「蛍くん、起きてる?」
準くんは、蛍くんの手を握りました。
「・・・起きてるよ」
蛍くんも、準くんの手を握り返しました。
「・・・」
「・・・」
「ちょっとあんたたち、そのまま寝る気なの?」
誰かの声がして、ふたりは目を覚ましました。見ると、ウサギさんが立っています。
・・・そう、これは夢なのです。不思議なことに、蛍くんと準くんは同じ夢を見ているのです。あの夏の日のお泊まりのことを想い出しているのです。
「な、何でウサギさんが・・・」
準くんはちょっとびっくりしていますが、蛍くんはまたかという表情です。ウサギさんは準くんを見て言いました。
「あら、ニンジン嫌いって言ったのはあなたね?」
準くんは、とっさに頭を横に振りました。
「まあ、今日はいいわ。・・・それよりも、寝る前に、あんなにラムネを飲んだのはどこの誰かしら?」
ウサギさんが、ふたりが飲んだラムネの空き瓶を指さして言いました。
「子どもが寝る前にあんなに飲んだらおねしょするでしょ」
「ぼ、ぼくおねしょなんかしないもん」
準くんはあわてて言いました。
「ぼくだってしたことないよ」
蛍くんも言いました。
「そう、大丈夫なのね。それ、私が大事にしているおふとんよ。もし汚したりしたらお仕置きよ」
蛍くんはぞっとしました。ウサギさんのお仕置きと言ったら・・・。ふたりは思わず顔を見合わせました。正直な話、おしっこに関しては全く自信のない蛍くんと準くんです。そんな様子を見て、ウサギさんが言いました。
「やっぱり不安みたいね。じゃあこれをつけてあげるわ」
ウサギさんはどこから持ってきたのか、紙オムツを2つ差し出しました。
「い、いやだよオムツなんて」
ふたりはあわてて言いました。
「そう、じゃあそのままお休みなさい。目が覚めてどうなってても知らないけど」
どうなっているかは、蛍くんと準くんが一番よく知っています。ふたりはちょっとの間考えて、声をそろえて言いました。
「お願いしまーす」
ウサギさんはにっこりと微笑むと、蛍くんのズボンとパンツを脱がせました。そして仰向けに寝せるとひょいと足を持ち上げて、慣れた手つきでオムツを当てました。準くんも同じようにしてオムツを当ててやると、ウサギさんはぽんぽんとふたりのおしりをたたきました。
「さあ、安心してお休みなさい」
ウサギさんは意味ありげににやりと笑うと、ふすまを閉めて出ていきました。
「・・・・・・」
蛍くんも準くんも、物心がついてからオムツなんかするのは初めてです。なんだかごわごわして変な感じです。ふたりはその上からズボンをはくことも知らず、そのまま眠りにつきました。
朝です。蛍くんは目を覚ますと習慣のようにおしりのあたりのふとんに手をやりました。
・・・よかった、濡れてなくて。おしっこする夢見たからおねしょしたかと思った。ん?待てよ・・・オムツしてたんだっけ。
蛍くんはがばっと跳ね起きると、オムツを広げて見ました。吸水シートでおしりはさらさらなのですが、なんだか重くなっています。
「やっちゃった」
蛍くんの声で準くんも目を覚ましました。準くんもあわててオムツに手を突っ込みました。やっぱり湿っていて、押さえると吸水材がジェル状になっています。
「準くんやっちゃったの?」
蛍くんが聞きました。
「うん、やっちゃった。もしかして蛍くんも?」
「・・・うん」
目が合うと、恥ずかしくてふたりは真っ赤になりました。
「さあ朝よ、起きてちょうだい。まさか、4年生になってオムツ濡らしちゃった子はいないでしょうね」
後ろから声がして、ウサギさんが登場しました。ふたりは顔を見合わせると、思わず首を横に振って声をそろえて言いました。
「ぼく、おねしょなんかしてないよ」
「うそおっしゃい、私はずっとふすまの陰から見てたのよ。そういうこともあろうかと、蛍ちゃんの方だけお知らせマーク付きにしておいたわ」
蛍くんが見ると、「お知らせクマさん」が浮き出ていて、オムツを濡らしたことが一目瞭然です。蛍くんはあわてて隠そうとしましたが、もう遅いのです。
「おねしょしたのにしてないなんてうそをつく悪い子はおしりぺんぺんよっ。ふたりとも覚悟しなさい!」
「わーっ、ごめんなさい」
ふたりはおしりを押さえて逃げ出しました。
「もうしませーん。許してぇ」
「はっ」
気がつくと、ふたりはそれぞれの部屋、自分のふとんで横になっています。
「・・・何だ、夢か。それにしても危ないところで目が覚めてよかったなあ・・・ああーっ!!!」
あわててふとんをめくるとでっかいせかいちずが・・・。オムツを濡らす夢を見て、ほんとにおねしょをしてしまっているのでした。
「えーん、ちっともよくないよー。ウサギさんのいじわるー」
そう言ってしまってから、思わず背後からウサギさんが来ないか振り返る、蛍くんと準くんなのでした。
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