後口動物

 今回のページは、妄想に近い空想です。体良く言えば、仮説です。流し読みして下さい。

 身体が前後左右を持つ、三胚葉生物には、前口動物と後口動物というのがあるというのは、どっかでお聞きになったことはあると思います。復習すると、嚢胚期(内部に空洞を持つようになった胚)に外側の細胞群が内側にまくれるように入ってくることで、三胚葉生物となります。この落ちくぼみを原口といいます。原口がそのまま口になるのが前口動物、肛門または身体の後部になるのが、後口動物です。簡単に言えば、最初の窪み:原口が頭になるのが前口動物、お尻になるのが後口動物です。

 脊椎動物、尾索動物(ホヤの仲間)、頭索動物(ナメクジウオなど)、棘皮動物(ウニ、ナマコの仲間)、半索動物(ギボシムシ)が後口動物で、節足動物、軟体動物環形動物、線形動物、etc・・・など他の全ての三胚葉性生物は前口動物に入ります。
 脊椎動物と棘皮動物が自然界では目立つので、後口生物が動物では多く感じられますが、門の数で比べれば、たった5門しか後口動物はありません。
 また、後口動物は系統的に近縁です。脊椎動物門、尾策動物門、頭索動物門は近縁度から言えば1門にまとめられるとも言えるほどです。三胚葉生物を見渡せば、多様な前口動物の海の中に、少数の後口動物門が島状にあるという全体像です。
 また、ほとんどの生物門が出そろったカンブリア紀に脊椎動物門は間に合わず、この時期の三胚葉生物による生物世界は前口動物が主体でした。

  前口動物と後口動物では、前後のでき方以外にもう一つ、大きな違いがあります。背腹が逆なのです。前口動物はもっとも背側に血管・消化管があり、その下に筋組織、もっとも腹側に神経があります。後口動物はその上下が全く逆で、もっとも背側に神経管があり、その下に筋組織、もっとも腹側に血管・消化管があります。 前口動物と後口動物は前後が逆なだけではなく、上下(背腹)も全く逆なのです。

 最近、動物の発生において、背腹を決める物質が見つかりました。この物質は前口動物においても後口動物においても背腹を決める事ができる物質で、両者の共通祖先から引き継いだ物質のようです。
 ただ、働きは前口動物に対してと後口動物に対しては全く逆なのです。同じ物質が前口動物の胚に作用すれば消化器などの腹側器官ができるのに、後口動物では背側器官が形成されるのです。

 ここで、ある妄想に近い仮説を思いつきました。
「後口動物は、ある前口動物が何かのきっかけで、ひっくり返って後退する事によって生じた生物群である」というのがそれです。

 器官の中で、もっとも大事なのは神経系です。これが壊されると逃げるという事自体が不可能になります。ゆえに、神経系の本管をお腹の下で守る形というのは合理的と思います。消化管は再生できる生物も多いことですし。
 また、盲端で終わっていた消化管が肛門を形成し、食物が一方通行で処理されるようになったとき、盲端の時の口(原口と相同)は食物を散り込む器官がその「口」のそばにあったでしょうから、これはそのまま口として使い、反対側に肛門を設けるのが自然と思います。
 前口動物の方が多くの門を抱えることも考え合わせると、上記の事から、前口生物が最初にできた基本体制であった可能性が高いと思います。

 ここで、ある前口動物が後口動物になったストーリーを考えてみます。

 ある日、その動物は海底を這い回りながら、食物をあさっていました。そこで突然、自分を補食できるより大型の生物に出会いました。この瞬間、その補食生物から逃げることが最大の命題になります。

 1)「食いつかれる前にバックする」、これがもっとも効果的逃避でしょう。
 2)また、いままで食べていたものを吐き出して、「ジェット噴射にする」、「煙幕にする」、というのも有効だと思います。
 3)海底を離れ水中に飛び出して、敵の攻撃範囲から逃げるというのも良い手だと思います。
 4)3)の逆で、お尻から海底の泥の中に潜り込んで逃げるという方法もあるかも知れません。

 1)2)はいままで身体の後部として使っていた尾側を一時的に前方の頭側として使用すると言うことになります。あと2)は消化管の蠕動を逆転させるという事になります。1)2)を逃避の有効手段として始終使っているうちに、肛門側に感覚器官を発達させこちらを前方とする方が得意な生物も誕生したかも知れません。そうなれば今までの肛門から摂食し、口(原口)から排泄するということも不自然では無くなります。これが原口を新しい肛門として使う後口動物の誕生だったのではないでしょうか?

 なお、3)4)で、海中、泥中で移動する動物は、海底を腹を下にして移動する時より、上下(背腹)の区別はあまり厳密には働きません。いまでも、魚類などは別として、海底を這いずり回ってる生物が襲われて水中に飛び出すとき、腹を上にして泳ぐことはよく眼にします。海底の捕食者の魔手から神経を守るには、神経管を上にした方が安全(あるいは被害が少ない)だったかも知れません。

 1)2)3)4)を常態として使っているうちに、胚発生の原口部を肛門とし、神経管を背側とする「後口生物」が誕生した。というのが今回の仮説(空想に近いかな?)です。

 脊椎動物が誕生してからは後口生物は華やかな存在ですが、それ以前の古生代始めは、節足動物、軟体動物、環形動物などの高度に運動性、神経系を発達させた前口動物に比べ、誕生したばかりの後口動物は体制も原始的で、小さく、前口動物の餌となることが多かった存在と考えられてます。
 私達の祖先ですが。

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