サンゴの色素


 「サンゴの色素」と題したのですが、最初におことわり申し上げますが、結論はよく分からないということになりました。ただ、今どこまで分かっていて、どこからが分かっていないかを私が知り得た範囲で、Aquarist向けに書いておくのも意味あるかと思いまして、このページをしたためます。ここに書いたこと以外に、また何か、新知見を見つけられた方は、どうか御教示下さい。

A)S320について
 しばらく前より、「サンゴの色素はS320という物質だ」という話が、Aquarist間でささやかれていますが、サンゴの蛍光色、青、ピンクなどがS320という物質による発色だというわけではないということです。少なくともそう述べたペーパーはないようです。

 S320はMycosporine Like Amino Acid(MAAs)と呼ばれ水溶性で、紫外線吸収する物質の通称です。構造的にいくつもの種類があるという事です。Mycosporineと名付けらたので分かるように、もとは菌の代謝産物から見つかった物質で、一部がアミノ酸に置換されたものです。これが、サンゴから分離されたというのが事実で、サンゴの色を決定している色素だと述べられているわけではありません。ただ、何らかの紫外線に対する働きをしている物質であるという示唆はあります。また、MAAsは海産藻類の代謝産物としても分離されています。
 この内の一つbiopterin glucosideという物質はOschillatoria spより分離されUV-Aの照射によって藻類が活発に生産します。


                            (Marine Biotechnologyより)

 
 また、MAAsの一つMycosporine-glycineは抗酸化能力を持っているので、光合成によって生じた酸化ストレスからの防御となっているかもしれません。
 サンゴの幼体が太陽の紫外線にさらされた時の生存率に、このMycosporine-glycine濃度は相関があります。
              (Marine Ecology Progress Series C.A.Llewellin,R.F.C.Mantouraより)

 以上のことより、MAAsは広く海産藻類、好日性サンゴの紫外線防御、抗酸化物質として働いている事が推察されます。ただ、MAAsの分子量は約0.5kDで、次に述べる色素の28kDとは大きな差があり、同じ物質と見なすには難があります。

B)サンゴの色素について
  Pocillopora damicornis(ハナヤサイサンゴ)から分離されたピンクの色素は、水溶性蛋白で、28kDのsubunitsからなる約54kDの二量体からなり、その結合はdisulfide結合ではありません。また、この物質はイオン分析では金属イオンを含まないことがわかりました。同様の色素はSeriatopora hystrix(トゲサンゴ)、Stylophora pistillata(ショウガサンゴ)、ブルーのAcropora digitifera(ユビミドリイシ)からも分離されました。
 なお、ブルーのAcropora formosa(スギノキミドリイシ)からは三量体の82.6kDの物質が分離されました。
       (Biological Bulletin(Wood Hole)189(3):288-297 Dove-S-G;Takabayashi-M;Hoegh-Guldberg-Oより)

 今回のページは琉球大学の山城秀之先生より色々御教示いただきました。深謝申し上げます。なお、文責は鈴木信愛です。

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