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     メイルマガジン 「ミクロコスモス」  総合版
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            2002/6/18
         ミクロコスモス編集部
          編集長 森谷

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   今日の詩と解釈
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         蝶

        西条 八十


    作品を御紹介したいのですが、著作権存続作品ですので、
    直接、下記の書物などをお読みください。

         西条八十 詩集
           笹原常与 編
             白鳳社

【解説】 ある解説者は、この詩をこう解説しています。
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 たぶん、人々は、ここに用いられている「蝶」という言葉を「詩」の象徴的表現として理解し、無意識のうちに「蝶」を「詩」に代替しながら、この作品を読むに違いない。・・・・中略・・・「やがて地獄に下るとき」という詩句にに表された自己認識の仕方に私は興味を持つし、第三連の「一生を 子供のように これを追ってゐました、と。」いう自己批評のしざまにも興味をもつ。・・

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 詩人の高きを求める精神と、自己批判の厳しさが際限なく循環する事が詩人の魂であるとの解説です。確かに詩人とはそういう存在です。たった数行の言葉を並べるために、あらゆる栄達を捨てる詩人は、時に人々の理解越えます。この詩は、そんな人々の想いに対する返答かも知れません。

 若き日には、誰もが蝶を追い求めることでしょう。だが自己批判の厳しさに削り落とされて、残るのは蝶の死骸だけだと。そしてそれが詩だと。

 厳しい追及の末に、もう誰も批評する事のできない高みにたっします。それでも、一級の芸術家がより高い世界に最後まで向かえるのは、厳しい自己批判の力だけかもしれません。

武満徹やピアソラの研ぎすまされた音の世界にふれる時、ふとそんな事を感じるのです。この解説者の言葉は、確かにひとつの正統な解釈として受け取る事ができます。

 さらに、蝶と夢と読み替えて、人生を重ねるのも一つの詩の受けとめかたでしょう。また蝶を真理を読み替えようが、解釈は成り立ちます。

 しかし、それだけだろうかと、ふと思いました。詩に対し、我々は言葉の響きと、それが喚起する映像を、なんら思想的解釈を捨てて、真摯に受けとめるべきと私は考えます。


 深く暗い地獄の空間で、本当に父母・友人達の驚く顔を前にして、ふところから蝶の死骸を取り出すひとりの人間の姿を映像として受けとめてみてください。そんな映像そのものとして受けとめる方が、作者に喜ばれるのではないかと思います。しかし私は、その地獄の暗い空間の遠くに、星にうかぶ地球の映像をはりつけてみたいのです。

 そんなものが地獄で見えるかどうかは、構わないでください。蝶の死骸の悲しい姿を一瞬のうちに光に変えてくれるのは、そんな映像だけです。読者として、解釈者を越えて、詩人を地獄から連れ戻したいからです。

 西条八十は大衆的な詩人として知られています。歌謡曲や童謡の作家だけと思っている人も少なくないでしょう。八十は世間に背を向けた孤高の詩人ではなく、時に世相にまみれ様々な活動もしています。

 蝶を追いかけ続ける詩人だけが、だれもを本当に楽しませる事が出来ると、私は思います。武満やピアソラは厳しい追求の一方で、本当にやさしさにあふれる「ポピュラー」な作品も残しています。

それは高山の頂きから平地に住む私達への贈り物です。西条八十から私たちへの、そんなやさしい贈り物を紹介します。歌謡曲まで、あと一歩の所にある詩ですが、気品と厳しさには、少しも手抜きがありません。


      書物

   月の夜は
   大きな書物
   ひらきゆく
   ましろき頁

   人、車、
   橋の柳は
   美しくならべる活字。

   樹がくれの
   夜の小鳥は、
   ちりぼひて
   黒きふり仮名。

   しらじらと
   ひとりし繰れば、
   懐しく、うれしく、
   悲し。

   月の夜は
   やさしき詩集、
   夢のみをかたれる詩集。


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      きょうは、ここまで。
           ではまた。
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【編集部より】

 ちとまた、配信が遅れました。すみません。



     ミクロコスモスロス出版局 
     メイルマガジン編集部

      編集長  森谷 昭一
 

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