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 ミクロコスモス 総合版2002年9月6日 今日の言葉「木彫職人安吉 」
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                   発行 ミクロコスモス編集部

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     今日の言葉   心 芯 軸 こころ
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  木彫職人 安吉 が弟子にいった言葉


【安吉】  木を彫るのに一番大切な事はなんだか言ってみろ。

【弟子】  心で、木を彫る事です。

【安吉】  何っ。 心だと。そいつはどこにあるもんだ。

【弟子】  心は見えないものです。

【安吉】 
 見えないもんで鑿が動くかってんだ。いいか、心ってのは、どっかみえないところにあるんじゃない。まっすぐ彫る時は、背中のあたりにある。
まあるく切る時は、臍のあたりの後ろの方だ。小さいやつなんかじゃ、中指のここらへんだったり、でっけえやつだと、おでこの先、一寸位のとこだったするのさ。

【弟子】  そこに気持ちを集中させろって事ですか。

【安吉】 
 なんだ、まったく分かってないな。それじゃ、まるで反対だ。心に力は入れちゃあいけない。だいたい、心はどんどん消えていかないといけねえ。ぱっ、ぱっと 心のありかを切り替えねえと、何にもできねえって事さ。
 ぱばっと切り替えてると、切り替えるための心もどっかに決めないといかん。それも、体のどっかにあるのさ。
 体の外の時だってある。でっけえやつを彫るときにゃ、そいつが、どこかにもってかれそうになる。
そんな時、ぐぐっと、こっちに呼び戻すんだ。そういうのが心ってもんさね。

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 安吉の言う「心」は、むしろ「芯」「軸」「中心」と言ったら良いでしょうか。心が「実現」されていく時には、必ず身体を動かす よりどころとなる実質的な「中心点」が現れます。
 心は心のままでは、伝わらないし、見えないし、人の役にたちません。心は職人達の体のどこかに現れて、やがて道具を動かし、物に形を与えて目に見えるものとなっていきます。

 鋸でも包丁でも筆でも楽器でも、道具を手にして完璧を目指して身体を訓練した人は分かるはずです。道具に体が使われる状態から、だんだんと体のどこかに「軸」「心」が感じられるようになる。そして、一段上の調節の段階で、{心}は体の外に出ていきます。

 それをまた自分の方に呼び戻し、やがて「心」の移動を自由に操る事が出来るようになります。その時に「軸」を切り替える「こころ」を、人々は「表現」と受けとめてくれます。心が心に伝わる瞬間です。その時、ものと心は同じになります。

身体に心のありかをうまく支配して、ものに心を現す人を「職人」といいます。芸術家とも言います。

 誰もが、こういう事を体得出来るひとつのの技に携わり、技を磨く事により、心を伸ばしていける世の中だといいですね。誰もが本物を見分ける事ができる世のになるのです。

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      今日はここまで       ではまた。
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【編集長より】

高速で、キーボード入力をする時は、手をボールを持つような形にして、軸をそのボールの中心あたりの位置に感じるんですよ。乱れて打つと文章のリズムがなくなりますからね。

 読者には各方面の「その道の達人」もいらっしゃると思います。技の「こころ」「軸」をご披露してくださるとありがたいのですが。

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