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ミクロコスモス総合版2002年10月3日今日の詩「ほしうたかお」
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発行 ミクロコスモス編集部
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今日の歌 そして文字表現
ほし うた かお さんどばーぐ
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【ひらがなひょうき】
ほし、うた、かお
ほしをあつめたまえ、あつめたければ
うたをあつめ、とっておきたまえ。
なんねんもなんねんもとっておくために
そうしたあげく・・・・
てをゆるめはなしてやり、さようならをいいたまえ。
ほしとうたとをはなしてやりたまえ。
かおとさいげつをはなしてやりたまえ。
てをゆるめ、さようならをいいたまえ。
けむり と てつ より さんどばーぐ
アメリカの詩人サンドバーグの有名な詩の和訳ですが、あえて仮名書きで表 記しました。筆者は詩をしばしば朗読します。その時の原稿は、仮名書きで す。音の響き、言葉のリズムを表現する「楽譜としての文字」には適している のです。
言葉は意味を伝える事ばかりにその役割を奪われてしまっては、かわいそう です。日本語の子音・母音の対になっている事から生まれるリズムそのもの が、意味を離れて音楽性や神秘的な機能をもつはずなのです。それを感じ取る には、ひらがな書きは適した表記法です。
さらに、単語と助詞の組み合わせ単位毎に、分けて書く「わかちがき」があ ります。次がそれです。
【ひらがな わかちがき】
ほし、うた、かお
ほしを あつめたまえ、 あつめたければ
うたを あつめ、とっておきたまえ。
なんねんも なんねんも とっておくために
そうしたあげく・・・・
てを ゆるめ はなしてやり、さようならを いいたまえ。
ほしと うたとを はなして やりたまえ。
かおと さいげつを はなしてやりたまえ。
てをゆるめ、さようならを いいたまえ。
stars songs faces
けむり と てつ より さんどばーぐ
楽譜につけられた、歌詞はこのような表記です。区分が分かりやすく、そし てより音楽的になります。息継ぎや、間合いなどのより身体的な表現が可能で す。
数十年前に「かなもじ会」や各種の日本語改良運動がありました。時代の流 れに多くは消えていきましたが、まだその試みを深い所で続けている作家は存 在します。
筆者も、ひらがなでの表現に心惹かれ、ひらがなタイプライターを購入し て、それで創作をつづけた事があります。タイプを打つリズムと、日本語リズ ムがほぼ一致するので、詩的な表現が喚起された気がします。いまでも、小説 や詩の原稿の私的原文は、コンピューターの「ひらがな固定」で入力します。
漢文まじりの陳腐な表現からは解放されて、楽しい一時です。日本語表記の 運動にはカタカナ書きや、さらにローマ字表記などもありました。芥川のロー マ字日記は有名です。以下かローマじ表記です。
【ローマ字表記】
hosi , uta ,kao
hosi-o atumetamee, atumetakereba
uta-o atume totteokitamae.
nannenmo nannemo totteoku tameni
sousitaageku ・・・
te-o yurume hnasiteyri, sayoonra-o iitamae.
hosito utato-o hanasite yaritamae.
kaoto saigetuo hanasite yaritame.
te-o yurume , sayonara-o iitmae.
te-o yurume , sayonara-o iitamae.
kemuri to tetu youri
ローマ字表記は、音韻を分析的にたどるので、和歌や古典をこれで、表記す ると色々発見ができます。脚韻やさまざまな技巧が浮き彫りになります。「読 むにはちょっと」と思われるかも知れませんが、慣れると意外と読めるもので す。
「同音異義語の多い日本語では・・」との指摘もあるかもしれませんが、そ んな大量の同音異義語を生み出してしまった日本語への反省はしないのでしょ うか。さて、読み慣れた漢字ひらがな混じり文です。
【漢字平仮名まじり 句点区切り】
星 歌 顔
星を集めたまえ、集めたければ
歌を集め、とっておきたまえ。
何年も何年もとっておくために
そうした挙げ句
手をゆるめ離してやり、さようならを言いたまえ。
星と歌とをはなしてやりたまえ。
顔と歳月を離してやりたまえ。
手をゆるめ、さよならを言いたまえ。
煙と鉄より
サンドバーグ
どうですか、意味は分かりやすいですが、ひらがなで朗読をしなれた者にと っては「日本語がいじめられている」と言う気がするのですが。さらに、子供 達や、ある種の学習障害の症状をもつ者にとって、日本語のこのような表記 が、大きな障害になる事があります。
次ぎは、漢字平仮名まじり文に「分かち書き」を適応した例です。
【漢字仮名 わかちがき】
星 歌 顔
星を 集めたまえ、集めたければ
歌を 集め、とっておきたまえ。
何年も 何年も とっておくために
そうした 挙げ句
手をゆるめ 離してやり、さようならを 言いたまえ。
星と 歌とを はなしてやりたまえ。
顔と 歳月を 離してやりたまえ。
手を ゆるめ、さよならを 言いたまえ。
煙と 鉄 より
サンドバーグ
小学校低学年の教科書がこのようになっているのは御存知ですね。子供用と か言わずに 普段も用いると、表現の幅が広がると思いますが。書物の編集者 達には、良く考えてもらいたい問題なのです。
さて、サンドバーグの英文原文を最後に掲げます。サンドバーグはそのよう な事をむしろしない作家なのですが、英語で詩である以上、詩の技巧としての 押韻がめんめんと続いています。原文を読むと、そのリズムの美しさに惹かれ るはずです。
このリズムを、上に掲げたどの表記が一番、近似して表現していると思われ ますか。筆者は、「ひらがなわかちがき」 が最も美しく表現していると思い ます。
【英文原文】
Stars, Songs, Faces
GATHER the stars if you wish it so.
Gather the songs and keep them.
Gather the faces of women.
Gather for keeping years and years.
And then
Loosen your hands, let go and say good-by.
Let the stars and songs go.
Let the faces and years go.
Loosen your hands and say good-by.
Carl Sandburg S moke and Steel
最近、高校生達に英語ぎらいな子が増えています。意味の理解に傾いた英語 教育の破綻かも知れません。カタカナ言葉のリズムを身体的に持っていないの です。詩や音楽の授業をもっと大切にする所から、始まると思うのですが。
表記の事ばかりで、サンドバーグの詩、そのものを鑑賞する余裕がありませ んでしたが、また別の機会に。読者のみなさんは、プリントした上で、違う表 記法で朗読をしてみて、リズムの違いを味わってみてください。意味の理解 は、リズムの身体的な内面化なしにはありえないと、筆者は確信する者のひと りなのですが。
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今日はここまで ではまた。
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【編集長より】 ミクロコスモス編集部では、このような文字配列の方法について、深く考 えています。印刷出版する時もそうですが、このテキストだけの、メールマガ ジンにおいても、それなりの正しく美しい表記法があるはずななのですが。そ んな実験を読者の方々と共に指向していければ楽しいのですが。
【編集長のご近所情報】
台風後の海岸に行ってきました。大波と大雨で、すっかり地形が変わってし まって「昨日の道は、今日の川底」状態でした。満潮の時にとんでもなく、高 い所まで波がおしよせて、大きな石が動いてしまっていました。新しく、小さ な「池」まで出来てしまってます。
家と海岸の間に湘南バイパスがあるもので、分かりにくいですが、家と波際 の距離は思いのほか近いようです。「おい、こりゃ、津波の時に、我が家はさ らわれる。」と感じた編集長でした。
海まで数分の所にあこがれて引っ越したのですが、ちと危険を感じて、「窓 から海の見える高台に住みたい」とか贅沢な望みをもった編集長でした。(ここは海に近いけど、海は見えない。)
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ミクロコスモス出版 ミクロコスモス編集部
編集長 森谷 昭一
★ 編集部宛メール 公式メール 執筆者・編集部員に【内容のみ】転送の場合あり。
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