─────────────────────────────────ミクロコスモス大学講座2002年11月12日学問基礎「言葉の階層性」
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                発行 ミクロコスモス編集部

○ 本日は罫線があるので、等幅フォントでお読みください。
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   ミクロコスモス研究学園講座 学問基礎論 
   階層性の思考1  言葉の階層
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 階層性の思考1 言葉の階層性

各分野での階層性について講義するこの講座の「言語」の分野についてお話させて頂きます。

さて、具体例から入ります。次の文はなんとよみますか。

  すもももももももももものうち。

ちょつとよみにくいですね。

  すもも も もも も ももの うち

と「わかち書き」すると、少し読みやすくなります。漢字なら

  李も桃もモモのうち、

つながりを( )で示すと

(((すもも)も)((もも)も))(((もも)の)うち)


となります。これでもなんだか眼がちらちらします。こうしてみましょう。


       ┌────┴─────┐
    ┌──┴──┐    ┌──┴─┐
  ┌─┴┐   ┌┴┐  ┌┴┐   │
 すもも も  もも も もも の  うち


すこし見やすくなったでしょう。実はこれは文法学で、文を分析する時の表示 の仕方です本当は線は斜め線を使います。今日の講座はテキスト形式なので、 しかたなく罫線を使っています。 。また、 正式には次のように書きます。

            文
       ┌────┴─────┐
      名詞節        動詞節
    ┌──┴──┐    ┌──┴──┐
   名詞句   名詞句  名詞句    │
  ┌─┴┐   ┌┴┐  ┌┴─┐   │
  名詞 助詞 名詞 助詞 名詞 助詞 動詞
 すもも も  もも も  もも の  うち


 すもも という名詞と も と言う助詞が一緒になると、名詞句になりま す。名詞句と動詞句で文ができます。このように ○○ と ×× が一緒に なって △△ が出来るというもののつながり方を示すのに、便利な図です。

線を斜めにかいて、ひっくり返すと樹木のように見えるので「樹形図」といい ます。つなぎ目を「節点」と言います。木の枝の分かれ目ですね。樹形図の事 は、変形文法講座で、学びますので、少しおいておきます。

このように 単語 と 単語 が結びつくと 「句」というものになります。 「句」と「句」が結びつくと「節」になります。「節」と「節」が結びつく と、「文」になります。

節と文は「、」と「。」をつける時の基本になるので、文章を書くとはには、 みんな気にしてますね。節と節の間に「、」をつけて、文の終わりに「。」を つけると

   すもももももももも、もものうち。

という事でしょうか。ちょっと誤解される例なんですが。このように言葉は

  単語 が集まり  句 になる
  句  があつまり 節 になる
  節  があつまり 文 になる


という構造をしています。「何と何が一緒になって何になる」と言う関係が積 み重なっていく構造を「階層性」と言います。言葉には  単語 ・ 句 ・  節 ・ 文 という階層性がある事になります。さて細かい方に、分けてみ ましょう。

 ほうき  → ほ + う + き

ですよね。単語は分解すると、「あ」「い」「う」・・・という「音節」に分 解されます。書いた場合なら「文字」に分解されます。さらに

  ほ + う + き → h + O + u + k + i

と子音・母音などに分解できます。これを「音素」といいます。さらに音素は 「音」に、音は「音響スペクトル」に分析されます。音韻学や音響学の分野で す。

さて、いきなり単語を音に分けてしまいましたが、実は途中に細かく中間段階 があります。

  はつでん 発電  → 発 + 電

このよううに、漢字の組み合わせる中国語の語形成の階層単位があります。また


  はだか  → 肌 + あかい (あかいは素であるという意味)

のような「語源」上の分析単位もあります。英語でも例えば、

 abnomal → ab + nomal
 
のような分析ができます。 (から離れた)という意味の「ab」と 正常な という意味の「nomal」で異常という意味になります。語源を分析すると  単語は

 ab ex ful com en ・・

というような「接頭辞」や「接尾語」のような「語根」と呼ばれる単位に分析 されるのです。英単語習得の近道として、習いましたね。 さて、さらに

 look  + for    look + at

のような、単語と単語の組合わさった「熟語」のような単位があります。

 羊頭狗肉 → 羊頭 + 苦肉   弱肉強食 → 弱肉 + 強食

のように四字熟語の分析単位なんてのもありました。意味論的には、これは文 に近い単位なのですが。

さて、大きな方へ目を向けてみましよう。

  私は彼が歌を歌ったのを知らなかった。

ひとつの文のようですが。

  私は(彼が歌を歌った)を知らなかった。

と分析されます。文の中に文が入れ子になっているのです。枝分かれ図にすると
 
           文
    ┌──────┴─────┐
    │      ┌─────┴───┐
    │     名詞句        │
    │   ┌──┴───┐     │
  名詞句   文      │    動詞句
  私は  (彼が歌を歌った)を  知らなかった。

    * 文の名詞化にともない「の」が挿入される。

とように文の中に文がはめ込まれている事が分かります。この分析はちょっと 正式ではなく、本当はもっと面倒で、文を名詞化する手続きなどが必要なので すが、それは英文法講座で学んでください。英語で関係代名詞や関係接続詞の 使い方が面倒ですが、文の中に文が入っている事を理解すれば、小さな文に分 けて考える事ができます。一組の主語と動詞から出来ている文を「単文」、こ のように複数の文から構成されている文を「複文」と言います。

さて、次のようなむすびつき方もあります。

  ソクラテスは哲学者である。

  そして

  ソクラテスはギリシャ人である。

  したがって

  ギリシャ人である哲学者は存在する。

このように、「そして」「または」「および」「したがって」などの「接続詞 類」で文をつなげた単位があります。これを「論理」あるいは「論証」と言い ます。論理学で扱われる文の階層です。


 小売店どうしの結束が弱ければチェーン作りの効果は発揮できないし、ま た、共同か仕入れの割合が低ければチェーン作りの効果は発揮できない。

この文を記号化すると

    ( p  →¬r) ∧(q→¬r)
 
となります。なんの事やら不明の人が大部分と思います。 p とか q の記 号はひとつの文を示します。接続詞でつながれた文の間には、このように分析 される論理上の言葉のまとまりがある事だけ知っていいれば結構です。

さて、次の詞をみてください。


  胡麻の木
  畑は
  皆はねた

  十六大角豆も
  皆はねた
 
  雀が畑に
  かくれてる

  鉄奨とんぼに
  話して来

  十六大角豆

  野口雨情
  
四つの部分に別れていますね。このような詩のまとまり方を「連」などといい ます。詩にはさまざまな形式上の階層があります。俳句の 五 七 五 和歌 の 五 七 五 七 七 のような定型もまとめ方のひとつです。漢詩 の  五言絶句 などの形式も言葉のまとまり方のひとつです。

詩における文あるいは 単語 と単語 の結び付け方は、論理記号で分析され るような「論証」とまるで違う方法で結びつけられています。合理的結合、創 造的結合 にでも二分されるような 情景あるいは心理と関連する独自の結合 です。


  胡麻の木         胡麻の木 / はねる(近似関係)現実
A 畑は
  皆はねた
 ──────── 近似順列関係
B 十六大角豆も
  皆はねた         十六大角豆 / はねる(近似関係)現実
 ──────── 近似関係だが、切断的
C 雀が畑に
  かくれてる        雀  / かくれる (準近似関係)現実
 ━━━━━━━━ 切断的関係
D 鉄奨とんぼに
  話して来         とんぼ / 話す  (緊張関係)非現実

こんな分析ができるような、言葉の構成方法です。

小説や論文は、論証的結合と詩的結合が混ぜ合わされています。そのような長 文では、字下げなどをして「段落」に分ける事があります。国語の 授業で「形式上の段落」とか「意味上の段落」とかに分ける作業をさせられた 人もいるでしょう。「段落」も言葉の階層のひとつです。

文節や段落がつづいて、「章」などの階層をへて、ひとつの「文章」に仕上げ られます。小説などのひとつの作品となります。これも言葉の階層でしょう。 本に仕上がっていく段階で、さまざまな編集上のまとまりがあります。

夏目漱石には、「ぼっちゃん」「三四郎」「明暗」など多くの作品があります が、全作品を通して、漱石らしさ、漱石の思想というものがある筈です。生涯 を通じて、追求したひとつの事が、作家ごとに読みとる事ができます。アリス トテレスの思想、西田幾多郎の思想・・思想が書物の中に展開されるものと捉 えれば、これもひとつの「言葉の階層」です。

 作家達はが結びついて同人や結社をつくり同じ理想を追求したりする場合も あります。○○派 と呼ばれるようなまとまりです。白樺派、自然主義文学、 ダダイズム、新古典主義・・・これらは「思潮」というような階層といえるで しょう。

どんなに思想や思潮が違っても、大正の文学は大正の文学で、江戸末期の文学 は江戸末期の文学です。中世、上代・・・いわゆる「時代」に思想は制約さ れ、また思想のまとまりが時代を作っているとも言えます。時代精神と言われ るようなものも、膨大な言葉によってまとめ上げられている階層の一つです。

文学や思想の他に言葉は多くの分野を規定します。法律も成文法、不文法を問 わず、言語によっている点では同じです。法律も、節、章、法、法体系、・・ さまざまな技術的な階層をもっています。

人間の文化は言語によって成立しているという「唯言主義」の考え方をすれ ば、あらゆる文化の規定に言語があります。そして、目にするあらゆるものが 「言語の階層」として把握できる事になります。人の心の襞とよばれるような 階層、民俗や慣習も言葉の階層として把握できるかもしれません。

言語学での 言語という単位 語族という単位 方言を分析する時の地理的単 位などもあります。

そこの分析は、独立したそれぞれの学問での階層を述べる時に行う事にしまし ょう。もう一度、全部の階層を並べてみましょう。

音響 → 音素 → 音韻 → 音 → 語根 → 単語 → 熟語 → 句  → 節 → 文 → 複文 → 論理推論 → 段落 → 章 → 作品  → 作家の思想 → 思潮 → 時代精神 

 その他 詩の単位 編集上の単位 語族 ・・・さまざまな 階層が存在します。

さらに細かく分析すると、さまざまな細かい単位があり、階層を発見する事が できます。言葉の機能は、「切る事」 と 「つなく事」という相対する両方 の機能があります。言葉を理解する事は世界を理解する事です。言葉を書くこ とは、世界を構築する事です。切る事とつなぐ事により、世界のまとまりが発 見されます。それは存在をみつける事です。それは同時に階層の発見なので す。

 言葉の各階層に成立している、言語技術について、は別の講義でお話しま す。言葉の世界に、他にどんな階層があるか、各自考察する事を宿題としてお きます。
 
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   講義はここまで   では次回
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【研究学園より】
 今日の講義録は、ミクロコスモス研究学園講座、「学問基礎」 のひとつです。ミクロ コスモスは入学すると最初にあらゆる学問の基底にある、ひとつの思考を修得 するための講座が必修です。そのひとつの講座です。これは、いろいろ な分野の先生が共同して講座を構成します。
 次回は、音楽、社会学 での階層性をとりあげます。
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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一