 6割、男子4割の高校なので、女子が強いのはしかたない。しかし、「アホく さ」と馬鹿にしていた、インテリ風の男子が、数ヶ月もすると、すっかり取り込まれて、着ぐるみに入って踊っていたりするから、恐ろしい所ではある。

 入学して、全校生徒が集結するのは、これが最初なので、実質的な入学式み たいなものなのだが、いちもんめの行事は単純だか意味不明なものが多い。先ほ ど、生徒会長がさけんでいた通り、明日夕方には「しんかん」と省略呼称され る、新入生歓迎会が「おおいた」とよばれる「中央大舞台」でおこなわれる。 これもテレビ中継(ミクロコスモス放送局だけたが)される程の大行事ではあ る。 

 いきなり、はないちもんめから紹介し始めてしまったが、いちもんめ学園の 全体像を話しておこう。もう21世紀も二桁目に入る頃、伝統的な女子校ひとつ と、工業高校、農業高校、が合体して、さらに芸能科等々が新設されて出来た、私 立高校である。

 私立といつても、この時期に公立高校はなくなってしまったから、高校以上 はみな私立なのだが。工業、農業高校は公立だったので、私立公立の合併高校 というわけだ。平成の始め頃にできた、いわゆる「総合科高校」なのだが、今 はみんなそんな形になっているので、ただ「高校」で通る。

 さらに、ここは運営上はミクロコスモス研究学園と同じ法人組織になっているの で、大学付属高校といってもいいのだが、どっちが元気で、世に知られている かと言えば、いちもんめ学園の方だ。

 いろいろ世間を騒がす・・といっても、奇妙な生徒会行事とか、発明発見、 音楽・美術のコンクールで名をとどろかす生徒やら先生を続出させていて、有名校ではある。

あまり生徒数は多くない。一年の時で30人のクラスが5クラスほど。全校で 450人ほどの定員だ。特設コースは、看護福祉、芸能、生物生産、工業技術、 をもっている。普通科とか進学コースとかは、この時代には全国より消滅してい る。

 本物の技能をもった専門家育成のためには、15歳頃から始めないと間に合わ ないという合意ができあがり、技能集団国家をめざしているので、大学 に入ってから、専門教育を始めるなんて事はない。進学のための特別な教育は なくて、高校での毎日の勉強が大学入試になっているような制度なのだ。とに かく、一生懸命勉強したり、技を磨くとひとりでに、それを続けられる制度が できあがっている。

 校舎というか敷地を紹介しよう。いちもんめ学園は、きみこな山のふもと、山を背負った土地に、ひろびろと校地がひろがる。たんぼだの、畑だの あったり、牛がいたり、馬がいたり、どこかの牧場のような雰囲気もただよ う。原生林と人工林の混じる広大なきみこなの森にも学校は接している。 森林学園といっても良い。

 少し離れて、ミクロコスモス研究学園の研究施設もある。横に広がっているの で、大抵の建物は二階までの高さしかない。ただし、天文棟は、三階建てで一 番上に天文台のドームがあるから、これが学園の象徴と言えば象徴なのだ。 パンフレットなどには、いつも花いっぱいの庭園がいちもんめの売り物になっ ている。

 入り口に「山門」がある。学校に山門があるのは極めて変なのだが、この校地 は、とある宗教団体の本部があった所を、買い取って学校にしたものだから、山門があっ て、みかげ石の石畳が、山の方にまっすぐ伸びている。

 この両側に、学校の施設だの教室だの並んでいる。敷地全体がゆるやかな勾 配をもっていて、帰りは自転車をこがずに降りてこられる。天文台がある所が 一番奥なのだが。その手前に、お寺と神社と教会がある。最初にくると、これ が学校とは思えない敷地なのだ。

近代的な建物と、奇妙にレトロな建物が同居する。例えば、各教室は木造なの だ。特に一年生の5クラスは、昭和初期の木造校舎そのもので、どこかの村か ら歴史的建造物としてここに移転させ、改良工事をしたものだ。渡り廊下も木 造で、教室の外には花壇があったり、夏にはへちまが育っていたり、電球まで も白熱電球だったり、もちろん机も椅子も木製である。校舎も家具も、生徒達が作ったり修繕をしりするものが多い。これも勉強なのだ。

一方で学校とは思えない本格的施設もいっぱいある。大舞台は芸能コースがある ために建てられたものだが、大劇団の公演もできる立派な舞台がある。照明や 音響のコースもあるから、実習はここで行う。

 町立病院を兼ねた病院も、敷地にあり、看護コースの生徒の実習場 所である。

 「工場」と呼ばれる工業コースの実習棟もあり、車か一台程度できそうな機 械が並んでいる。ロボット工学の研究室があって、いちもんめのロボットとい うのは世界的に有名だ。男子生徒はこれに憧れて入ってくる者が多い。

 温室、田圃、畑、牛舎、サイロまであるのは、もちろん生物生産コースの実 習用だ。旧職業高校が合体したものなので、施設も教育技術もなかなかのもの だ。それに、これらは単なる実習設備ではなくて、農業施設も、工業機械も、 もちろん病院も教師を兼ねる専門家達が常駐して、学校の教育以外にも、営利 の事業を独立して行っている。

 「実働していない、場所に真の教育力なし。」という経験から得た教訓で、実業と学校の 関係を近づけていくうちに、制度が確立して、このような学校になっている。

 芸能科の生徒達の舞台発表は、ちゃんと一般の人が料金を払って見に来る。 かの宝塚音楽学校みたいな感じもある。演劇と、クラシック音楽が正課のコースなの だが、アイドルとして名の売れた子も在学したりして、これもいちもんめを有名に している。

 色々なコースはあるが、一年時の教養共通科目は、みんな一緒におこなう。 基本的に教養科目は、一年の時は午前中にあり、語学とか、科学基礎とか、身 体健康とか、共通技能とか、論理・数学とか、社会教養とか、基礎科目を勉強 する。聞き慣れない科目かもしれない。勉強はこの学園独自のカリキュラムと 教科書を使う。

 大学付属だったり、教育学研究施設と提携したり、出版部門をもつ高校は、 独自に教育課程を編成したり、教科書をつくる事が許されるようになった。いちもんめの カリキュラムと、教科書はなかなか優秀で、他でも使われたりするので、その 点でも有名高校なのだ。

 ちなみに、この出版部門というのが、ミクロコスモス出版社なのだ。学園の組 織には入っていないので、敷地の外、山門をでた、すぐの所にたっている。一 階は書店になっているので、いちもんめの教科書とか参考書とか見たかった ら、ここにくれば購入できる。

 きみこな山の麓にいちもんめ学園と、ミクロコスモス大学があり、山門を出 ると、「いちもんめ門前町」と呼ばれている「いちもんめ商店街」がある。山 門を出ても、ゆるやかな傾斜は駅まで続き、これも自転車はこがずにおりられる。 まあ、登校時には、ちょっとくたびれるという事だが。


【編集長より】

 さあて、いちもんめ学園物語が始まりました。未来の名物高校、いちもんめ 学園の物語に大いに期待してください。「本編」はちょっと、硬くて解説的で 面白くないかも知れませんが、サブの物語として、「いちもんめ生徒会日記」 「いちもんめ舞台日記」「栃の木先生、古代発掘物語」「いちもんめロボット 空を飛ぶ」・・あらゆる笑いと悲しみと汗と涙と花と星・・に包まれたさまざ まな物語が展開されますので、ご期待ください。
 いままで、お届けした記事も、この学園物語の中に、ちゃんと位置づけられ る事が、だんだん分かってきます。不思議世界、いちもんめワールドにもご期 待のほどを。

 物語だけでなく、ミクロコスモス出版よりの講義録やテキストも順次お届け しますので、生徒達と一緒に、高校生に戻ってミクロコスモス学園で勉強する つもりになっください。

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   今日はここまで   ではまた。
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【お詫び】最近長文のものが増えてます。読みにくいと思いますが、申しわけ ありません。エキスパンドブック化が遅れています。適当なワープロに複写し て整形してみてください。

【お知らせ】いちもんめ学園物語は、総合版ではありません。独立した「いち もんめ学園」の発行物と思ってください。

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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一