対向流

 

 2つの媒体を混ぜてしまわずに、含まれる物質や熱などをやり取りさせる方法に対向流という仕組みがあります。

 寒い冬、冷たい川の中に鶴が立っている情景があります。脚に血液を通わせれば体の熱を奪われるし、血液を止めれば脚が凍傷になってしまいます。(凍傷は組織の低酸素で起こるので、充分血が通っていれば、0℃近く冷えても凍傷にはなりません。)体から熱を奪われずに、脚に十分な酸素を送る仕組みがあります。これが対向流です。

 

 上が暖かい体内、下が冷えた脚としますと、体から脚にすぐの所は、もうだいぶ暖められた静脈血が全然熱を失っていない動脈血に最後の加温をされ、ほぼ体温と等しくなって、体内にもどります。動脈血は、下肢に向かうに従って徐々に熱を失い、その分静脈血が暖まります。最も下の方では、だいぶ冷やされた、動脈血が、全く加温されていない静脈血に最後の熱を与え、冷たいが酸素の豊富な血液として、足先を環流して凍傷を防止します。
 ここでのキーポイントは、ポンプ以外のエネルギーを使わず、ほぼ100パーセント近い効率で、熱交換できることです。2つの媒体を混ぜてしまったらこうは行きません。

 熱交換ばかりでなく、鳥類は肺における酸素交換においてもこのシステムを採っています。哺乳類は、血液は一方向の流れですが、肺胞の気相は出たり入ったりの往復システムですので、大気中の酸素分圧より動脈血の酸素分圧はずいぶん低く、逆に二酸化炭素分圧は高いのです。
 これに対し、鳥類は吸った空気を一度気嚢に貯め、そこから肺へ一方向で気体を送ります。もちろん鳥の肺では気相、肺血管相が対向流をなしていて、効率的にガス交換できるのです。この優れたシステムのおかげで、鶴は酸素吸入も使わず、ものすごい酸素消費を伴うヒマラヤ越えができるのです。呼気で吸気を汚してしまう哺乳類は高度1万メートルでの激しい運動は不可能です。

 なぜ、ここで鳥類の対向流を長々と解説したかといいますと、この対向流システムは、水槽機器においても有効だからです。以前ベルシステムにする前、下から送気、上から落水するアンモニアタワー(一種の対向流)を使用したことがありましたが、これだけで、普通の曝気に比べて、硝酸レベルを3分の1にすることが出ました。

 今ベルリンシステムにおいて、対向流の原理を使うべき所、性能で評価すべき機器はプロティンスキマーだと思います。泡と水流が対向して流れていく長さが、泡の小ささと共に、スキマーの性能を決定していると思います。泡に汚れを取られ、きれいになった水が、再び流入水と混じるシステムでは上記の往復運動の肺と一緒で、泡の生成量ほどには、物質交換していないと考えられます。
 泡は上昇して互いに癒合する際、その表面積の減少に応じて、中に含む溶質濃度を上げ、汚れた水となって上部カップに回収されます。このカップに回収される直前の泡は流入水に接触させるべきで、処理された流出水は、スキマーの下方から戻されるシステムの方が合理的と思われます。

 また、プロティンスキマー以外にも、解放システムでは交換水の熱交換など、さまざまな2媒体間の物資・エネルギー交換に、対向流は有効だと思います。