串本、大阪行き

 1999年7月20〜22日

 7月20日の海の日、翌21日は、私の住む秋田市土崎は「港祭り」という曳き山をする地方祭があります。雄物川河口に開けた土崎は秋田発祥の地です(その後、中心はもう少し内陸へ移動してしまいましたが)。この祭りの時だけは土崎は昔の繁栄と熱気を取り戻すのだそうです。ただ、今年はうちの町内は「曳き山」新制作のために、山車が出ないことになりました。自分の町内の曳き山が出なくても、この2日は医院前の道路が封鎖され、祭り開けの22日は町内の男衆はほとんど死んだようになっているので、今年は20〜23日を3連休休診にしました。
 この貴重な3日間をどうしよう?2日間なら東京だけど、3日あるなら、「関西、Aquarium&Shopめぐり」、と思ってアキリンさんとブルーハーバーの和田さんに連絡すると、「どうせなら串本で潜りませんか?」とのお誘い。バンザーイ、温帯サンゴのメッカ、南紀の串本で潜れるぞ!!!
 前回石垣はお留守番させた妻も潜らしてもらう事にしました。妻は慌ててオープンウォーターを申し込みに行きました。まず装備の付け方だけでも覚えてもらうため、関西行き直前に1回だけプールに入りました。もちろん串本は体験ダイビングの形です。

 
7月20日(火)秋田→関空→串本
 13時5分関空着、空港に着くとアキリンさんと和田さんが迎えに来てくれていました。アキリンさんは丸2日、和田さんは丸3日、私達にお付き合い下さいました。アキリンさん、和田さん貸切なんて、なんと贅沢な! ほんとにありがとうございました。

 ところで、妻は本場もんの「チャウチャウ」が聞きたいというのが、今回の目的の一つでした。アキリンさんに会って5分以内にこの望みは数回もかなえられました。アキリンさんの知性光る額は10000Kb、お口は10000Hzの回転の速さです。
 関空から串本まで車で3時間、それにしても関西にお住まいの方はうらやましい、サンゴの海に日帰りさえ可能なのです。夕方、串本に着くと「まだ明るい、スキンダイブしようや」とアキリンさん。アキリンパワー全開です。

 串本は入り江のほとんどがビーチダイブできる所です。山から海へ岩が入っていくと、そのままミドリイシが付着する足場となります。沖縄はやはり熱帯の町で、そこからボートでサンゴの「根」に向かうので違和感がありませんが、温帯の普通の町がすぐサンゴの海に直接繋がっているというのが不思議な感じがします。串本の海面はドラエモンの「どこでもドア」です。開けたらそこはサンゴの海。

 

少し夕暮れ時

アキリンさんと

 ミドリイシで最も多いのはクシハダミドリイシ、これが80パーセントぐらいを占めます。エダミドリイシが15パーセントくらい。これにオヤユビミドリイシがちらほら混じり、他のミドリイシは極まれです。生物一般に、熱帯は優先種というものが無く、個々の種は個体数が少ないながら種類は莫大な数を擁すのにたいし、寒い地方に向かうに従って、種類数が減り、ある特定の種が広い面積を占めるようになりますが、熱帯起源のミドリイシは特にその傾向が強いようです。
 なお、あと一週間で串本のミドリイシは産卵を迎えるという事ですが、和田さんが調べたところ、本日はまだ卵が確認できなかったそうです。
 ミドリイシの色はクシハダミドリイシ、エダミドリイシはほとんどが成長点まで茶色で、沖縄のようにピンクやブルーのミドリイシは見かけません。昔、温帯のミドリイシがある海を「錆色海岸」と呼んだのはこのためでしょう。オヤユビミドリイシのみグリーンが混じります。時にはっとするほど鮮やかなものがあります。ハナヤサイサンゴはここでもピンクの個体が見られるという事でしたが、私が見た物は茶色か黄褐色のものばかりでした。
 キクメイシではミダレカメノコキクメイシ、アバレキクメイシ、キクメイシ(リザードキクメ?)などが結構ありました。色は、灰色と褐色、口盤がグリーンといったところです。

 海岸に打ち上げられる小石はサンゴ起源の石灰質のものが1/3、陸上と同じ岩質が2/3です。温帯域では造礁サンゴはいてもサンゴ礁はないとされていますが、多少は地質形成に温帯サンゴも関与しているようです。
 もっと北の伊豆では多い海藻は、ここではまだあまり目立ちません。けど、ウニは沢山います。何を食べているのでしょう?シラヒゲウニや青い眼の大きなガンカゼが南の海らしいです。

 好日性の茶色のトサカ類が所々に1m四方ほどの群落を作っています。沖縄のようにハードとソフトコーラルが分かれて分布するのではなく、ミドリイシの間にスポット収まっています。1cmぐらい両者が隙間を取っているのは、互いに面積占有のために静かな戦いを行っているのでしょう。ハードの刺胞毒に対しソフトは化学兵器で戦うそうです。
 戦いといえば、部分的に白くなったクシハダミドリイシを裏から見るとシロレイシガイダマシがびっしりついていました。この貝は思ったより大きく長さ3〜4cm、直径1,5cmほどの長円錐形です。こいつらが2,30個食らいついてはミドリイシもたまらないでしょう。でもこの貝の食害に会っているミドリイシは、泳いだ範囲では2つだけでした。この貝の制限要因はなんでしょう?どうゆう条件で爆発的に増えるのでしょう?まあ、今回は自然の一部という感じでした。次の日のダイビングではシロレイシガイダマシは見あたりませんでした。本日のスキンダイビングはカメラ無しなので、この貝の写真が無くてごめんなさい。

 先に来ていた、田中さんご夫妻と夕食の串カツ亭で合流。田中さん(アキリンのベルリン日記に「みのるさん」で登場する方です)はダイブマスターを持っているそうです。奥様がダイビングを始められたので、ご指導できるようにとお取りになったそうです。
 その後、私達夫婦とアキリンさんはホテルに帰りましたが、和田さん達はどこぞへ外遊、ご帰還は午前様だったそうです。

 

7月21日
 一本目(田子)はビーチダイビング。台風の名残でうねりがあり、透明度は3〜4メートル、結構大変なダイビングでした。岩が近くにあると上と下が逆方向に流れていたり、ひよっこダイバーはあっちでぴよぴよ、こっちでぴよぴよ。アラジンのオーナー坂無さんがマンツーマンで付いてくれましたので、どうにかよたりながら無事終了しました。
(アラジンダイバーのHP http://www.kansai.ne.jp/aladdin/)
 ここでもクシハダミドリイシが優占種、昨日見たグリーンのオヤユビはありませんでした。他はイボサンゴ、イタアナサンゴ、キクメイシ、アバレキクメイシなどです。
 妻はフレンドリーなアメリカンインストラクターDINOさん(Dinosじゃないよ)が付いてくれました。(こちらは浪の無い湾内) DINOさんはとっても達者な日本語で教えてくれる上に、Shopの皆が認める「力のあるインストラクター」です。優しくて冗談好きです。ただ、クジラとカメと人間を食う人が許せないそうです。けど、ここにいる日本人は全てクジラ食者です。夕べの串カツ屋ではDINOさんの前でクジラの学校給食の話で盛り上がりました。ウミガメ食者もいました。環境保護にはきまじめな人を前にして「人を食った話」です。

 2本目(サンビラグラスロック)はボートダイビング、DINOさんから妻もできるとOKをもらい、みんなで潜りました。ここは田子とはちがい、ほとんどうねりもなく、透明度も6メートル以上あります。妻はDINOさんにBCを調整してもらうと、同じ深度なら結構中性浮力を取ってDINOさんについていっていました。まあ、泳ぎ自体は私よりはるかに達者で、海を怖がりませんので。
 この日見られたミドリイシはやはりクシハダとエダミドリイシがほとんどです。あと、所々にハナヤサイサンゴ、イタアナサンゴ、ハマサンゴがありました。これらの色はほとんど黄褐色。LPSでは所々に真っ赤なキクメイシがあり、目を引きました。Lobophylliaも多くいました。灰色が多いのですが、時々蛍光グリーン、レッドの大きなものがありました。他にはムカシサンゴがブルーの口盤を光らせおり、結構きれいでした。
 サカナではハタタテハゼ君に出会えました。身体の白い部分が海底では真珠色に輝き、水槽で見るよりも神秘的。

 できた写真を見て大ショック、25枚中20枚近くが二重露出。25枚過ぎてもカウントが進んだのでいやな予感がしていましたが。フィルムの初めの頃撮ったミドリイシは全滅。ううう。すみません、アキリンさんのベルリン日記88を見て下さい。http://www.asahi-net.or.jp/~dk8a-ued/berurinnhousiki88.htm

カゴカキダイ

ほんとは赤のLobophyllia
右上はムカシサンゴ
右下はアヤニシキ

ビロードトゲトサカ

  ダイビングのあと、大阪へ。和田さんはタフです。ダイビング後の4時間の運転でも疲れを見せません。時には串本へ日帰りダイブもするそうです。本日の夕食はお多福でお好み焼き、秋田では県に10軒しかお好み焼きやさんがないそうですが、大阪はやはり本場、500メートルおきにあります。ここでアキリンさんの弟さんに会えました。そっくりです、アキリンさんより一層細長い顎をなさっています。前田先生も呼び出されました、忙しい書類書きの最中だったそうです。生りょうたろうさんにもお目通りが適いました。ひょうひょうとした雰囲気がハマサンゴ的です。(どういう意味じゃ・・・良い意味です)

 おいしいお好み焼きでお腹をいっぱいにした後は、あの「ベルリン水槽」が鎮座するアキリン邸です。うーん、すごいお家じゃ。山口組の砲撃にも耐えられそうな門構え、車寄せ。日本庭園に能舞台という谷崎潤一郎の世界に出てくるような関西の旧家です。小さい家なら中に建てられそうな玄関を入って、2室続きの水槽部屋へ。ありました「ベルリン水槽」。夜中という事もあってポリプの出がすごい。みんな飼い主の胸を見習ってモジャモジャと触手を伸ばしています。すばらしい状態のミドリイシです。オトメミドリイシなどは1年で長さ成長が3倍ほど、体積なら27倍!!! パワーヘッドミドリイシも上から見るとパワーヘッドが見えないくらいです。種類数もすごい、手に入る限りのミドリイシを集めるそうです。もう60種は超えたとか。書き切れませんので、アキリンさんのHPを見て下さい。最初3年で水槽をいっぱいにする予定が、3ヶ月でほぼ埋まり、後は隙間に差す状態だそうです。その上にこの成長度、これから入手するサンゴのために、新規水槽をもう用意してライブロックを入れていました。
 
 急に明るくしたのでサカナ達が寝ぼけています。ミヤコテングハギなどよたって水面近くを泳いでいます。悪い人達が次々に手づかみしています。この時のショックか、数日後ミヤコ君は神様の手に掬われたようです。
 アキリンさんのベルリン水槽は岩崎の6500Kb400W2灯がメイン照明ですが、他の6500Kbに比べて、はるかに黄色みが少ないランプでした。まるで8000Kbくらいの色です。ご主人の10000Kbの額を6500Kb球も見習ったのでしょうか?それとも200Vの性?大阪で見た他の6500Kbはやはり黄色でしたから、アキリン邸の6500Kbは特別だと思った方が良いかも知れません。

 肝心のアキリン邸訪問で私はカメラを忘れてきてしまいました。後でアキリンさんから写真を送ってもらいましたので、ここに張っておきます。

水槽全景

ユビエダハマサンゴ

コブハマサンゴ

ポコポコ生まれるサンゴ達

ニョキニョキ伸びるホソエダミドリ

夜中は毛深いオトメミドリ

(上の6枚は全てアキリンさん撮影)


 アキリン邸からブルーハーバーへ。和田さんのお店はおしゃれなオフィスのようです。器具も水槽もスマートにレイアウトされています。お店はその日によっては午前様までお仕事をして、朝も結構早くから始めるそうです。和田さんは「アメリカ西海岸の証券ディラーのように働くんです」と言っていました。(西海岸は東のニューヨークと同じに始め、遅い西海岸時間で閉めるため、長時間労働させられるそうです) うーん、私がそんなに働いたのは研修医時代だけだなあ(あのころは1日16時間はざらで、時には48時間以上連続で働いたことも)

 この後はリーガロイヤルというブルーハーバーの裏手にあるホテルでオネンネ。ハードな1日でした。遊びも仕事もめいっぱいというのが大阪流です。

 

Shopの水槽
左が6500Kb、右が10000Kb、400W

片づけ魔の秘書におびえる、和田さん

7月22日

 秋田へ還るまでの時間、前田先生の所の水槽見学です。本日も和田さんにつれていってもらいました。丘陵地帯にあるクリニックはご繁昌で、たくさんの患者さんがいる中、おじゃまして来ました。
 すばらしい発色のサンゴ達です。輝くグリーン、良く成長したパープルのホソエダミドリ、鮮やかなピンクのハナヤサイ、グーパーグパー元気なウミアザミ。その間を縫って離合集散するソラスズメとハナダイ。ソメワケヤッコもサンゴの間を出入りし、本物の海より綺麗です。
 待合室の水槽のバックヤードは地下の駐車場にありました。メインモーターは2器が交互にメイン水流を担い、サンゴに往復水流が与えられます。バックヤードのスペースは数メートルもあり、大型スキマー、配電盤、給水槽、等々さながら工場のようです。
 和田さんの話ではスキマーのテクニックで原子力発電所の取水口から入り込む付着生物を減少させる方法を考えているという事でした。水処理技術の産業化はこのバックヤードを見学すると頷けます。

 13:50発、秋田行きに間に合うように、和田さんに関空まで送っていただきました。今回の関西旅行はアキリンさん、和田さんにずいぶんとお世話になりました。田中さん、りょうたろうさん、大阪のみなさん、アラジンダイバーの串本のみなさん、有り難うございました。

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