NUDと慢性胃炎

 内視鏡で胃を観察しても胃潰瘍やひどい胃炎が無くても、「もたれ」「胸焼け」「食欲がない」「何となく胃が不快」といった上腹部不快感を訴える方が多くいます。これを最近ではNUD:Non-Ulcer Dyspepsia (潰瘍がない消化傷害の意味)と呼びます。これを症状別に分類し、機能的胃炎と捉え、それぞれに適した治療を行うようになってきました。

A)NUDに影響を与える因子

1)ストレス、心理的因子
 精神的または身体的ストレスは大脳辺縁系から視床下部を通して交感、副交感神経やホルモンに影響を与え、消化管の機能変化を起こします。(消化管の蠕動運動、粘膜血流、酸分泌、免疫機能など)
 また、消化器症状の出現は逆に心理的抑圧や不安(胃癌の不安など)を招き、これ自体がストレスとなる悪循環に陥ることもあります。この場合、内視鏡検査によって、胃の悪性腫瘍を否定することも大事です。

2)Helicobacter pylori(ピロリ菌感染)
 阪神淡路大震災の時、被災者に大きなストレスがかかりましたが、潰瘍になった人はピロリ菌が胃に住み着いている人でした。40歳以上の人の80%は胃にピロリ菌の感染があり、胃潰瘍の再発因子として有名ですが(胃潰瘍参照)、胃炎、胃症状の原因菌でもあります。
 ピロリ菌の慢性感染は胃粘膜を薄くさせる萎縮性変化をもたらします。これによって胃酸分泌の低下、胃排泄能の低下がおきます。(いつまでも食物が胃内にあって、腸に出ていかないためのもたれ)

3)下垂胃
 腹筋の弱いやせ形の女性に多く見られる胃ですが、胃が下の方に垂れ下がり、胃角部という胃の小さい方のカーブが骨盤まで下がった胃があります。このタイプは胃の排泄能が一般に低下しています。腹筋の強化により改善します。

4)噴門部ヘルニア
 胃と食道の境を噴門部といい、外側は横隔膜で仕切られています。胃(噴門)が横隔膜の仕切を越えて胸部にはいると、胃と食道の仕切機能が有効に働かず、胃酸が食道に逆流してしまい、酸の刺激症状である胸にしみる感じの不快を感じることがあります。ひどくなると逆流性食道炎を起こします。

5)食事時間
 体内時計により、決まった時間になると胃の蠕動運動や胃液の分泌が起こります。不規則な食事でこのタイミンをずらしているとNUDの症状を悪化させます。

 

B)分類と治療

1)運動不全型
 いつまでも胃の中に食物が残っている感じがするタイプです。「胃がもたれる」、「腹が張って仕方がない」、という訴えが多くあります。
 一般的治療は、ストレスを避け、食事・排便の時間リズムを崩さないようにする事です。夜食は特にいけません。やせた人は腹筋の強化も有効です。食事内容は胃の滞留時間を延ばす油性食品や甘いものを取りすぎないようにする事も必要です。
 薬物療法としては消化管運動改善薬や漢方薬の六君子湯などを使います。このタイプの薬剤は個々人効果が様々ですので、数種を試してもっともその人に合った薬をしばらく続けるということが多くあります。

2)胃・食道逆流型
 食後、上半身の立位を保ち、食物・胃液の食道への逆流を防ぎます。胃酸分泌抑制剤、消化管運動機能改善薬を使用します。

3)潰瘍症状型
 潰瘍はなくても、空腹時痛や胸焼けなど潰瘍症状を訴えるタイプです。潰瘍に準じた治療で胃酸分泌抑制剤、粘膜保護剤に良く反応します。

4)空気嚥下型
 ストレスが加わると無意識のうちに空気を飲み込んでしまうひとがいます。症状は腹部膨満とゲップです。空気嚥下の自覚と抗うつ剤や抗不安剤を使用します。

5)特発型
 上腹部不快感はあるものの、はっきりした症状を訴えなかったり、訴えがいろいろ変わるタイプです。
 抗うつ薬、抗不安薬を使用します。


 NUDは身体的因子、心理的因子が複雑にからみ合って起きることが多い疾患です。両者からのアプローチが必要なこともあれば、一つの因子がが改善すると全体が改善することもあります。ケースバイケースの解決策が必要です。