プリードーナム

左官メカ。

広く使われている建築素材〈コンギョード〉の製造と施工を行う。

胴体と右肩にあたる部分がコンギョードを製造するタンクである。まず胴体のタンクに原料一式を入れて練り混ぜ、コンギョード原液を作る。原液はそのままでは固まらず、乳液状のまま安定している。これを右肩のタンクに送り、硬化剤〈イラギン〉を加えさらに練り合わせる。こうしてできたコンギョード液を空気中に放出すると、数分のうちに硬化し強固な固体材となる。

右腕はコンギョードを放出するノズル、左腕はそれを均す鏝(こて)になっている。2つのタンクの背後に突き出でいるのはタンク内を撹拌するスクリューで、普段はこの位置に置かれる。

かつては建築現場でこのような2槽式の小型ミキサーメカをよく目にしたものだが、原液の保存技術が進むにつれ、工場から輸送した原液に現場で硬化剤を加えるのが一般的になり、現場で一からコンギョードを製造する光景はほとんど見られなくなった。

この機体はレトロな外見(この世界の基準で)の通り相当な年代物だが、かの伝説的左官職人インレット・ロンゲイトが今も愛用するれっきとした現役機である。運用法も相当レトロで、タンクに原料を補充する時は左右のアームの先にあるバケツに入れて持ち上げ、さらにその先にあるマニュピレーター(三角の部分)でバケツを傾ける。

「工場から運んできた原液でも品質に差はない」と進言する周囲をよそに、インレットは「建材はナマ物」「ワインとコンギョードに旅をさせるな」と言って現場練りの原液にこだわり続けている。

彼の名を伝説たらしめているのはコンギョードの吹き付けによる装飾の技巧である。ノズルと鏝を駆使して壁面に石彫と見まがうばかりの精緻なレリーフを施し、さらには庭園の立体彫刻まで造り上げてしまうのだ。他の誰にも再現し得ない驚異の技である。「練りたての原液」にその秘密があるのかどうか──彼は「左官の本分は土台と壁。装飾などは手すさびにすぎない」として多くを語ろうとしない。