───────────────────────────────── ミクロコスモス 研究学園講座 2002年9月7日 考える論理「第1講」
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発行 ミクロコスモス編集部
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ミクロコスモス研究学園講座 教養系基礎 考える論理 第1講
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では、いきなりですが、配布した資料の[例文1]と[例文2]を読んでください。
[例文1]
この世には話がうまくて、どんな難しいことでもやさしく話す人がいる。論理の運び型が上手かったり、例え話が素晴らしかったりする人である。逆にやさしいことをやけに難しく言う人がいる。学者ぶった言い方や、外来語を並び立てるようなひとである。色々考えてみると、結局こういう事ではないか。世の中には「簡単な事」と「難しい事」がある。また、「易しく言う」人と「難しく言う」人がいる。
簡単な事をやさしく言うのは当たり前だ。難しい事を難しい言い方で言うのは仕方がない。でも、難しい事をやさしく言う事ができたら、それは尊敬に値する。簡単な事を難しい言い方でいったとしたらそれは軽蔑に値する。
[例文2]
僕が若い頃、子供の頃って言っても良い。思っていたんだ。大人ってのはみんな悪いやつで、子供の敵で、子供や若者はみんないいやつばかりなんだってね。でも、今度の事でつくづくわかったんだ。大人にだっていい人はいる。若者だって、悪いやつはいる。結局、子供と大人がいて、それぞれに良いやつと悪いやつがいるんだって事がね。
さて、上のふたつの文章は似ているところがありませんか。「え、話し方についてと、大人と子供の事とかで、あまり関係なさそうだけど。・・」と思われるかもしれませんが、内容ではなくて、話の進め方、論理のパターンが相似していないかみてください。どちらも
「○○にはAとBがある。△△にはCとDがある」としてその「組み合わせ」を考えているという論理のパターンに共通性があります。図にすると、すぐ分かります。
例文1の論理パターン
│ 言い方
├──────┬───────
│ やさしい │ 難しい
─┬────┼──────┼───────
事│ 簡単 │当たり前 │ 軽蔑すべき
├────┼──────┼───────
柄│ 難しい│尊敬できる │ 仕方ない
─┴────┴──────┴───────
例文2の論理パターン
→ 考え直し→
┌───┬───┐ ┌───┬───┐
小さい時 │大人 │若者 │ 今度で │ 大人│若者 │
─────┼───┼───┤ ─────┼───┼───┤
良いやつ │ × │ ○ │ 良いやつ │ ○ │ ○ │
─────┼───┼───┤ ─────┼───┼───┤
悪いやつ │ ○ │ × │ 悪いやつ │ ○ │ ○ │
─────┴───┴───┘ ─────┴───┴───┘
どちらの文章も「2 × 2」でものを考えている事は共通です。このような考え方の形、パターンを「論理パターン」といいます。色々な論理パターンがあるのですが、これは「2元・2次組み合わせ法」と言います。
さて、いきなり例から始めましたが、このようにある主張の裏に隠れている「思考法」「論理の展開」「パターン」を、この講座では探って行きたいと思います。ひとつ裏側にある、パターン、論理で世界を見る目を養うのがこの講座の目標です。
この講座は、教養科目です。あらゆる分野に進む人に、ものの考え方、論理について講義します。ミクロコスモス研究学園では必修科目ですので、必死で学んでください。本学の必修科目は「必死で修得する」を略して「必修」なのです・・。
文章を書くための基礎講座でもありますから、演習も沢山あるので、そのつもりで。この講座を終えた人は、専門課程の「論理学入門」に進んでください。
論理パターンの続きに戻りましょう。「2元・2次組み合わせ法」という「パターンで見る目」で色々と文章を読むと、多くのこの形式の文章を見つける事ができます。経営学、特にマーケットリサーチ等での「Bostonマトリックス」などとして良く用いられています。論理としては陳腐と言える位に「良くあるパターン」です。
この形式は論理パターンとしては、やや複雑なものです。実は、もっと単純な論理パターンが組み合わされているのです。論理パターンは数十もあり、この講座では20〜30程取り上げる予定ですが、「基本型」とそれらが組み合わされた「混用型」があります。
では、「2元・2次組み合わせ法」は再度取り上げることとして、基本型から順番に学んでいきましょう。
【基本型 1 強制二分法】
「強制二分法」は、世界を特定の基準に従って、無理やりふたつに分けてしまうパターンです。世界を完全に二分しますから、中間とか例外はありません。
[形式] この世には ○○ と △△ しかない。
[例文3]
人間にはふたつの種類の人間がいる。旅を好む人間と、家にいる事を好む人間だ。前者はいつも旅にでたがる。というより、引っ越し好きだったりして人生そのものが旅であるような人間だ。後者はいつでも家に帰りたがる。というより自分の中の自分の居場所を広げていこうとする人間だ。
[例文4]
世界には保守的な人間と進歩的な人間が存在する。この二分によって世界のすべての対立が始まる。
強制二分法の特徴は「デジタル化」です。白か黒か、有か無か、yes か no か、きっぱりとふたつのみに分けてしまうことです。「旅か家か」、「保守的・進歩的か」にしても、どちらとも言えないものがある事などは無視してしまうのです。世の中には白黒でない灰色領域が多いのでしょうけど、「強制的」に二分してしまいます。
文章を書くときには、物事をきっぱりと分けると、分かりやすく、力のあるものになります。曖昧なものを曖昧なまま書くことは文章を書く上では、「論点がはっきりしない」とされてしまいます。
面白みのある文章は、しばしば独断的な「二分法」が使われます。『どうせ』や『結局』などの言葉を使い、少しやけな調子で書くと面白みがまします。切れ味あるエッセイなどでは多用されます。
[例文 5 ]
結局、この世には、美人とブスしかいないのよ。どうせ私はブスだけど・・・・
[例文 6 ]
どうせ、この世は出来るやつと、俺達みたいな落ちこぼれしかいないのさ。まあ、落ちこぼれなりに楽しくやろうぜ〜
レトリックの範囲なら、それなりに受けとめる事もできますが、「強制二分法」は繰り返し用いられて、社会に沈着すると「偏見」「差別」と言われるものになります。また学問や思想の世界での「強制二分法」が、複雑な言葉の下に埋もれていくと、「迷妄」と呼ばれるものになります。良くできた論理体系が、先に進むとだんだんに破綻していく事があります。これも前提にかくれた二分法の誤りが原因だったりします。これは気をつけるべき事ですが、だからこそ隠れた論理パターンを読みとる能力は学問をするためには大切な能力です。
「矛盾」で有名な「矛と盾」の話も前提となった「強制二分法」が原因です。ここら辺は、先にいって再度お話する事にしましょう。
[例文7]
結局すべての社会問題は「秀でた者」と「劣る者」の軋轢なのだ。
[例文8]
この世の道具は用をなすか、壊れるかのどちらかしかない。
(矛盾の故事の前提条件)
さて、文章を書く時、こう考える人が多いようです。
「良く考えて、考えがまとまったら、それを論理にのせて文章を組み立てるようにするのだ。」
文章を現場で書き続けている人なら、これは誤りだと言う事が分かると思います。
「文章は書いてしまって、後から考える」
のが正しく現実を示しています。ちょっと「強制二分法」を利用して、むちゃな練習をしてみましょう。
強制二分法の定式は
この世には( A )と( B )しかない。
( C )は A である。なぜなら( )
( D )は B である。なぜなら( )
AとBに適当な2語をいれます。新聞に鉛筆を投げて、芯の先が指した語でも良いでしょう。CDは多少類の似たものをものを同じ要領で適当にえらびます。だれか他人に適当に入れてもらっても良いでしよう。こんな具合です。
この世には( リンゴ )と( カボチャ )しかない。
( 平和 )は リンゴ である。
なぜなら(どちらもハートの形をしている )
( 資本主義 )は カボチャ である。
なぜなら( 固いけど栄養がある )
意味不明の落語の大喜利の問題のようです。こじつけは明白ですが、
この世に陰と陽に二分される。
カボチャは 陽 である。なぜなら、夏の太陽をあびて育つ。
スイカ は 陰 である。なぜなら、食べると体が冷える。
あたりになると、なんとなく分かったような気になったりします。陰陽五行説など、基礎は強制二分法です。
二分法はどこかで、綻びをみせるものですが、そんな時にこんな「こじつけ」をして修繕してしまうのです。気がつかないけど、いつまでも平行線をたどる議論には、こんな感じの言い合いが多いものです。
とにかく、こんな風に先に「型」「パターン」があって、そこに何か現象を放り込んで、最後に理屈を積み上げるというのが、考える方法のひとつなのです。
素人が十分な事実の調査なしに、憲法論、平和論、生物倫理学などを議論してしまうと、時に特定のパターンにはまって、自ら考えるのではなく、言葉に考えさせられてしまうような事が見受けられます。論理で考えるのか、論理に考えさせられるのかと言う議論も、講義の後半にしましょう。
今日の講義はここまでです。宿題は初回なので、出しませんが。強制二分法のパターンの問題を各自で試みください。
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今日はここまで ではまた。
─────────────────────────────────【編集部より】
ミクロコスモス大学(研究学園)の講義をお届けします。今回からの「考える論理」は 教養系基礎 の 必修科目 です。是非最初からきちんと学ばれて、学問の基礎を身につけてください。なお講義への質問は、編集部宛(micos@desk.email.ne.jp)にお送りください。
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