海水組成

 2003年6月19日

濾過槽つきの水槽に比べて、ナチュラルシステムの水槽は一般的に換水量は少な目です。しかし、ミドリイシなど各種ミネラルに敏感な生物を飼育することが多いナチュラルシステムでは、海水組成の安定化は非常に重要なことと思います。

水槽の維持、サンゴの成長において、Caや重炭酸(KH)は計られ、またリアクターなどで添加することが必要なことは、一般的な知識となって来ましたが、他の元素の推移もまたアクアリストの気になるところと思います。

水槽のイオン変化の短期間の分析は見ますが、ある程度の期間、維持された水槽の海水がどうなっているかは、あまり日本では発表されていませんので、全量換水後「3年半」のうちの水槽と天然海水のイオン組成を上げておきたいと思います。
みなさまのご参考になれば幸いです。
(測定は環境検査も業務にしている、「秋田県総合保険事業団」に依頼しました)

検査水槽:
総水量300リットル、SPSメイン飼育、サカナ無し、底砂8cmライブサンド直引き、ライブロック。
3.5年前に全量換水、以後4週置きに天然海水20リットルで部分換水。
リアクター、スキマー付き。
添加剤、ヨウ素、ストロンチウムは規定量を週一回。微量元素補充剤は、たまに藻類の繁殖を見ながら鉄分補充目的にて添加。
マグネシウムや硫酸イオン、カリウムなどの補充はしていません。
(天然海水は環境年表からの引用です)


Na

Ca

Mg

Cl

HCO3

SO4

水槽

8400mg/l

390mg/l

460mg/l

1300mg/l

20000mg/l

250mg/l(KH11.5)

2500mg/l

天然海水

11050mg/l

416mg/l

422mg/l

1326mg/l

19870mg/l

2784mg/l


比重による誤差を考えれば、硫酸イオンやマグネシウム、カリウムは水槽と自然海水とはほぼ同じくらいだと思います。
(ナトリウム比から見れば多いくらい)
ナトリウムがやや低めでカルシウムがやや多いのは、リアクターによるカルシウム強化をやって、なおかつ比重を天然海水と同じくらいにしているためだと思います。

カリウムはほとんど下がりません。
(ウミブドウをときどき回収しているので、少しは下がるかと思ってましたが)

なお、うちは餌をやっていませんが、餌やりをする水槽だとカリウムは上昇傾向となると思います。
餌とはイコール細胞成分ですから、窒素やリンやカリウムが含まれています。

まったく無換水だとマグネシウムや硫酸イオンは低下傾向になるのは一般に認められたことですが、定期的に部分換水し、リアクターをつけていれば、特に添加せずともバランスを崩すほど低下したりはしないようです。

カルシウムリアクターメディアというのはサンゴ骨格由来です。
リアクターメディアを溶かして海水に補充すれば、サンゴ骨格に必要なおおかたの元素は整うはずです。
あとは蒸発しやすいヨウ素などが補充に必要なもので、他の予測しきれない微量元素は、「部分換水で補充」というのが、自然でかつ合理的な方法だと思います。

PS
海水イオンやpHは地球誕生の頃から現在まで同じではありません。
初期は酸性で、ナトリウムやカルシウムの低い組成だったようです。
20億年ほど前、小規模ながら大陸形成が始まり、「風化」という自然現象が始まりました。
(それまでは水上での大規模な風化は無かった)
これにより、地殻成分より溶けだしたナトリウムやカルシウムが徐々に海水にもたらされ始めました。
そういうわけで、20億年以前は海水はしょっぱくなかったのです。
そのころ、誕生した真核生物は当時の海水成分を反映し、細胞内にはナトリウムが少ない存在として誕生しました。
地質的時間が経ち、周囲の海水にナトリウムやカルシウムが増えるに従い、細胞内外にナトリウムやカリウムによる電位差が出来てきました。
(細胞内成分は真核生物誕生時とあまり変わらないため)
真核生物はだんだん大きなエネルギーコストを支払いながら、この細胞内外の組成の違いを維持しています。
初めから、細胞膜に今のような大きな電位差があったわけではありません。

なお、4億年ほど前には海水の比重が今の1/3くらいになりました。
この当時に誕生した、硬骨魚類(陸上脊椎動物の祖先でもある)は、細胞外液も周囲の海水から独立させました。
ただ、その内容は4億年前の海水組成とほぼ同じで、その後の海水濃度の上昇に伴い、海水環境と細胞外液の組成にも違いが生じ、硬骨魚はエネルギーを消費して細胞外液組成をも保っています。
人類の血液のナトリウムが海水の約1/3なのはこのためです。

硬骨魚類・陸上脊椎動物は20億年前の海を細胞内液に保存し、4億年前の海を細胞外液に留めています。


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