────────────────────────────
ミクロコスモス総合版2002年10月9日へちがら「uni-ball eye」
────────────────────────────
              
             発行 ミクロコスモス編集部

───────────────────────────
   編集長のがらくた箱  三菱 uni-ball eye
───────────────────────────  

 困った事がおきた。愛用の水性ボールペンがモデルチェンジされてしまったのだ。メーカーとしては「改良」なのだろうが、長年の利用者には改悪だ。製品名は三菱の uni-ball eye、150円程のどうという事のない文具であるが。

水性ボールペンとしては、先進的な名品である。ほとんどゼロに近い筆圧で、かすれる事なくインキが出る。悪筆で手書きの嫌いな編集長にも、文字やら図やらをかきたい気持ちにさせた。

食べないと「お腹がへる」だが、書かないと、「指がへる」みたいな感じをこのペンは与えてくれた。丈夫で、シャツに入れたまま、洗濯機でかき回してしまっても、少し拭けば使えた。近年編集長の筆箱は各色のこのペンしか入っていない。

 「改悪」は、二点。まず、ペン先が細くシャープペンシルのような針状になった。もうひとつはペングリップがついた点だ。太さ、インキの出、インクの色、などは、旧来のものと変化はない。書かれた文字を見れば、まったく同じペンとみなせる製品である。

 しかし、新機種は使いにくいのである。第一に、ゴムグリップが余分である。だいたい編集長は、そんな所をもたない。キャップをあけて、後ろにとりつけた状態の長さで、ほぽ三分の一の所に指先がくる。ゴムグリップからははずれる。

 そうすると、ゴムグリップは余計な加重となり、重量バランスをくずしてしまう。また先端の「テーパー」が変わり、重心がずれた。重心が変われば、持つ位置まで変わってしまう。最小の力で最大の動きを実現するには、重心を支点にするように握るのが「調和点」となるのだ。

 高筆圧でカーボン紙にでも書きつける場合には、グリップ付きは手を守る。しかし、低筆圧で、ペンに高速運動を与える時は、わずかな重量のバランスが筆跡にに影響をあたえてしまう。ゴムで滑りを防止するのも良いが、調節の効く手と柄との滑りも必要なのだ。バッターがバットに、テニスプレーヤーがラケットの握りに、大工が玄翁の柄に注ぐこだわりと同じである。


 どんな分野でも、技が高度さの限界に近づくと、道具の微細な仕様が技に与える影響の程度が増大する。時には、致命的に技を破壊する。ポツポツとキーボードで文字を打ち込んでいるなら、どんなキーボードでもよいが、検定一級の速度を超えるような高速入力する段階では、タッチの悪さが指をもつれさせ、キーボードを、床になげつけたくなるような事態をひきおこす。

 どうして、三菱社はゴムグリップなぞつけたのだろう。もっとも最近は、お店で領収書を書いている若い店員などのペンの持ち方を観察すると、その手の形の変異は増大している。鉛筆で言えば、削った木の部分を握って書いているような手形が多くなっている。また指の骨が変形するのではないかと思える程の力で握りしめる握り方も多い。

 書いた文字がひどい訳ではないので、個人差の範囲と言える可能性も否定てきなかが、世の中全体で、人の技の基本型に変化があるように思えてしかたない。そこらのマーケットリサーチの結果、ゴムグリップのついた筆記用具が増えているのだろうか。

 木工や金属の道具の世界でも、グリップをつけたニューウェーブの製品が増えている。指に合わせて凹凸をつけた柄をもつ金槌など、滑り防止には良いが、技を駆使するには使えない。金槌は釘の太さや木材により、敏感に持ち位置を変える。それには、あの微妙な曲線をもった木製の柄が一番なのだ。

 髪の毛が一本一本描かれた浮世絵や、細密な蒔絵の線の筆さばきをみると、きっと職人達は、筆細部にこだわり、その持ち方などに心血を注いでいると推測される。熟練の職人達は、なれた道具が勝手にモデルチェンジされては、迷惑千万な事だろう。もっとも職人たちは、同じ心根をもつ仲間である道具製作の職人と交流しながら、道具そのものも作り上げてきた。

 道具を自作など出来ない現代では、道具がメーカーの勝手な「改良」でモデルチェンジされる事は、仕事の命運にもかかわってくる。いろいろ分野での「達人たち」の不平不満や、こだわりの行動は、いろいろ聞き及ぶ。

 高速で伝票処理をこなす会計達人たちは、カシオの何とかというモデルの電卓へこだわるそうだ。ある関数電卓にこだわりをもつエンジニア達の圧力により、30年間ヒューレット社はモデルチェンジができなかった。鋏、メス、鉗子、物差し、マイクロメーター、差し金・・仕事人が通う各道具店にいくと、ガラスケースに並べられた名品を見る事ができる。なにより美しい。

 技術派人間の編集長は、奇妙に道具にこだわる。そして技を追求すればするほど、旧来のモデルの良さがわかってくる。人間の高度な技を受けとめ、物体に伝えるには単純な構造ほど良い。

 ガスコンロは何をお使いだろうか。編集長は正式名称は知らないのだが「あの」鉄のかたまりみたいなガスコンロを使いつづけている。菊カボチャを半分に切って、切り口を上に向けたような「あれ」だ。多分50年近くモデルチェンジはしていないだろう、微妙なとろ火から強烈な火力までを発火できるのは、あれしかない。

 そして中華鍋の丸みとぴったり適合して、加熱のバランスを醸し出せるのは、あの鉄のかたまりみたいなガスコンロだけだ。チャーハンの名作を生み出すにには、これしかないのだ。鉄ブラシだけで手入れが出来る単純構造が、使用者のたましいをこめられる要因である。

 なんといっても、○○○は、××社の ○○○ という定番商品、各界の名品というものがある。トンボの鉛筆、元祖のカッターナイフ、元祖のホッチキス、・・・各界の達人たちの高度な技を支えている。それをモデルチェンジなどしようものなら、会社にデモ隊でもおしかそうな、定番商品が多数存在する。

 もちろん改良の努力を怠る事は許されないが、多くの人の手技を吸収しつくして、利用者の技の熟練とともに成長した道具の名品というのは、社会が守るべき国宝とにでもすべきものだ。

 ○○社のペンチ、○○社のマウス、○○社のドライバー・・数え上げたらきりがないが。しかも、単なる品物の問題ではなく、それを利用する人の手と心とともに、育てられた「ものと心の複合体」が国宝級なのだ。

 最近、技術革新とか称して、「モデルチェンジのためのモデルチェンジ」「企業存続のためだけの新製品」ばかり目立つ。コンピューターの世界などその最たるもので、例えば・・・文句は切りなく続くので、またの機会にするが、「亀の子たわし」「MITU-BISHIのuni」「? のマジック」を守る事は、一商品の問題だけでなく、人類文化の継承に関わる大問題なのだ。

 気まぐれなモデルチェンジから定番商品を守る会を設立して、日本国憲法に定番商品の保護をもりこむ活動が必要なようだ。国際的にも各国の「世界遺産」・・でなく「定番商品」を守るべく、保護条約を制定すべきと考えるのは少数派だろうか。

ボールペンなど買い占めて、いつまでもつか・・・目下の最大の心配事なのだが・・・・


【編集長より】
各界の達人として活躍される読者より、守るべき「定番商品」「道具の名品」をご紹介いただけたら幸いです。


 ─────────────────────────
   今日はここまで   ではまた。
─────────────────────────
【お詫び】 
 あてにしていた原稿が届かなかったり、自転車旅行のつかれで寝てしまったりで、二日もお休みしてしまいました。どうも申し訳ありません。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一