窒素(Nitrogen:N)

 窒素はタンパク質、アミノ酸の主要元素であり、生命そのものとして存在し、水槽に生体を入れたり餌をやれば、水槽内に増加していきます。水質のとしての窒素、またその水槽内循環の概略を書いていきたいと思います。

A)表記、単位

 無機窒素として、水中にはアンモニアNH、亜硝酸NO、硝酸NO、亜酸化窒素NO、窒素ガスNとして存在しますが、ここでは生物の利用という点から、NH、NO2、 NOのみを考えます。
 ここで注意が必要なのは、硝酸濃度の表記が一般の環境指標では硝酸体窒素NitrateーNitrogen(NOーN)として含まれる窒素の重さをmg/lで表すのに対して、アクアリストは、硝酸Nitrate(HNO)そのものの重さをmg/lで計ることが多いので、しばしば混乱が生じます。後者では、総窒素の概念が使えないこと、また、酸化還元の度に変数をかけなければならないことから、ここでは、硝酸体窒素で主に説明します。(測定試薬ごとに違います、お気をつけ下さい。)なお換算式は以下の如くです。

硝酸:NO(Nitrate)=4.4×硝酸体窒素:NO-N(NitorateーNitrogen)

B)水槽内窒素循環

 水槽内の窒素は有機体窒素と無機窒素に分けられます。有機体窒素は不溶性窒素と水溶性窒素に分けられます。前者は、生体、餌、排泄物等です。水溶性窒素には、水溶性蛋白、アルブミノイド窒素などがありますが、酸化環境でかつスキマーなどの浄化装置が付いた水槽では、すぐ酸化されるか、取り除かれてしまいます。
 水質、富栄養化という観点では、不溶性の無機窒素は水槽中にはほとんど存在しませんので、水中無機窒素のみを考えればよいと思います。また、立ち上がった水槽では富栄養化は、硝酸体窒素のみを指標として考えても良いと思います。

1)餌 
 餌に含まれる蛋白質では、その乾燥重量あたり16パーセントが窒素です。(窒素:Nitrogenのみの重さ)
乾燥餌は60パーセント程度のタンパク質を含むので、1gの乾燥餌を与えれば約100mgの窒素負荷となり、かりに全て硝酸へ硝化されたとすれば、100リットルの水槽ならNOーNは1mg/l(NOなら4.4mg/l)上昇します。
2)従来型水槽(非リーフシステム)
 非リーフシステムの水槽では、脱窒(反硝化)の働きがほとんどなく、硝化反応のみが卓越した濾過システムで窒素はすぐ硝酸に変えられてしまうので、生体に取り込まれなかったり、生体から排泄された窒素は、水槽の窒素蓄積となってしまいます。
3)リーフシステム
 リーフシステムでは基本的に餌の負荷が少ない上に、脱窒が硝化反応を上回っていますので、非リーフシステムに比べ硝酸濃度はずっと低いレベルです。
 また好日性サンゴは硝酸やアンモニアも窒素源として取り込み、蛋白合成に役立てます。
4)総窒素
 NHーN、NO-N、NOーN、を併せて、総窒素:TーN(Total Nitrogen)といいます。TーN0.028mg/l以上が富栄養化状態です。
5)藍藻類などは、低硝酸の環境でも、リン酸が存在すれば空中窒素を固定し増殖することができます。

C)測定法

日本で市販されている簡易測定試薬のいくつかを紹介してみましょう。
1)テトラ社製
 最低測定値は、硝酸:NOで6mg/l(硝酸体窒素:NOーNで1.4mg/l)。最低測定値が高いので、従来型水槽の硝酸測定によいでしょう。
2)REDーSEA fish pHarm社製
 最低測定値は、硝酸:NOで2.5mg/l(硝酸体窒素:NOーNで0.57mg/l)
3)Sea Test
 最低測定値は、硝酸体窒素:NOーNで0.2mg/l(硝酸:NOで0.88mg/l)
 (少し低めに表示される。0.2mgと出たときは実際は0.4mg/dlほど。全く発色しないときはNOーNで0.1mg/lほどになっている)

なお、今私は、LaMotte社のSMART Colorimeterで計っていますが、この最低測定値は、硝酸体窒素:NOーNで0.01mg/lです。

D)環境と窒素濃度

 硝酸体窒素:NOーNではそれぞれの環境で以下のとうりです。(かっこ内は硝酸:NOでの表示)

1)外洋域・サンゴ礁前面

0.01mg/l (0.04mg/l)

2)礁湖

0.05〜0.1mg/l (0.2〜0.4mg/l)

3)ミドリイシ、ハマサンゴ、ハナヤサイなどの青、ピンクが良く発色する硝酸濃度

〜0.1mg/l (〜0.4mg/l) 

4)茶色や、蛍光グリーンのミドリイシが良く成長する硝酸濃度

0.1〜0.2mg/l (0.4〜0.9mg/l)

5)ロングポリプのサンゴ:LPS(ナガレハナ、ヒユサンゴなど)やシャコガイ、ソフトコーラル

0.2〜1mg/l (0.9〜4.4mg/l)

cf.自然界では場所、季節で変動しますが、目安と考えて下さい。
cf.光や、リン酸濃度によっても変わります。
cf.なお、1mg/lを越えるとシオミドロなどの毛状の藻類がコケ退治の貝、やどかり、魚でコントロールできなくなる危険があります。