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メイルマガジン 「ミクロコスモス」 総合版
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2002 /7/14
ミクロコスモス編集部
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杉根 葉三
法哲学および憲法学ゼミナール
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【編集部よりご紹介】
杉根 葉三(すぎねようぞう)さんは、法哲学が専門ですが、新しい憲法を作ってみるという大胆なゼミナールをされています。今回から、ミクロコスモス誌上でも、そのゼミナール開講していただける事になりました。少しずつですが、何年もかけて仮想国家の新憲法を作り上げてみたいとのことです。では、杉根 先生にお願いします。
★ ゼミナール 第一回 国家論
杉根です。さてみなさんと、これから大きな旅に出発しようと思います。その前途を考えれば、大海原へ漕ぎ出す小舟の出航に例えるのが適切でしょう。まったく着想を変えた憲法をつくり上げるという大航海です。日本の憲法が念頭にないとは言いませんが、もう少し大きな視野で、21世紀の地球の片隅の国家を想定して、21世紀を乗り越え、22世紀に引き継げる憲法を書いてみたいと思います。私の専門は法哲学です。この試みによって法哲学についても、その役割を理解していただけたら幸いです。私としては、法哲学とは法を解体していく試みと考えています。
さていきなり、憲法試案です。初回なので、私が起草したものを提示します。次回からは、できるだけ読者から素案をもらって、検討していければと思っています。法律文の定型で示したいのですが、機種依存文字を使用しないといけないので、形式は自由にさせていただきます。
【試案】
○○条 我々の社会活動の私的なものと公的な領域は連続する概念である。国家とは社会活動のもっとも公なる部分である。国家の領域は、次の事を定める。
2 国は、全国民の活動のうち、より公的で全体的な活動の経済尺度において二十分の一の領域を国家活動とする。
3 本条第一項を除く、社会活動の経済尺度において、全活動の十分の一のより公的な領域を部分集団公共団体活動とする。
4 公と私の連続的なな指標に、諸活動を配置する作業は、永続的な合議体がこれを行う。
【解説】
これが何を意味する条文か分かりますか。実は国家の規定をしているのです。国家論は、入り込んだら泥沼のような議論の続く論争です。「国とは何か」という課題に、この試案では「公」の概念を用いて答えています。社会活動のより公共性の高い部分を国家と規定しているのです。
何が国や地方公共対の仕事であるかは、歴史的に変遷して来ました。日本で鉄道事業が国家の運営から外れ、民間の運営になったのは最近です。ゴミ処理の仕事が市役所の主要な仕事になったのも最近ですが、これは今後増大しそうです。標準化業務、例えば度量衡の制定などは、古代国家では重大事業でしたが、今は国によって独立行政法人や特殊法人という民だか官だか曖昧な所がやっています。
公と私の区分、官と民の区分は時代および地域とともに流動的なのです。それで良いのです。そして、試案では国のやるべき事は、その時点の社会状況における、より公的な部分の二十分の一と決めています。何が国の仕事かは、国民の合議により考える事として、国というものの規模を社会活動の二十分の一と、憲法で定めてしまうのです。
この条文は、具体的には税率を定める事になります。国に収める税金は平均として、国民の総生産の二十分の一という事になります。これは財政も拘束します。この範囲を超えて国債を発行する事もできません。これは国家の肥大化を防止する法でもあります。通貨発行権との関係もあるので、複雑な問題をクリアーする必要がありますが、過去の異常な国家主義や国家の肥大への反省を活かす手段でもあります。
高負担高福祉国家論と低負担低福祉国家(古くは夜警国家論として流布しました)の論争は、国の在り方に関わる基底的な議論なのですが、これにも数量的に答えています。この公の数字を変化させるだけで、国の根幹が大きく変わっていくのです。古くからの社会主義的な国家と資本主義的国家の論争などは、実務的には、国家と私的活動の領分の比率の数値に置き換えて考える事も出来ます。
さて、何を国家の仕事とするか。どこの国でも、議論が続くのは、国家の仕事、民と官の線引きでした。公共性という尺度は設けたとして、この尺度に具体的に諸活動を配置するのは、大変な作業です。戦々恐々の駆け引きも出るでしょう。それを決定するのに、判定機関が必要ですが、この試案では「永続的な合議体」としています。まあ、国会のような学術組織のような、「上院」的な合議体を想定しています。国家の根幹を定めるので、あまり永続性のない合議集団でも困るのです。これは、別の条項で議論します。
部分公共団体というのはいわゆる自治体・地方公共団体ですが、今の市町村のような集合体を考えていただいて結構です。ただし、地理的な区分だけにこだわらず、地域を串刺しにするような公共団体も想定します。NGOの発展組織のようなものも、一時的に公となるうるという事です。埼玉都民とか、転居県民とか、外国人団体とか、地域集団だけでは、自治を考えられなくなる時代になると想います。このような事に対応する言葉として、部分公共団体なる新語を仮に試用してみましたが、用語については未成熟です。
部分公共団体の活動範囲を国よりは多い十分の一と定めてみました。地方税は10パーセントという事になりますか。この率が適切かどうきかは、議論のある所ですが、憲法でこれを先に定めてしまうという構想そのものを理解してください。不毛な国家論をやめて、数量で国家を規定するプラグマティズムに近い法思想です。
15パーセントを超える領域は、非営利団体が続き、次に商法の領域、最後に私法・民法の領域となります。順に公の性格がうすまり、私の領域となります。
また、条文の文体について、「どうも法律というより哲学だ。」と意見が出そうですが、文体についてはまた修正していきましょう。今の各国憲法が、あまり哲学的な条文をもたずに済むのは、各国家が暗黙の基底思想として、その国の宗教的伝統や慣習法をもつからです。このゼミでは、その部分も憲法の中に明文化したいと思いますので、どうしても哲学的な憲法にならざるを得ません。「法哲学者が憲法なぞ起草すると、こういう訳の分からんものになる。」とのお叱りも、覚悟の上です。
さて、読者は、本日の試案をどう思われましたか。今の日本国憲法を、多少いじって新憲法をつくるような試みが念頭にある方には、突拍子もない議論と思います。
日本の次の憲法の事は少しおいて、このゼミでは「次の次の憲法」を想定して、荒唐無稽・机上の空論・大風呂敷だとしても、より抜本的な論を展開させていただまきす。改革には、より抜本的なレベルから、修正に近い事なで様々なレベルがあると思います。ここで、研究するのはもっとも抜本的な、思想史レベルの改正です。今後、試案を提案頂く際には、このレベルで憲法を再構築し直していきたいと思います。
「そのような夢想的な事を考えて、現実の論議に参加しないのは、逃避に過ぎない。」との御意見も出るでしょう。でも私は、そのように考えません。遠い方向性を定める事により、より細部の技術的な事項も、照らし出されていきます。高い視座をもたない現実議論は、集団の自己保存意識に捕らわれ、実りある成果を生まないと考えます。
三権分立、権利・義務関係、代議制、地方自治、選挙制度、なども既定概念として用いるのではなく、解体・創設の対象として再構築したいと思います。これらも、政治思想史・法制史をひもとけば分かるように、それほど古い歴史をもつものでなく、近世の所産である事が分かります。
ただし、次のものは既定の基底として保持した上で憲法を構築してみます。
法治主義 法言語による憲法から諸法にいたる階層構造のある
成文法をとる事は採用しておきます。
金銭経済 一応、金銭による経済活動は、そのまま想定してお
きます。商法関係も根幹は保持します。
民法 民法分野もあまり変化させないで、憲法を考えてみ
ます。私は、むしろ民法優位の思想を持っています。
言語 言語に関しては、単一言語の国家を想定しておきます。本当はこの試みも、古典語かなんかてでやるのが、ふさわしいのでしょうが、私は比較憲法学者のような語学力がないもので、日本語でやらせいいただきます。
また私は、法制史があまり得意でないので、歴史関係に詳しい方も是非、ご意見をいただけたら幸いです。
では、次は戦争、防衛、警察権、民法との関連などについて議論したいと思います。読者も、そのような方面の試案を起草してみてください。
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きょうは、ここまで。
ではまた。
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【編集部より】
またまた毛色の変わった講座が登場しました。総合誌ですので、偏らない知識を得るつもりで、食わず嫌いしないでおつきあいください。
【お知らせ】
杉根 先生のゼミは月に一度ほどを予定しています。数年かけてひとまとまりの憲法を起草できたらとの事です。是非参加して憲法試案をお考えください。
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ミクロコスモスロス出版局
メイルマガジン編集部
編集長 森谷 昭一
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