Brown Jelly

 褐虫藻を持つサンゴは、すべて罹る可能性のある病気、Brown Jellyについてです。Brown Jellyはある日サンゴが突然、茶色のブヨブヨに変わり、数時間から数日で健常部にもどんどん広がってサンゴが溶けていくという病気です。眼に見えないほどの傷口から原虫が進入し、褐虫藻を食い荒らしながらサンゴの組織を破壊していくため起こるとされています。

 The Reef Aquariumでは原虫類のHelicostoma nonatumが原因として挙げられています(Wilkens and Birkholz,1986;Beul、1987)。Helicostomaを調べてみましたが、原生生物の属名としては見いだせませんでした。ソースが同じと思われるアメリカのAquarium関連のHPには同様の記載がありましたが。
 なお、繊毛虫類のindexにHelicostoma oblongumParamecium marinumのシノニムとありました。調べ切れませんでしたが、HelicostomaParameciumのシノニムか近縁属と思われます。
 Parameciumはゾウリムシの属名です。Brown Jellyはゾウリムシかゾウリムシに近縁な海産繊毛虫類によって引き起こされると思われます。 

Brown Jellyに侵されたAcropora。
茶色になって垂れ下がっている部分が、患部です。患部は水流でたやすく吹き飛ばされるほどブヨブヨです。
また、溶けた部分は悪臭がひどくします。
病変から離れた健常部はポリプの触手を伸ばしていおり、通常と変わりません。

40倍での顕微鏡写真。
左下がピンセットで摘み摂った、病変部と健常部の境界部分です。
点々と見えるのは組織からこぼれ落ちた褐虫藻です。
長楕円形で、体内に褐虫藻を取り込んでいるのが、病原体と見なされるゾウリムシに似た繊毛虫です。

400倍像です。
組織に頭をつっこみ、むさぼるように褐虫藻を食べています。
体の中は食べた褐虫藻でいっぱいです。

同じく400倍像の写真です。
繊毛が生え、視野を高速で移動して行きます。
UKのところで見たゾウリムシより体長で3〜4倍と巨大な繊毛虫(ゾウリムシ?)です。
この繊毛虫は収縮胞などを持ち、全体の形態からもParamecium spのゾウリムシと思われます。

これらが、無数に病変、健常部境界にいました。
サンドや水中、デトライタス、UKなどには、このような巨大な繊毛虫は見られません。BrownJellyのところのみ多数個体がいます。
ここで増殖したのか、集まってきたのかは不明です。



  予防、治療)
 サンゴの傷口から繊毛虫が進入して発症すると考えられますので、サンゴに傷をつけないようにするのが一番です。実際には、頻繁な移動、サンゴ間の接触攻撃を避けるということになります。1コロニーが発症しても、他にすぐ伝染するようなことはありません。

 発症してしまったら、上で書いたように連続組織にはすぐ広まりますので、迅速な措置が必要です。最善の手は、健常部を2,3cm含んで、病変部を強力な鋏で切り落としてしまうことです。病変近傍は、異常がないように見えても感染していますので、繰り返しますが、切り落としは必ず、健常部を含んで行います。

 他には淡水浴があります。水槽と同じ温度にした淡水(pH調整は不要)に浸け、中でサンゴを振るい、病変部を取り去ります。これは浸透圧ショックで線虫類を殺すという方法です。淡水浴に弱いソフトコーラルには不向きですが、ハードコーラルは30秒ほどの淡水浴には耐えれらます。ただし、淡水浴しても境界部から再発することが多いようです。淡水浴の際は健常部も掻き取るなどの処置が必要かと思います。

 原虫類ですのでペニシリン系、セフェム系の抗生剤は無効です。The Reef Aquariumではクロラムフェニコールが有効で隔離して使用するとありますが、最善はやはり、病変切り落としだと思います。

  補)
 褐虫藻を食べてしまうこの繊毛虫は、通常でも水槽に低頻度に棲息していると思われます。ふだんは自由生活している渦鞭毛虫藻を餌にしているのだろうと思います。渦鞭毛虫藻にはDinoflagellatesなどの有毒藻類もいますから、あくまで推測ですが、それを低頻度に保つ働きをしているのかも知れません。サンゴにBrownJellyという病気を引き起こす原虫ではありますが、Reef Aquariumの多様な生物相という意味では、必要なメンバーかも知れません。 

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