文:クライシスTさん 絵:Meteor
金曜日夜7時。この時間が来るともう準くんはどうにもなりません。
「またテレビにかじりついて…もう少しテレビから離れて見なさいね」
そのお母さんの声ももう全く耳に入っていない様子です。
「全くもう…」
お母さんも苦笑いするしかありません。
「ドラえもんがうちにも来てくれないかな〜。」
準くんはしばしば、特にこの時間になるといつもそんな事を考えています。そこに、テレビにドラえもんからの思わぬお知らせが映りました。
「今、ボクのイラストを募集しています。イラストを送ってくれた方の中から抽選で100人のお友達に、このドラえもんハサミをお送りいたします。あて先はこちら。締め切りは、来週の木曜日です」
準くんは一斉に色めき立ちました。
「お、お母さん、紙とペンちょうだい!」
普段比較的ぼーっとしている準くんとは思えない素早さでした。そして準くんはお母さんがびっくりするほどの速度で宛先を紙に書き写したのです。
「すごいわねー…」
「さて、どんなドラえもんを描こうかな…」
お母さんの感嘆の言葉も準くんの耳には入っていません。実は準くん、これまでも何度か応募したことがあるのですが、すべて外れてしまいました。今回こそはと、意気込みは尋常ではなかったのです。
次の日、準くんはなかなか起きてきませんでした。部屋に入ったお母さんが机の上を見ると、そこにはドラえもんのイラストが下描きを含め十数枚ありました。
「ふぁ・・・・・・あ、お母さん・・・?えっ、7時20分!?」
部屋に入ってきたお母さんの足音で目が覚めたのでしょうか。ゆっくりと体を起こした準くんは時計を見てびっくりしました。
「準、早くしないとお味噌汁さめちゃってるわよ。」
お母さんはそれ以上のことは言いません。昔から準くんは熱中すると時間を忘れてしまう事があることを、お母さんはよく知っているのです。
「昨日一体何時まで起きていたのかしら・・・」
いつも遅くても9時に寝る準くんですが、昨日はどうやら10時・・・いや11時ごろまで起きていたようです。
そして、再び金曜日の夜7時がやってきました。
「先週のボクのイラスト募集のお知らせに答えてくれて、みんなありがとうございました。ドラえもんハサミは」
次の瞬間、準くんは天にも昇る気持ちになりました。
「藤森 祐樹くん(11)
松木 里香さん(12)
中川 太一くん(8)
水野 誠くん(9)
羽犬塚 準くん(10)
ほか95名のみんなにお送りいたします。みんなありがとうございました。」
「や、やった、当たったよ、お母さん!!」
「準、やったー!」
お母さんも当たるとは思っていなかったのでびっくりです。
「楽しみだな〜。どんなのが来るのかな〜。」
そして土曜日。準くんのもとについにハサミがやって来ました。
「うわーっ、きれい!」
準くんは喜びを抑えきれない様子でした。
「きれいと言ってもハサミなんだから、取り扱いには気をつけてね」
「カバー付いてるから大丈夫!」
ドラえもんカラーに輝くそのハサミは準くんの心をあっという間にとらえてしまったようです。そしてハサミカバーに描かれたイラストもすっかり準くんの心をわしづかみにしていました。
「ドラえもん、かわいい〜!」
お母さんも、笑いながら見ているしかありませんでした。実際、そのハサミのイラストは、お母さんから見てもかわいいものだったのです。しかし、
(あれ?なんかテレビで見たのとちょっと違うような…。)
お母さんはふとテレビで見たハサミのデザインを思い出し、何か違和感を覚えてしまいました。しかし、ここでそれを言い出せば準くんを傷付かせる事になってしまう危険性があります。
(まあ、テレビで出てたデザインは、ひとつの例に過ぎないかもしれないし…)
準くんにはそれと別のデザインが当たった、とお母さんは解釈しました。
さて、やはりと言うべきかドラえもんハサミがすっかり気に入ってしまった準くんは、色んな物を切り・・・ませんでした。
怖がりな準くんは、本当はハサミを含む刃物がちょっと苦手だったのです。それに、ハサミを使う用事もなかなか見当たりませんでした。
「準、どうしたんだ、夕飯だってのに?何悩んでるんだ?」
「お父さん、準ったらドラえもんハサミが当たって喜んだのはいいんだけど、なかなか使う事がなくてちょっと悩んじゃってるんですよ」
夕ご飯の時にお父さんとお母さんに指摘された準くんは、ますます頭を抱えてしまいました。そのせいか、夜も眠れません。
「うーん、せっかく当たったんだから使いたいのに・・・・・・。えーと、えーと・・・」
準くんは色々部屋の中を探し始めました。すると、
「あ、切り抜きの本だ!」
たまたま切り抜き遊びの本を見つけたのです。
「やった!これで使える!」
準くんは喜び勇んでドラえもんハサミを使い始めました。何だか、そんなに器用でもない準くんの腕も、すらすら動いています。
これもドラえもんハサミのおかげなのかな、と思いながら準くんは夢中でハサミを動かし続けましたが、ある事が起こりました。
「ね・・・眠いよぉ・・・」
準くんは気付いていませんでしたが、時計は既に9時半を過ぎていました。準くんが眠くなるのも当然でした。
「もうダメ・・・」
準くんはもうハサミにカバーを付ける事もできず、敷布団の上に横になって掛け布団を自分の上にかけると、完全に夢の中に入ってしまいました。
「あれっ?」
気が付くと、準くんは海岸にいました。しかも、パジャマはおろか、シャツもパンツも身に着けていません。準くんは恥ずかしくなっておちんちんを両手で隠しましたが、周りをよく見ると誰もいません。その事に気付いた途端、顔から汗がふきだしてきました。
「暑いなあ…」
日差しがジリジリと照りつけています。
「海に入ろーっと!」
準くんは手をおちんちんから離して顔の汗をぬぐうと、両手両足を目一杯に広げて海に飛び込みました。
「気持ちいいー!」
海の水はとっても冷たくて、ものすごく気持ちのいいものでした。
「あれっ…?ぼくこんなに泳げたっけ?」
その上、準くんは自分でもびっくりするぐらいすいすいと泳げていました。
「うわーっ、体が軽くて気持ちいい〜。」
さらに、1分近く海の中に潜れるようになっていました。
「準くーん、一緒に遊ばない?」
海を楽しんでいた準くんに、明るい声が飛んで来ました。
「イルカさん?」
「そうだよー。」
よく見るとイルカです。この上にイルカと遊ぶことができるなんてと、準くんはもうすっかり有頂天です。
「いやっほー!」
「うわーっ、イルカさんすごーい、ジャンプうまーい!」
「そうかな?」
「そうだよ、すごいよ!ボクこんなの初めて!」
まずイルカに乗った準くんは、イルカのジャンプに感動しきりでした。
「そういえば、準くんすごい泳ぎうまかったよね?ボクと競争しない?」
「ええー・・・イルカさんに勝てるかなあ?」
「あそこまでどっちが先に着くかな、勝負だよ!」
次に準くんはイルカと泳ぎで対決しました。
「準くんはやーい!こりゃボクも本気で行かないと…」
そして抜きつ抜かれつの結果、準くんが勝ちました。
「すごいねー、準くん。」
「イルカさんに勝っちゃうなんて・・・」
準くんもびっくりです。
「あっそうだ、取ってくるものがあったんだ」
「え、何?」
するとイルカは突然深く潜り始めました。
何だろう・・・まさかボクに勝ったからって、メダルとかくれるのかな・・・と準くんは考えていました。しかし、準くんの頭の中に全然別の事が突然飛び込んできました。
「あ、おしっこ・・・」
準くんはおしっこがしたくなってきてしまいました。
「どうしよう・・・」
さっきの海岸に戻ってしようと思いましたが、かなり離れていてそこまでガマンできるかわかりません。
「ここでしちゃおうか・・・」
準くんの中にそんな気持ちがめばえ始めました。
「で、でも、イルカさんに失礼だよね・・・ここでしちゃ」
準くんの心の中で葛藤が始まりかけたその時です。
「これ、準くんにあげる」
イルカが何かを口にくわえて上がってきました。
「え・・・?これ・・・」
よく見ると今日準くんに届いたドラえもんハサミです。ただしカバーがありません。
「さあ、そのハサミを一旦開いて、そして閉じて」
要するに切る動作をしてくれと言うことです。
「で、でも・・・」
「早く!」
「えっ・・・?」
よくわからない準くんがためらうと、イルカがせかすような言い方になりました。準くんはあわててハサミを手に取りました。
「はやく、はやく!」
イルカがあんまりせかすので、準くんはハサミで切る動作をしました。
準くんは布団の中にいました。
「ん・・・?」
時計を見ると5時です。
「あれ・・・夢だったのかあ・・・イルカさんと楽しく」
そこまで言った時、準くんはある事に気付きました。
「お、おしっこおしっこ〜!!」
準くんはあわててトイレへ駆け込んで行きます。
「はぁ〜・・・」
そして、ちゃんとおしっこをすることができました。
「すっごく多いなあ・・・あ」
準くんはおしっこの量がものすごく多いことに気が付きました。と言う事は、あとちょっとでも遅かったら間に合わなかったことになります。
「イルカさん・・・もしかして・・・」
あのまま夢の中にいたら、おねしょをしていた事は確実だったでしょう。
「ありがとう、イルカさん・・・あれ?」
準くんは夢の中のイルカさんにお礼を言った途端、ある事に気付きました。
何でイルカさんがドラえもんハサミを持ってたの?
何でドラえもんハサミで切る動作をした途端、目が覚めたの?
準くんが疑問を抱えながら部屋に戻ると、机の上には作りかけの切り抜きの本と、カバーのかかってないドラえもんハサミがありました。
「もしかしてこれって!?」
昨日の準くんの夢はこの上なく楽しいものでした、けどあれ以上見続けていたらおねしょという結果になっていた事は確実でした。
どうやらこのハサミには、都合の悪い夢を切り取ってしまう効果があったようです。
「ドラえもん、ありがとう!!」
こんにちは、Meteorです。
すっかりご無沙汰すみません。せめてトップ絵だけでも夏らしく更新しよう…と、スク水で海に飛び込む準を描いて、なんとか夏に間に合わせて暑中お見舞いとさせていただきました。で、せっかくならパンツはいてないやつも、ということで、裸ぽんぽんでダイブするバージョンも描きましたら、意外に反響が大きく好評でした(^^;。もっとカワイイおしりが描けるように頑張りたいです。
で、今回もお話なしで申し訳ないな…と思っていたら、クライシスTさんからすてきな物語を頂戴しました(^0^)〜♪。読んでいただいたとおり、私の絵を活かして、夢の中で裸で海を泳ぐ準を書いていただきました。泳ぐなんて、おねしょの夢っぽいと前に書きましたが、ぎりぎりセーフにとどめたあたりが、クライシスTさんらしいところです。この子は、どっちかというと気持ちよくおしっこする夢を見てやっちゃうタイプなので(自分がそうだったので^^;;;;;)、水に関係する夢だけでは大丈夫だったのかもしれません。イルカさんに気を遣って葛藤しているあたりがいかにも準という感じでよかったです。昔、『おねしょパクチョン』(さいきみよこ作 学習研究社 残念ながら絶版)という児童文学がありました。一年生のたけしが、夢でトイレを探していると、スケッチ大会で描いたバクのパクチョンが現れて、その夢を食べてあげるというお話です。あちらは、結局夢をパックンのチョンしそこなって、たけはおねしょをしてしまうのですが、ふとその童話を想い出しました。
そして、ドラえもんのハサミ…プロフィールには書きましたが、準は大の『ドラえもん』好きです。いつも、「うちにもドラえもんが来てくれないかなぁ」と思っています。まだそんなお話を書いたことはなかったのに、ドラえもんにかける準の気持ちを、クライシスTさんはとてもよく書いてくださったと感心しました。夢って不思議なもので、三次元…というか、実在の人物なら、会ったことのない人も出てきたりしますが、二次元のアニメや漫画のキャラは、やはり住む世界が違うのか、一緒に遊んだりはできないですよね?。夢の中にもドラえもんは出てきてくれないけど、それでもきっと、準のピンチを助けてくれたんでしょうね。子どもは暗示にかかりやすいからというのが常識的な説明でしょうが、準は確かにドラえもんの存在を感じたのだと思います。もちろんこれで準くんはおねしょを卒業しました♪では面白くない…いや(^^;、読者を置いて準が違うところへ行ってしまうように思いますので、また忘れた頃にやっちゃってくれると思います(笑)。『ドラえもん』という漫画自体、のび太がドラえもんの力を借りながら成長していくんだけど、やっぱりまた同じ失敗を繰り返したりする…でも、またがんばればそれでいいんだよというメッセージがいっぱいつまった作品だと思います。自分もまた、準くんを通して、そんなお話が書けたらいいなと思っています。
そういうわけで、クライシスTさん、すてきなお話をありがとうございました(^^)。先ほども書きましたが、『おねしょパクチョン』を彷彿とさせる、児童文学のような素晴らしい作品だと思います。そして、ドラえもん好きや不器用なところ、考え込むところなんて、準の性格をよく表現していただいてとてもうれしいです。自分のところのオリキャラでお話を書いていただけるなんて、最高の喜びです。本来いただきものとして特別展示室にUPすべきなのでしょうが、私の絵にお話をつけていただいた合作として、絵物語特別編とさせていただきました。掲載遅くなりましてすみませんでしたが、心から感謝申し上げますm(_
_)m。
お礼というわけではないのですが、絵を描きましたのでこちらからどうぞ。話中の手で前を隠すところです。お気に召すかどうかわかりませんが、ご笑覧いただきましたら幸いです。またどこかで、クライシスTさんの素晴らしいお話を拝読できたらいいと思います。どうかこれからも、よろしくお願いします(^^)。
↓この本の表紙みたいな
http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/s/?@0_mall/book/cabinet/8969/89696667.jpg
イルカさんに乗った準くんも考えたのですが、それはまたの機会に。勝手にURL引用してすみません。この本、表紙のイラストがカワイイのでつい買ってしまったのはないしょです(^^;。 |