湯田2001

 2001年5月3,4,5日

ゴールデンウィーク後半は盛岡の両親と娘達とで湯田町の湯本温泉に泊まってきました。
昨年も、湯田でヒメギフチョウを採集し、写真を撮ったのですが、その写真はネットで捕まえてから撮影したものでした。今回は野外で活動中のヒメギフを写すのがねらいです。

五月初旬は北日本は良く晴れ、絶好の行楽日和でした。今年は雪の多い冬でしたが、4月に高温が続いたために、季節は幾分早めに推移したようです。
湯田ではゴールデンウィークには桜は間に合わないのがふつうですが、今年は満開でした。ウメもソメイヨシノもヤマザクラも一斉に咲き出すのが寒冷地の特徴です。北国の春は一気に盛りを迎えます。
ヒメギフも例年だとこの時期は雄の出始めになるのですが、今年はオスは少し飛び古して翅が小破したものが多く、メスは新鮮という状態でした。

ところで、ヒメギフは山裾の雑木林が活動の場所です。落葉樹が芽吹き始めたばかりで林床に光が届くとき、チョウの吸蜜植物は花をつけ、食草のウスバサイシンは葉を展開するのです。

チョウを撮影するには、雑木林の枝がブッシュ状に入り組んだところを追いかけねばなりません。カメラを懐に抱え、いったん視野に捕らえた蝶影を見失わないように走って藪漕ぎをします。
バシバシと小枝が顔に当たり、脚はおよその見当で木々を飛び越えてチョウを追跡します。(眼は蝶を追ってるので、足元は見る余裕がありません)
ヒメギフはしばらく飛ぶと吸蜜にカタクリを訪れたり、地面に休息がてら日光浴します。そのときがシャッターチャンスです。
蝶が止まるまで見失わないように、追い続けなければなりません。
チョウの撮影は採集より遙かに難儀なことです。(厚手のズボンをはいても、向こう臑に痣や擦り傷ができました))

カタクリで吸蜜中のヒメギフチョウ Luehdorfia puziloi ♂ 
ビデオでも撮ったのですが、ングングと花蜜を飲む様子が近くだと分かります。
一個所の花では10秒ほど吸蜜、2,3の訪花のあと移動飛行に移ります。(また追っかけゴッコです)

日光浴中のヒメギフチョウ ♀
時々、複眼や触角を前肢でクリーニングします。
早春に出現する蝶は胴体の背面と翅の付け根が黒色をしています。これは、太陽熱を吸収するためでしょう。
春夏、二回出現する蝶では春型が夏型よりこの黒色部が広いのがふつうです。
ヒメギフは年一化、春のみの蝶なので一バージョンですが。

ヒメギフチョウの食草、ウスバサイシン Asiasarum sieboldii です。
漢方薬の「細辛」はこの植物の「根」を干したものです。

余談ですが、チョウ、特にアゲハチョウの食草、食樹は生薬になる植物が多くあります。
薬用植物とは「植物が他の生物に食べられないようにため込んだアルカロイドの薬効を利用したもの」が多いからです。
鱗翅目の昆虫は、特定のアルカロイドを分解できるように特化し、そのかわり、それしか利用できなくなった種が多いのです。
ヒメギフチョウの食草はウスバサイシン、オクエゾサイシンなどです。

ウスバサイシンの「花」です。
地面の上に壺型の花を付けます。
ウスバサイシンの属するウマノスズクサ科植物は巨大花で有名なラフレシアの遠い親戚筋に当たります。
そのためか、花の形もちょっとラフレシアを思わせるものがあります。

ウスバサイシンに産み付けられたヒメギフチョウの卵です。
まるで真珠のような光沢があります。
この卵は、10日ほどで孵化し、幼虫はせっせとウスバサイシンを食べて、6月頃サナギになります。
サナギは夏、秋、冬の永い眠りの後、翌年の早春に羽化します。
ウスバサイシン、カタクリも6月には地上部は枯れ、地下の植物体がヒメギフチョウのサナギと同じく翌春までの永い眠りにつきます。
ヒメギフチョウ、その食草ウスバサイシン、吸蜜植物のカタクリは、春の浅い時期、他の植物がまだ茂りきらないうちに急いで成長繁殖する「春の生き物たち」なのです。

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