種の分化

 

 「種」とはなんでしょう?ふだん、「これはAという種だ」とか「AとBは別種でBはAの亜種ではない」などと会話や、書き物などに意識的に、また非意識的に「種」という言葉が良く出てきます。
 このページでは、「種」、「種の分化」について私なりの考えをまとめておこうと思います。専門家ではないので、おかしいところがあるかも知れません。その際はご指摘を

 種の定義は1940年のE.W.マイヤの考えが広く一般に支持されています。それは「相互に交配しあい、かつ他のそうした集合から生殖的に隔離されている自然集団の集合体」と定義され、生物学的種概念と呼ばれています。
 自然界で、全ての個体の配偶行動を観察し、親子の確定もするというのは実際上不可能なので、問題となる二つの集団で形態の移行が連続的な場合は同種、不連続な場合は別種として、種の記載がなされます。これを形態的種概念といいます。
 単為生殖を行う種、微少な距離で分化している種、体が小さく、種間に十分な形態差が指摘できない種群、などでは形態的種概念が適用し難い事があります。また、生態的地位も考慮すべきとか、分岐分類学の発達により、生殖学的隔離より単系統性(共通の祖先から別れた)を重視しようという系統的種概念の立場や、中には複数の種概念を許容すべきという考え方さえあります。

 私は、「遺伝的多様性の増加」と「その伝達速度」とで分化を考えてみたいと思います。

 「雑種強勢」という言葉があります。同種の2品種を掛け合わせると、両親より丈夫な子孫が生まれるときなどに使います。家畜や栽培品種は品種という系統を維持するため同系交配を重ね、種々の遺伝子がHomo(2組持っている遺伝子が同じもの)となっていますが、別品種間で交雑させるとHetero(違う遺伝子)になります。一般にHomoよりHeteroに遺伝子を持った方が生存上有利なことが多いため、この品種間雑種は生存という面では優れています。極端な例として、ほとんどの致死遺伝子はHomoの時の働いて、その持ち主は発生途上で死亡しますが、Heteroではなんら不利なことがないことが多いという場合などがあります。
 昆虫ではアゲハチョウ科の種が良く飼育されますが、兄妹交配をするともうF2(1回目の兄妹交配で産まれた子孫)で体が小さかったり、妊孕力が無かったりします。これは、生存に不利な遺伝子が2本そろってしまい、その欠点が生じるためと考えられます。
 このような現象のため、生物は有性生殖においてなるべく自分と血縁のない個体と交配しようとします。これをインセスト回避(近親交配の回避)といいます。

 その一方で近縁種を交配させると子孫が生まれないか、生まれても繁殖力が無かったりします。これは、二組の遺伝子の組み合わせにあまりに異なりが多いため、調和した個体発生が出来ないためと考えられます。このため、近縁種は互いに他の種と交わらないようにします。これを生殖的隔離といいます。

 生物は、同種内ではインセスト回避のためになるべく異なった遺伝子の個体と配偶しようとし、他種とは交わらないようにしようとします。
 ところで、「交配を続けて子孫を残している自然集団」:種は空間的に広がって分布し、そこに長い時間が経って存在しています。そして、長い時間の中では地理的に離れたところでは異なった遺伝子が積み重なっていきます。このため、種の分布の端と端ではずいぶんと形態が異なっていることはよく観察されます。時にこれを亜種と呼びます。しかし、同種ならその中間に分布する個体群を通じて遺伝的一体性を保っています。・・・図の「1」の状態 (個々の個体はインセスト回避をしますので、結果的に遺伝子はよりその種の分布域の遠いところへ届けられることになります。)

 その生物が繁栄し、より遠くへ分布を広げていったらどうなるでしょう?端と端ではそれぞれ独立に遺伝的多様性を増していきますから、違いが大きくなっていきます。遺伝子の違いの蓄積速度が、拡散速度を超えたらどうなるでしょう?・・・図の「2」の状態

 今まで、同種内なら遺伝的に異なった個体と配偶した方が良かったものが、今度はそれを避けた方がその個体にとって有利になります。すると、その2亜種は生殖隔離の確立に向けて適応しようとするでしょう。ここにおいて、この2亜種は、亜種ではなく別種になります。生殖的隔離が成立すると二つの近縁種が遺伝的に(たいていは形態的にも)断続して存在するようになります。・・・図の「3」の状態

 この、異なった個体と交配しようとするか、避けようとするかの分岐点は、地質学的に見れば、ほんの瞬間:「点」であると思います。種の分化は従来考えられてきたより、はるかに短い時間で完成すると思います。生物は、状況が変われば、形態、行動は遺伝レベルで数十年もあれば変わりうるので、全くの推測ですが、種の分化はそのくらいの時間で行われうると思います。

 「遺伝的多様性の増加」と「その伝達速度」で種の分化は一般化できると私は考えます。これが同時に種の定義にもなると思います。
 なお、遺伝子の多様性の増加を遺伝情報の伝達速度で除するということはEntropyを考えていることになります。

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