エデュカシオン・フランセーズ
何時もと変わらぬ夜が更けてゆく。
器用な手付きで夕食の支度をするのは力ンデラの役目。
ゴルゴンゾーラたっぷりの濃い味付けが施されたニョッキを、満面の笑みで美味しそうに平らげるのが卜ッティの役目。
他愛もない会話を交わしながら、食後には二人並んで仲良く洗い物を済ませてゆく。
それからミルクを温めていた力ンデラが、ローマでも見ることのできるFrance2の番組をキッチンから何とはなしに眺め、
リヴィングのソファからは、卜ッティがぱらぱらとサッカー雑誌を捲る、乾いた紙の音が聞こえてくる。
テーブルの上では、コーヒーが良い香りを纏った湯気を立てて、
イタリア風にカフェ・ラ・テにするか、フランス風にカフェ・クレームにするか、その行き先を待ちわびている。
今夜は、どうやらくすぐり合いによって勝利を手にした力ンデラが、鼻歌を歌いながらクレームを泡立てているようだ。
腹の下から微かなヴァイブレーターの震動を感じ、卜ッティはそれを取り上げた。
「ヴィンセント、電話鳴ってる」
「ああ、ありがとう」
美しい放物線を描いてリヴィングから投げられた携帯電話を受け取り、通話ボタンを押す。
「Pronto… salut,Liza!」
電話の相手はどうやら同郷の友人らしい。
肩と顎との隙間に器用に携帯を挟みながら、力ンデラは泡立たクレームをマグカップにゆっくりと注いでゆく。
「Qu'est-ce que tu as?」
…
「Tant mieux!」
…
「Oui, oui, d'accord. que tu veux acheter?」
・
・
・
つまらない、と卜ッティは漠然と思った。
何だよ、鼻にかかった声なんか出しやがって。
だからフランス語なんて嫌いなんだ。
気取ってやがるし。間延びしてるし。わけわかんねえし。
何より、自分の入っていけない話題で目の前の男が顔をくしゃくしゃにして笑い転げているのが気に食わない。
ソファを背もたれ代わりに座り込んだ力ンデラの巻き髪についつい手が伸びる。
指に絡ませて力まかせにひっぱったり、Tシャツの襟元から指を差し入れてくすぐってみたり。
「フランチェスコ?」
漸くこちらを向いた力ンデラは、すっかり拗ねてしまった王子様の顔を見て微笑した。
「王子様が拗ねてるから、もう切るよ」
『ああ、悪かったな。こっちもちょっと待たせてるから』
「あまり我侭言って、ウィリーを困らせるなよ」
『誰がウィリーだって言った!』
再び楽しそうに笑う力ンデラに、いい加減堪忍袋の尾が切れたらしい卜ッティは、
大袈裟な音を立ててリビングのドアを閉めてから自室に引きこもってしまった。
「フランチェスコ?」
そおっとドアを開けて、ベッドに大の字になって不貞寝している卜ッティに声を掛ける。
「…俺、フランス語嫌い」
「うん」
「気取ってるし、なんかつんつんしてるし。だから、絶対ヴィンセントのこと『ヴァンサン』なんて言わない」
子供のような言い草に、もともと垂れ目がちな力ンデラの眦がさらに緩む。
「いいよ、ヴィンセントで」
そう囁いて。
大きな手が、金色みがかった柔らかな髪をゆっくりと撫でた。
ぴくり、と背中が動く。そろそろ王子様のご機嫌が治った頃かなと当たりをつけながら、肩に置いた手に力を込めると、
卜ッティはこちら側にごろんと倒れこんできた。
「ごめん、二人でいるときなのに長電話して」
小さく啄ばむようにキスを落とすと、強張っていた顔から力が抜けてゆくのが分かる。
「なあ、ヴィンセント」
その手をTシャツの下へと滑り込ませながら、力ンデラは「何?」と問うた。
「あのさ…その、ヤってるときに、俺のこと『モン・うんたら』って呼んでんだろ。あれ、何よ」
「うんたらって…ああ、意味知りたい?」
肌を撫でる指に時折過剰な反応を返しながら、「別に」なんてまだ意地を張る卜ッティに。
力ンデラは笑って、その耳にキスしてから囁いた。
―――――俺の子猫ちゃん。(Mon petit chat...)
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フランス語を話す勘ちゃんに、ふて腐れる王子のネタはよくお見かけするのですが、
いちおうフランス者として書きたいなと思い立ち、書いてみました。
王子の誕生日にちょっと後れてしまいましたが、めるたんにささげますv
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王子受友達(笑)な姫宮りかちゃんに、お誕生日プレゼントとしていただきましたvv
とってもSweetな勘玉です〜!
王子の頭に耳が…お尻にシッポが…見えてきそうですvvああ、カワエエvv
フランス語の響きって甘いですよね。
あんなの耳元でささやかれたら、王子も溶けてしまうのでは・・・(*^.^*)
りかちゃん、素敵な小説をありがとうございましたvv めるより
>>>>>>>モドル