突発的合作
 
〜 夕刻のひととき 〜
 
Presented by Meteor with ELE
( Illustration:Meteor☆/ , Story:ELE ) 

 

サスペンダー付きのズボンを穿く準

 
 

  
 ある日の夕刻、お母さんが自室でなにやらごそごそやっています。 
 
「これで良しっと...準ちゃんが帰ってくるのが楽しみだわ。」
  
 お、お母さん、また良からぬ事でもしようって言うのでしょうか? 
 
「人聞きの悪いこと言わないで!今回は真面目なんですからね。」
  
 ...それは失礼しました。(強調しなくてもいいでしょうに) 
 
「たっだいまぁ〜。」
  
 おや、準くんが遊びから帰ってきました。え?珍しいって? とんでもない!普段は大人しい準くんも、 友達と一緒に外で思いっきり遊ぶんですよ。 
 よほど楽しかったのでしょうか、彼の顔はニコニコと笑顔でいっぱい。窓越しに射した真っ赤な夕焼けに照らされた彼の頬は、笑顔と一緒に光っています。 
 
「おかえりなさい。」
  
 パタパタとスリッパの音を響かせながら、お母さんが出迎えました。 いつもと違う雰囲気を出している準くんを見て、お母さんも思わずニッコリ。しかし、彼の姿を見てすぐにビックリ!  
 いったい何処で 何して遊んでいたのでしょうか、ズボンは泥だらけ、 おまけに右膝には擦り傷があります。 
 
「エヘッ!汚れちゃった。」 
  
 しかし、準くんはへっちゃらの様子です。きっと、いつもおもらしで 汚れるから、泥くらい平気になったのかもしれません。そんな事を知ってか知らずか、お母さんは優しく言います。 
 
「まぁまぁ、いっぱい遊んできたのね。でもケガしてるじゃないの。ダイニングで待ってなさい。すぐに手当てしましょうね。その前に、このままじゃ家が泥だらけになっちゃうから、ここでズボンを脱ぎなさい。」
「は〜い。」
 
さて、数分後
 
「イチチチ...イテッ!
「我慢我慢!男の子でしょ?」 
「う...うん...」
  
 準くんは思わず、うっすらと涙を浮かべました。消毒液がしみて 痛いのです。慣れればなんでもないのですが、準くんは普段から大人しい分、ケガをする事もないので、痛さに対する免疫があまりないようです。 
 
「絆創膏を貼ってっと。終わったわよ。」
「あ、ありがとう。それじゃ、着替え...」
「そうそう、着替えなんだけど。」
「な何!?」(ヤな予感...)
「ちょっと穿いてほしいものがあるの。」 
「いっ!? お姉ちゃんのスカートは勘弁してよぉ。」
「それとも、お母さんのスカート穿く?。んもう冗談よ!新しいズボンが出来たから穿いてみてちょうだい。」
「なあんだぁ。」
「何だって事はないでしょ。自信作なのよ♪」 
「いっつもいっつも自信作だよね。まぁ、別に良いんだけど。」 
「あっはっはっは。それじゃ、こっちにいらっしゃい。」
 
 お母さんの趣味は「洋裁」。準くんの着てる服は、たいていお母さんの手作りです。なかなかの腕なので、市販品にも引けを取りません。 
 
「はい、どうぞ。」
  
 お母さんが手にしているのは、半ズボンに紐がぶら下がっていて...いや、そりゃ逆さまだから、ぶら下がっているのが半ズボンだよね。 
 
「あ、それってもしかして。ボクが小さい頃よく穿いてた。」
「そう、吊りズボン。」
「え〜!子供っぽいよ〜」
  
 とか文句を言いながらも穿いてみる準くんは、まんざらでもない様子です。やっぱり、お母さんの手作りが嬉しいんですね。何気なく後ろに振り向き、背中のクロス部分の金具を引っ張って手を離し、パチンとかやってたりして... 
 
「懐かしいなぁ。」
「でしょう。小学校に上がってからは穿かなくなったもんね。でもね、準ちゃんがサスペンダーすると結構似合うのよ。 この前、お姉ちゃんのスカートを穿いたときに気づいたの。 だから、吊りズボンがいいかなって思って作ってみたわけ。簡単にできちゃうし。」
「でも、これって縫いつけてあるでしょう?もし、ちょっと背が伸びたら、サイズが合わなくなるよ。」
「そこで、お母さん工夫したのよ。縫いつけてあるから取り外しは出来ないけど、ウェストには余裕を持たせたし、お父さんのサスペンダーを切って作ったから、ちょっとくらい背が伸びてもちゃんと調節できるのよ。お母さん、ちゃんと考えてるんだから」 
  
 なるほど、確かに背中の三角形のクロスは明らかに市販品の物です。 そして準くんには見えませんが、お母さんの後ろには切られた吊り紐とズボンに挟む金属のクリップが無惨にも転がっています。哀れ。 
 
「それにしてもよく似合っているわ。まるでやんちゃ 小僧ね。」
「やんちゃって、子供じゃあるまいし。」
「なに言ってるのよ、まだまだ子供じゃないの...あのね、お母さんはね、準ちゃんがずっと子供のままでいてほしいって思うときがあるの。」
「え、お母さん?」
「それを穿いてるときは、『ママ』って呼んでくれる? あの頃の準ちゃんは、いつも『ママ』って呼んでくれたから。」
「マ..マ..?」
「そうよ、いい子ね。」
「エヘヘ...」
  
 ママはニッコリ。準くんも頬を赤らめながらニッコリ。 
 
さて、その夜のこと。
  
 仕事から帰ってきたお父さんが、息子にいきなり『パパ』と呼ばれ困惑したのと、無惨な姿になった自分のサスペンダーを前に、滝のごとく涙を流していたのは言うまでもありません。 
 
「はぁ...」
「パパぁ、どうしたの?」
「これ、買ったばかりで使ってないのに...」
 
おしまい

編集後記

やってもうた...

話を考えていると、イメージがどんどん膨らんでどうしようもなくるんですよ。作家や漫画家が「自分の作ったキャラクターが暴走する」と嘆く気持ちがよくわかりました。
きっと、Meteorさんが話を考えているときもそうなのでしょうね。

今回は、お母さんが暴走しまくっています。「新品」を改造するかよ、ふつー(笑)

お母さんは、永遠に子離れ出来そうもないような感じになるし、準くんもその気になって、もっと甘えん坊になるし。
別にここまで崩す必要もなかったのでしょうが、テーマからして「幼い」というイメージが拭えない物ですから勘弁してください。

これを書いているとき、「母性本能」に目覚めたのは言うまでもありません。(笑)←だから俺は漢(おとこ)だっつーの!

それにしても、お父さんが哀れですね。(自分で書いていて世話ない)

最後に...

 物語の執筆を許可してくださって、なお且つ ヘッポコなラフ画をご覧になり、素晴らしいイラストに描き上げてくださった Meteorさまと、最後までご覧になった皆さまへ、厚く御礼申し上げます、

ありがとうございました。

                        1999年11月29日
                              ELE 拝



すてきな物語をありがとう(^^)

 実はここだけの話、私の物語はすべて準が書いてるんですよ。ええ、もちろん彼がちっちゃな手で、キーボードに向かって執筆しているという意味じゃないんですが(^^;。
 こんな物語を書きたいというアウトラインを決めると、準が勝手に動いてストーリーをつくってしまうのです。準ならこんなとき、こういう行動をするなとか、あんなこと言うだろうなとか。でも、ときにはそれが全く思いがけないものだったりして、作者である自分自身があわてたりすることもあるのです。
 そう、それがまさにELEさんの言う「キャラの暴走」ってやつなんですね。でも、そこからキャラクターに膨らみが出て、ストーリー展開にリアリティーが生まれたりするのです(^^)。

 今回のELEさんの書かれた物語「夕刻のひととき」は、準やお母さんがいい具合で「暴走」していまして、とても楽しいお話に仕上がっています(^^)。そうですね、準だって男の子だから、外で泥だらけになって帰ってくることもあります。”窓越しに射した真っ赤な夕焼けに照らされた彼の頬は、笑顔と一緒に光っています”という描写がいいですね(^^)。そのあとの傷の手当て、なんとなく「キズドライ」のCMを思い出しますが、よく考えると準はこの時点でズボン穿いてないんですね。それ想像するともう・・・(*^^*)。そのあとは、「お約束」のごとく自作のズボン、しかもサスペンダー付きを差し出すお母さん。いやがりながらも、穿いてみてちょっとうれしい準。自分自身こうやって母親の手作りを着せられたなあと懐かしく想い出しました(^^)。そのあとは、最初とまどいながらも思いっきり甘えん坊な準と、優しいお母さんのほほえましいやりとりが・・・(^-^)。このあたり、お母さん子で甘えん坊だった自分を想い出したりしました(*^^*;。私は、男の子は甘えん坊なぐらいがちょうどいいと思っています。そうやって自分は特別愛されてると感じた人だけが、同じ愛情で他の人を大切に することができるんじゃないでしょうか(^^)。これからも甘えん坊な準を書いてみたいなあと、母性本能をくすぐられました・・・って、俺も漢だっつーの!(^^;。そしてオチはやっぱりお父さん(^^;。やっぱり夫より息子の方が大事ですよね(^^;。よくありがちな、お父さんを笑いものにすると言うんじゃなく(そういうのはあまり好きじゃない)、その辺の家族関係がうまくまとめられていてよかったです(^^)。たのしい羽犬塚家の様子が目に浮かぶようでした(^^)。

 作者によっては、自分のキャラを自由に使われるのを好まない方もいると思います。でも、私は準を通して子どもの頃を想い出していただけるのなら、どんどん準をつかって想像力を広げていってほしいと思っています。もちろんあまりにも準とかけ離れたキャラにするのはだめですが、その点、ELEさんは過去の拙稿をよく読んでいただいてるみたいで、いかにも準らしい物語になっています(^^)。その上でELEさんの個性が表れた作品になってますね。おかげさまで、新たな準の一面を知ることができてとても喜んでいます(^^)。さすが「感情のイタコ」とおっしゃるだけあって、とてもすてきなストーリーでした(^^)。

 ELEさん、あらためてありがとうございました(^^)。物語をもらって絵を描くというのは初めてだったので、緊張しました(^^;。絵の方、いただいたイメージ画像を参考にして、期待に応えようと顔、サスペンダーの後ろ、右膝が見えるポーズにしてみましたが、どうも今一つですね(太り気味?。首太いし尻でかいし(^^;)。まだまだ精進が必要です。またいつか、もしよかったら準の物語・・・あるいは絵を描いてください(^^)。これからもどうかよろしくお願いいたします(^^)。

1999年11月29日
   Meteor ☆/

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