高血圧

収縮期血圧と拡張期血圧

 心臓が収縮して、血管抵抗に打ち勝って血液を全身に送り出すときの最高圧を収縮期血圧といいます。血管が堅くなると、心臓は収縮期血圧を上げなければなりません。
 心臓(左室)は拡張期にはほぼ圧は0となりますが、大動脈などの太い血管は、収縮期に受け取った血液を動脈の弾性でより細い血管へジワーと送ってやります。この時の圧が、拡張期血圧です。動脈硬化を起こすと、拡張期血圧は上がっていきます。

基準

 世界で統一された基準はありませんが、以下に目安の数字を上げます。
             収縮期血圧(mmHg)        拡張期血圧(mmHg)
正常               〜130                  〜85
高値正常         130〜139                85〜89    
軽症高血圧        140〜159                 90〜99
(境界域)
高血圧症         160〜                  100〜
                                                (収縮期、拡張期、重症の血圧の方を採ります。)

血圧の変動

 15分安静にしていて、座位で計るのが原則です。また一回のみでなく、数回、日を変えて計ってから判断します。一般に健診や、初診では高く出てしまう傾向があります。

 白衣性高血圧といって、医師の前でのみ高く出てしまうひともいます。家庭血圧計が普及していますが、こちらは低めに出ることが多いので、上の基準と比べるとき、10mmHg足して比較して下さい。家庭で、収縮期が130mmHgあれば軽症高血圧です。湯上がりなども低く出過ぎる事があります。特別のケース以外は、湯上がりの血圧は参考までにしていて下さい。 また自動血圧計は、腕式の方が正確です。これから購入される方はこちらをおすすめします。なお、計るときは、腕を心臓の高さにして計って下さい。

 時間によっても血圧は変わります。起床時の血圧が高いひとは、血圧の血管への負荷がより高いので、より低めのコントロールが必要です。家庭血圧計をお持ちの方は、時々、起床15分と昼の血圧を計ってみて下さい。その値はメモして、かかりつけ医にお見せ下さい。

二次性高血圧

 90パーセント以上のひとは本態性(一次性)高血圧といって、加齢、動脈の硬化を主体とした、様々の複合要因の高血圧ですが、高血圧のひとの一部には、他に血圧を上げる原因、病気があって血圧が高い方がいます。これを二次性高血圧といって、原病の治療が優先し、またそれで血圧が下がります。種々の病気がありますが、代表的なものを上げておきます。

1)腎血管性高血圧
 腎の血管が何らかの原因で細くなると、血液が欲しい腎臓は、血圧を上げる物質を出します。血管狭窄を解除すると血圧は下がります。

2)内分泌性高血圧
 副腎からアルドステロンという血圧を上げるホルモンが出る原発性アルドステロン症、コルチゾールが出過ぎるクッシング症候群、カテコールアミン(アドレナリン類)を腫瘍が作ってしまう褐色細胞種などがあります。これらは、昇圧ホルモンを出しているところを切除すれば治ります。

高血圧合併症

 ほとんどの臓器、組織が血管で運ばれる血液で養われていますから、血管の病気である高血圧は、全身に影響を及ぼします。中でも一番恐ろしいのは脳出血、脳梗塞(穿通枝型小梗塞)、くも膜下出血などの脳血管の病気でしょう。その一番の危険因子は、高血圧です。脳血管の病気は、痴呆、片麻痺などの傷害も招いてしまいます。また、高い血圧を作る心臓にも負担をかけ、心肥大、心不全や冠動脈が狭くなる粥状硬化と相まって狭心症、心筋梗塞にも関係します。高脂血症と高血圧は相乗作用で、血管の粥状硬化をひき起します。これが大血管に起これば、血管の壁が血圧で張り裂ける解離性動脈瘤が起こることがあります。また、腎に高い血圧が続くと、腎硬化に伴って腎不全に至ります。眼の血管は、脳血管から直接分かれてきますが、この高血圧は網膜出血や白斑を生じることがあります。

 上でも述べましたが、高血圧は他の生活習慣病と相乗作用で、血管の老化を招きます。高血圧、高脂血症、内蔵肥満、耐糖能異常(糖尿病)は、死の四重奏とも呼ばれています。

治療、コントロール

 コントロールの範囲は、収縮期血圧:120〜140mmHg、拡張期高血圧:86mmHg以下が目標ですが、年齢、疾患によって変わります。高齢者では、収縮期血圧を140mmHgとする以上ケースもありますし、糖尿病合併の方は、130mmHg以下にすることもあります。

1)非薬物療法
 体重は血圧上昇の一因子で、減量によって血圧が下がります。節酒も効果があります。日本酒2合以上、または、ビール2本以上飲んでいた方が、半分以下にすると血圧が下がります。減塩で、1日6gにすると収縮期、拡張期血圧をそれぞれ5mmHg以上下げますが、半数の食塩非感受性例には効果がありません。散歩などの、持久的運動は、脂質代謝改善もあり、勧められます。非薬物療法の欠点は、薬物療法よりコンプライアンス(続けること)が悪い点です。また、充分目標値に達しないときも、薬物療法が必要になります。

2)薬物療法
 種々の降圧剤が開発されています。以前より、ふらつきなどの副作用が起こりにくくなっています。かかりつけ医にご相談下さい。大事なのは、症状がないからといって、あるいは一時下がってからといって自己中断しないことです。血圧のコントロールとは、数十年続けて、種々の疾患にかかりにくくするという、リスク管理です。

 以下に、薬の系統ごとに性質を挙げます。

1)カルシウム拮抗薬
 主に血管拡張作用によって血圧を下げます。冠動脈(心臓を養う血管)の拡張(→狭心症の予防)、脳血管の拡張、腎血流の増加など、薬剤ごとに特徴があります。
降圧作用が強く、副作用や代謝系への悪影響も少ないので、今最も使用頻度の高いグループです。特に最近開発された徐放剤(ゆっくりと効く薬)は、ふらつきやほてりと言った副作用が少ないばかりでなく、臓器保護作用もあります。
 ただ、妊娠中の人は使えません。また、ニフェジピン(アダラート)はグレープジュースと一緒に飲むと血圧が下がりすぎることがあります。

2)ACE阻害薬
 血圧を上げるアンジオテンシンKという物質を作る酵素がACEです。これを阻害することで降圧効果を生みます。心肥大の退縮、うっ血性心不全の改善、腎機能傷害の進展防止など、優れた特徴を持っています。ただ、高カリウム血症のひと、腎機能が高度に低下したひと、透析患者には使用できません。
 副作用として、血管浮腫や咳があります。この咳のために服用を続けられないひとがあります。

3)AT1受容体拮抗薬
 上記のアンジオテンシンKの受容体をふさいでしまう薬です。 ACE阻害薬と同様の効果が期待されますが、咳の副作用が薬理上ない薬です。

4)利尿薬
 以前からある降圧薬で、現在でも第一選択薬とされています。ただ、代謝系への悪影響(高コレステロール、善玉HDLコレステロール低下、中性脂肪上昇、高尿酸血症、低カリウム血症)があります。少量を他の降圧剤と併用すると、欠点がカバーされ、有用です。

5)β遮断薬
 交感神経をブロックし、心拍出量をおさえ心拍数を低下させます。心血管疾患の死亡率を低下させることが証明されています。しかし、冠動脈攣縮(心臓の血管が、けいれん的に狭くなること)タイプの狭心症には禁忌ですし、心臓の刺激伝導系(ドキンと脈打たせる連絡網)に問題がある人、喘息患者には使えず、コレステロールが高いひとにも使いにくい薬です。又他の薬と相互作用を起こしやすい薬でもあります。

6)α1遮断薬
 交感神経のα受容体を遮断する薬で、起立性低血圧(急に立ったときの立ちくらみ)を起こしやすい薬ですが、最近その副作用が軽減され、脂質代謝(高脂血症)の改善や、糖尿病のインスリン抵抗性を改善するメリットがある薬か開発されました。

 一般に、降圧剤の自覚する副作用は服用初期に見られることが多く、1,2週間問題が無く、また最初の血液検査でも異常がないときはほとんどのケースで長期間、問題がなく使用できる安全性の高い薬剤です。 高血圧の怖さを考えると、服用して血圧をコントロールすることは利点が欠点を上回ります。