□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
     メイルマガジン 「ミクロコスモス」  総合版
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
                2002/7/13
         ミクロコスモス編集部
 
  ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
     とってもやさしい科学の話し 生物学編
  ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

   ───────────────
      ちょいと生物学 1
   ───────────────

 このシリーズは、生物学や生き物の簡単な話題をお届けします。高校の生物程度の内容でが、近頃の医療倫理等を正しく議論できる基本的な知識をお届けしたいと思います。

? 本日のテーマ

【全能性】  細胞一個の中には、体全体が入っていると言うこと。

 植物は挿し木ができます。葉っぱを一枚、土に挿しておくと、やがて根が出て、茎がでて、ちゃんと花が咲きます。つまり、葉っぱの細胞の中には、「根になる成分」「茎になる成分」「花になる成分」が含まれていることになります。

 あまり葉っぱを小さくすると、土に挿す方法では、根や茎が出てきません。でも、試験管の中の栄養分の豊富な「培地」で育てると、1ミリ程度の茎の断片から、ちゃんと植物全体を再生させる事ができます。どんどん断片を小さくしていき、究極として「細胞一個」にしても、その細胞から根と茎と葉と花をそなえた一人前の植物を再生できます。

 単細胞から植物全体を「再分化」させる事ができるのです。細胞一個は、体全体をつくりあげる能力をもっているのです。これを「全能性」と言います。

   生物の細胞には「全能性」がある。

これを理解しておくことは、生物学を理解する出発点になる大切な知識です。

 さて、葉っぱの中にも「根の成分」という言い方をしましたが、「成分」というのは、実は「遺伝子」の事です。細胞一個の中には、「体全体の遺伝子」が入っているという事です。「遺伝子」の実体はDNAです。DNAは生物をつくる「設計図」です。人間の体は約70兆個の細胞から出来ています。70兆ある細胞のすべてに、体全体をつくりうるDNAが仕込まれているという事です。

 あなたの指先の細胞ひとつにも、白血球1個にも体全体が含まれているのです。考えようによっては、70兆個もの莫大な無駄のような気もしますが、そこが機械やその他の無機物と根本的に生物という存在の違う点です。

 指の細胞一個に体全体が含まれているなら、孫悟空のように髪の毛一本とって、息を吹きかけたら孫悟空がたくさん現れる事になります。(髪の毛は細胞じゃないのでだめですが。)これがクローンというやつです。クローンは、体の細胞(体細胞と言います。)から、体全体を再生させたものを言います。
 
 もともと農業関係の言葉です。挿し木のように、種で育てたものでなはない個体の集団をクローンと言うのです。日本中に沢山の温州ミカンの木がありますが、あれはすべてクローンです。温州ミカンは、最初にできた突然変異の品種を挿し木で増やしたクローン集団なのです。現在、栽培されている果物の多くはクローンなのです。

 クローンが出来るのは「全能性」があるからです。全能性は細胞一個に体全体のDNAという設計図が入っているという事です。体全体分の「成分」つまり「設計図一人前」を「ゲノム」といいます。ゲノムという言葉も最近良く耳にするでしょう。

 植物の世界では、全能性は強く、ニンジンを水に浸けて、台所にほっとけば、すぐに全能性を目で確かめる事ができます。しかし、動物では全能性をすべての細胞に発揮させるのは、至難の業です。また、あんまり簡単に全能性が発揮されても困ります。指先をちょっと切って、 試験管の栄養物の中に挿しておいたら、だんだん手が出て、目が出来、足がのび、最後に赤ん坊が生まれて来るという事になってしまいます。

 これをやろうとしているのが、クローン技術というわけです。全能性という言葉は、簡単ですが、なかなか奥深い意味をもっています。生物の理解や現代の医療技術を考えるための大切な知識を学ぶ出発点になりるキーワードです。

★  まとめます。

細胞一個の中には、体全体分の設計図が含まれている。
これを【全能性】という。

生物の1個体分の設計図を【ゲノム】と言う。

体細胞から作られた個体の集団を【クローン】という。

 次回は、ガン細胞と分化について説明します。
=============================================
  きょうは、ここまで。
          ではまた。                
=============================================
【編集部より】
  
とっても「易しい」科学の話しです。

 ○ 「ちっとも易しくでないぞ〜 」という読者のみなさん。どんどん、質問してやってください。
 
 ○ 理科の先生とか、研究者の方々。
   説明の仕方の勉強会だと思って、ご意見を寄せてください。

よろしくお願いします。

      ミクロコスモスロス出版局 
        メイルマガジン編集部
         編集長  森谷 昭一
=================================================