リン(Phosphorus:P)

 生物の細胞膜はリン脂質でできており、リン酸はDNAの構成成分でもあり、細胞の利用エネルギーはすべてATPの形を取りますが、これはアデノシン3リン酸というリン酸化合物です。細胞膜、遺伝子、エネルギー全てにおいて、リンは不可欠の元素です。リンは窒素と並んで水質の重大なパラメーターです。リンの上昇は藻類の大繁殖を招きます。好日性サンゴは低リン環境に適応した生物ですので、水槽飼育においてはリンのコントロールは大変重要です。

A)リンの存在形態

 総リン(Total Phosphorus:TーP)は下記に分けられます。
1)粒子性有機体リン(Particulate Orgaic Phosphate:POP)
2)溶解性有機体リン(Dissolved Organic Phosphate:DOP)
3)不溶性リン酸塩
4)溶解性無機リン(Dissolved Inoganic Phosphate:DIP)=リン酸イオン(PO):別名オルトリン酸(Orthophosphate)

 生物の利用するリンの形態はDIP:オルトリン酸ですので、通常の水質分析では富栄養化の指標として、DIP:オルトリン酸を測定します。この時、リンの量で表す場合:POーPとリン酸イオンの量:POで表す場合があります。市販の試薬はリン酸イオンとして測定しています。なお、換算式は以下のとおりです。

PO-Pmg/l=POmg/l×0.326(POmg/l=PO-Pmg/l×3.07)

 水槽や環境中のリンの蓄積として問題になるのは、窒素と異なり、3)の不溶性無機リン酸塩の形があることです。これは、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムなどと結合したリン酸で、低層に沈んでいきます。不溶性無機リン酸は嫌気環境下では溶解性のリン:DIPに変わり富栄養化の原因になります。海、湖では低層の汚泥、水槽では底砂にこの不溶性無機リンが蓄積している可能性があります。

B)リンのコントロール

1)負荷の減少
 餌を与えれば、必ずリンの負荷となります。魚の飼育数は、窒素負荷よりリン酸負荷で制限されることもあります。水槽100リットルあたり中型魚1匹が望ましい飼育数でしょう。
 また、リンは細胞膜、細胞内部に多く蓄えられていますので、水中にリンを放出しにくい餌の形としては生き餌が最も望ましく、次には冷凍餌を解凍後良く海水で洗った物です。それに対し、液体餌や細胞のすりつぶしの行程があるフレーク状の餌は水中ですぐにリンを放出してしてしまいます。人工餌なら、フレークより粒状の餌のほうが食べられるまでに放出するリンを低くできます。

2)リンの除去
 カルシウム添加でプロテインスキマーが付いた水槽は、リンをリン酸カルシウムの形で回収できます。またスキマーは植物プランクトンを海水から取り除きますので、この方法で除去されるリンもあります。(ただ、低硝酸でリンが残ると、植物プランクトンとしてリンが回収されず、この状態で生きてゆける、付着性藍藻類がはびこることがあります。)
 リンは、窒素と異なり吸着剤で良く吸着されます。(金属イオンと不溶性リン酸塩を作りやすい性質が、ここでは有利に働きます。)生物、餌から出る、また嫌気部から溶出してくるDIPは、100リットル1ヶ月あたり100mlのリン酸用吸着剤で十分に低レベルに保持できます。

C)コントロールレベル

 前に述べたように、少量のリン上昇でも藻類、植物プランクトンの爆発的繁殖(bloom)を招きます。又、造礁サンゴはリンの濃度が上がると炭酸カルシウムの骨格形成が阻害されます。

 

POmg/l

PO-Pmg/l

サンゴ礁

 0.02

 0.006

富栄養化

>0.06

> 0.02

 水槽

<0.1

< 0.03

赤潮発生

> 0.6

> 0.2

 Kalkwasser投与、スキマー設置、リン酸吸着剤使用で、NaturalSystemにおいてはPO< 0.01mg/lが達成できます。