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Michael Pitつれづれ 前のページへ 次のページへ

(2012.初夏)
詩人の星ひかりさんの詩を、星さんの許可をいただきまして、掲載いたします。
『臨界幻想2011』を観劇されたのち、書かれたものです。
ぜひお読み下さい。


鎮魂歌はまだ早い

3・11のあとで
「あの台本をなんとかしなければ・・・」と動いた劇作家がいた。
なんとか上演しなければ・・・と動いた俳優たちがいた。
そして
3・11から一年経ち
彼らの舞台「臨界幻想」は30年ぶりに、ここ東京で再演された。
幕があがり、私は、まばたきすることも忘れ、舞台に釘づけになった。

若い原発労働者の突然の死からはじまり、
死因をめぐって母親が動き出す。
「なぜ おらの息子は死ななければ ならなかったの?」
つぎつぎにわかる原発内のずさんな労働実態。
被曝手帳は、会社によって 実際の被曝線量よりも低い値にねつ造され
全国から来る下請け、孫請け会社の現場労働者が 
つぎつぎと使い捨てにされていく・・・・。
行きつく先は、死。
その死因も不明なまま、労働者のあいだで、ささやかれる会話。
つぎは 俺の番か・・・?
おれの身体は、被ばくでぼろぼろだ!
おれは、結婚もできない。
おれの子どもは きっと奇形で生まれてくる。
そういって、婚約者とのあいだに悲しい事件も起きた。
主人公は 被曝による白血病との労災認定はおりず、
あくまでも死因は心筋梗塞とされた。

この図式は
まさに いまの福島そのものだ!
福島の住民が味わっている事態そのものだ!

3・11以後、福島の母たちは医師たちに言った。
「私の子どもは大丈夫でしょうか? 鼻血がとまらないんです。」
「お母さん、あなたが神経質になっているとお子さんは、ますますそうなりますよ」
県内の医師たちは、安全だからと 母親たちの訴えに取り合わなかった。
そればかりか、不安になる要因を母親たちの神経質さにすり替えた。

秋ごろから各小学校、保育所に設置された放射線量をはかるモニタリングポストは
毎日平均毎時0.5~0.8マイクロシーベルト、
場所によっては10マイクロシーベルトを上回った。
その数字は日によって動き、高めに出るとあわてて
その測定地点の下だけ掘って、数字だけを下げるということが行われた。
どうして 子どもを守る施設で、こんなことが起こるのか?
「福島はまだ大丈夫」というための愚策でしかない。

春になって、福島市や郡山市の高校生が
とつぜん心筋梗塞で亡くなったときいた。
これまで元気だった息子が、ある朝起こしにいったらもう死んでいたなんて!
私がその母親だったら発狂してしまうかもしれない。
それが舞台の母親の姿と重なりすぎて
私は流しかけた涙が、身体中の怒りで止まってしまいそうだった。
そしてじっと舞台を見据えたまま動けなくなった。

根本が間違っている。
どこかが狂っている。
なんのために、原発は安全だ!と言い続けるのか!
1981年の初演以来、
30年経ても、この日本はなにも変わっていない!
そして、「おかしいことをおかしい!」と言えば、まわりから叩かれる事態に
住民は口をふさがれ、
みえない敵を見通す力をそがれ、
生きていく希望を見いだせなくなっている。
そればかりか、不穏なお金がばらまかれて
原発の立つ地方では、人のこころまでも狂わされていった。

日本の国民たちよ!
いまこそ学べ!
起きていることに向き合って
いまこそ学べ!

私たちは、世界大戦時から5回も被曝した民族では、なかったのか?
私たちは、もう十分に苦しんだのではなかったのか?
なぜ いまだに原発再稼働の声があがるのか?
なぜ これから果てしなくつづく次世代の苦しみを感じようとしないのか?
あなたの子どもが
あなたの孫が
ある日突然、被曝によって命を落としても
奇形のある子どもを産んでいく事態がやってきても
あなたは その責任をとれるのか?
あなたは その子どもたちを育ていく覚悟はあるのか?

祖国よ!
わたしの祖国よ!
鎮魂歌を歌うには
まだ早すぎる!

それより なにより
事故以前から原発機内で働く労働者たちを
救いたまえ!
いまなおフクシマに閉じ込められている人々を
救いたまえ!
未来に生きる子どもたちを
救いたまえ!
日本の名にかけて
尊い命を救いたまえ!





2012・5・20
星 ひかり

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