発熱

A)計り方

 熱を計る場所は大きく分けて、腋窩(脇の下)と深部体温があります。最も多く計られるのは腋窩体温ですが、正確に計るには、いくつか注意点があります。先ず、皮膚温は33〜34℃なのですが、脇の下を閉めて閉鎖腔とすると、その空間は次第に温度が上がり、皮下組織の温度と平衡となります。この温度が腋窩体温です。
 この閉じた空間に服などの体温計以外が挟まっていると、いつまでも平衡に達せず低く測定されてしまいます。また、平衡に達するまで少なくとも5分かかります。1分計は予測体温計といって、最初の1分の温度上昇から5分後の温度を予測して表示します。予測体温計でも1分で「ピピピ」と鳴ってもそのまま5分計り続けると実測値を表示します。正確に計りたいときは5分間、ぴったり閉じた脇の下に体温計を挟んでいて下さい。

 口、肛門、耳などで計った体温は腋窩体温より一般に高く、深部体温と呼びます。腋窩体温とは発熱の基準が違いますので、注意が必要です。婦人科の体温は口の中で測った体温をもとに体熱の資料としますから、そこで計って下さい。

 今、耳で測る体温計が流行っています。これは鼓膜の赤外線温度を測り、表示するもので、鼓膜のそばを通る内頸動脈の温度を間接的に測っています。この温度は、腋窩に比べ0.8〜1℃高くなります。腋窩と比べるときは1℃引いてみる必要があります。
 耳式体温計で問題なのは、赤外線測定面が正確に鼓膜を向いているかという点です。これは結構難しく、常に正確に測定できるようになるには、百回近くの訓練が必要です。しかし、外耳道の形によっては、どうしても正確に鼓膜面を捉えられないことがあります。不正確なデータは百害あって一利なしです。腋窩と比べて、1℃常に高く測れる練習をする人以外には勧められません。

B)日内変動と発熱の基準

 体温には日内変動があります。起床時が最も低く、腋窩体温で36℃ほどで、夕刻から睡眠少し前に最も高く、37℃と約1℃の日内変動を示します。ゆえに、朝37.0℃あれば微熱ですが、午後、夕刻では37.5℃以下は必ずしも発熱ではありません。

C)微熱 

 およそ起床時腋窩体温で37℃台、夕刻で38℃未満の発熱です。軽い感冒などで数日間このくらいの発熱があることは良くあります。医療機関受診の目安として、他に症状のない微熱であれば、2週間以上にわたるときには精査にいらして下さい。
 以下に微熱を呈する疾患を上げておきます。

 感染性疾患
1)結核性疾患
 以前、結核を患って治癒といわれた高齢者、結核患者との接触歴のある人は特に要注意です。
2)慢性感染症
 慢性気管支炎、細菌性心内膜炎、肝・胆道感染症、慢性尿路感染症などが頻度の高い疾患として挙げられます。
3)病巣感染
 体のどこかに感染巣があって、そこから炎症産物が出るために起こる発熱です。病巣として多いのは、慢性中耳炎、慢性扁桃炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、齲歯(虫歯)、前立腺炎などです。

 非感染性疾患
1)膠原病などの自己免疫性疾患
 SLE、関節リュウマチ、リュウマチ熱、結節性動脈周囲炎、強皮症、など、これらの自己免疫性疾患は発熱がその初発症状であることが多いです。また、甲状腺機能亢進症も発熱を伴う事が多い自己免疫性疾患です。
2)悪性新生物
 癌、白血病、悪性リンパ腫などの唯一の症状であることがあります。

 そのほかに、妊娠、貧血、薬剤アレルギーなどがあります。

 なお、高齢者では本来は熱がある疾患にもかかわらず、熱が出ないことがありますので、だるさ、食欲不振が長引いたときは精査が必要です。

D)38〜39℃の発熱 

 急性感染症で最も多い発熱です。呼吸器症状を伴えば、気管支炎、肺炎、喉の痛みが強いときは扁桃炎などが高頻度です。下痢、嘔吐を伴えば細菌性胃腸炎が多く、下痢がない腹痛は肝・胆道感染症、虫垂炎などを初めに疑います。尿路感染症では、膀胱炎止まりなら、発熱はありませんが、腎盂(腎臓で最後に尿を集めるところ)まで感染が及ぶと高熱となります。
 それ以外にも、C)で述べた疾患も鑑別診断に挙げられます。

 なお、感染症での発熱ですが、白血球、リンパ球などが外からの進入生物とより活発に戦うために体温を上げているという側面があるので、発熱したから即、解熱剤というわけではありません。高熱のため食欲がない、甚だしく疲労するという時のみ使用すべきです。
 小児のインフルエンザでは、最も代表的な解熱剤であるアスピリンは、ライ症候群という命にかかわる病態を引き起こす恐れから、現在使用しなくなっています。

E)意識障害を伴う高熱(40℃以上)

 敗血症など命にかかわる疾患が考えられます。それまでいた環境によっては日射病、海外渡航歴があるならマラリア、チフスなどの感染症、進行性の意識障害なら脳炎、精神科のくスリを初めて飲んだ時なら悪性症候群などが考えられます。いずれも一刻を争う治療が必要です。救急医療を行っている医療機関に迅速に輸送して下さい。この時、付き添いの方は、発症前後の状態を時間順に説明できるようにしていて下さい。