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     メイルマガジン 「ミクロコスモス」  総合版
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                   2002/6/28
         ミクロコスモス編集部
              編集長 森谷

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           今週の名詩 と 名画
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     夢よ私を

      美しき夢よ
  私を起こしてくれ
  この世界で生きるという眠りから
  眠りより目覚め
  美しき夢に導かれ
  たどたどしく歩き始めたいのだ


  美しき夢よ
  私を眠らせてくれ
  私をゆっくり揺り動かし
  歩き続けなくても
  悲しみ続けなくても
  愛とともにいられるように


  美しき夢よ
  私をうちすててくれ
  私が存在することから
  私が私を離れ
  遠きものとともに
  世界が美しき夢となるように

       ヒルマン ビュセ
       詩集 「遠きものに」より

      クレー  喜歌劇「船乗りシンドバッド」戦いのシーン
       (1923年) ハンブルク美術館

 ビュセはロマン派の詩人。あまり知られないが、スイスで生まれ、ピアニストでもあった。「夢みるも、夢の中の夢」というが、人は真摯に生きたとき、夢と現実がにそんな違いはないことを実感するという。

 彼のいう「美しき夢」というのは何者であろう。真の人生なのか、高い知識なのか、存在そのものなのか。美しき夢は、人を目覚めさせ、導き、眠らせ、ゆらし、愛別の苦をのぞくものだという。さらに、人を否定さえして、私が私でなくなり、世界が美しきそのものになるという。それは、ブッセにとって、どのような存在であったのだろう。

 夢がどんなに危険で、身をやきつくし、世界をも滅ぼしかねないものである事を、夢見る人なら大抵感じる事だろう。夢は美と通ずる存在である。そして、思い出すにのはリルケの「ドゥィノの悲歌」である。


    ドゥィノの悲歌 より第一の悲歌

 ああ、いかにわたしが叫んだとて、いかなる天使が
 はるかの高みからそれを聞こうぞ?
 よし天使の列序につらなるひとりが
 不意に私を抱きしめることがあろうとも、わたしはその
 より烈しい存在に焼かれてほろひるであろう。なぜなら美は
 怖るべきものの始めにほかならぬのだから。
 われわれが、かろうじてそれに堪え、
 嘆賞の声をあげるのも、それは美がわれわれを微塵にくだくことを
 とるに足らぬこととしているからだ。すべての天使はおそろしい。

                     以下略


リルケのこの詩については、詳しく触れるのは別の機会として、美は怖るべきものの始めにほかならぬのだからとしていることに注目しておこう。

夢や美を追究するという事は、本当はただならぬ事である。創作者は、制作のために体力が必要なのではない。自ら生み出した美や夢にうち砕かれないために強靱な体力と知力が必要なのであるという。精神の力の足りない者が、巨大な美や夢に触れてしまえば、狂気に投げられてしまう事だろう。

だが、夢は遠きものを世界として、世界そのものが夢になるという。ビュセの予感した世界とは、どんな世界なのだろう。

 リルケと言えば、クレーの絵が思い出される。クレーにはリルケから発想された絵が残されている。クレーの絵は、無邪気な子供の雰囲気がある一方で、その鮮烈な美の追究は人に畏れをいだかせるほどである。今日紹介した絵は、詩の内容とは直接関係はないが、美の追究の厳しさを感じさせてくれる一品である。

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     きょうは、ここまで。
       ではまた。
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【編集後記】

 久しぶりに横浜にいきました。なにやら人だらけで、またまた目が「なると」、足がクラゲ、脳が干物、になりました。

東海道線に横浜から乗った時には満員でしたが、どんどん人が降りて、小田原についたら、3人位しかいませんでした。
 とんでもない、田舎に引っ越したのだと、今頃実感しました。地方都市は空いていて暮らしやすいです。地方都市なんて言うと、ご近所の人達は怒るだろうけど、編集長は、どんどん地方都市の人間になって来てます。
  

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      ミクロコスモスロス出版局 
        メイルマガジン編集部
        編集長  森谷 昭一
 

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