修羅の一族
MAHIRO MEMORIES

マヒロジェクト]
『少年たちのD-デイ -ドラクエVを手に入れろ-』


1987年 夏――。


週刊少年ジャンプ誌上において、
あるゲームソフトの発売が発表された。


『ドラゴンクエストV
そして伝説へ…』


通称、ドラクエV。


ドラゴンクエスト、ドラゴンクエストUのシステムを継承し、
さらに転職システムを導入。
戦士、武道家、僧侶、魔法使い、賢者…。


後年、「ファミコン世代の記念碑」と呼ばれる事になる程の
ゲームだった。



その発売の発表に、全国の少年達が
驚喜した。


当初、その年の12月に発売される予定だったドラゴンクエストVは

開発の遅れから翌年、1988年2月10日に発売される事となった。


少年達は皆、発売日を待ち望んだ。


しかし、発売当日に出荷される本数は
限られていた…。





1988年2月10日。


運命は少年達を
翻弄した。





マヒロジェクト]










1988年2月。

マヒロ少年にとっては中学一年の三学期。

当時、マヒロ少年の同級生にメタキンとあだ名の付いた少年がいた。

彼の家はいわゆる貧乏で、
幼い頃に父親が蒸発。
いわゆる母子家庭だった。
住んでいる長屋には部屋がひとつしかなく、
そこで母親と兄弟三人が暮らしていた。


ここに二枚の記念写真がある。


矢印がメタキン

立っていると周りと同じ背の高さなのに







座ると、何故か一人だけ小さかった。




知らない間に卑屈になった。

そういった意味でも
貧乏が体に染み付いていた。




そんな極貧のなかでもメタキンの母親は、
息子には人並みの生活をと、
生活費を削ってファミコンを購入。

しかし日々の生活の中では
給食費を払うのが精一杯というのが現実だった。

そんな生活の中ではドラクエVも、
あきらめざるを得なかった。





当時、ドラクエVの出荷数について、噂が飛び交っていた。
製造が間に合わず、発売日には少ししか出荷されず予約無しでは買えない。
しかし、ほとんどの店舗では予約期間が終了していた。


少年達は焦りはじめた。





長野県松本市。
本来2月10日に発売になる予定のドラクエVは、
長野県では一日遅れの2月11日に発売という予定になっていた。


JR松本駅の近くに一軒の大型スーパーがあった。


イトーヨーカドー松本駅前店(現エスパ)。

地上七階地下六階。バスターミナルを兼ね備えた、市民の生活を支える大規模店舗だった。


少年達の間に、ひとつの情報が飛び込んできた。
イトーヨーカドーは予約販売ではなく、当日並んで買えるらしい。

少年達は驚喜した。


少年達は実売日である2月11日建国記念日を待ち望んだ。




小学校の卒業文集にこんなことを書いた少年がいた。

その名はソウタ
文集の自己紹介をゲームのことで埋め尽くしたほど、ゲームが好きだった。

ドラクエVの発売が決定すると
ソウタはすぐに近所のおもちゃ屋で予約をしていた。
余裕の購入計画だった。




そして発売日前日。


夜のNHKのニュースで
ドラクエVを買えなかった少年達による盗難事件まで起こったと
報道していた。


そのニュース映像には東京の電気街の様子が写っており、
数百人の少年達が電器ショップの前に並んでいた。


その報道を見ただけでも、購入はそうとう厳しいらしいと考えられた。


真下マヒロ
「もう、前日の夜は気が気じゃなかったですね。買えるだろうか、買えないんじゃないか。とかね。ぜんぜん眠れませんでしたよ。一晩中布団の中で寝返り打ってました。それで一緒に行く約束をしていた林君に朝八時に行くと電話をかけたんです。早すぎると言って林君は嫌がりましたけど」



マヒロ少年は朝八時につくように、七時半ごろ林君を連れ立ってイトーヨーカドーに向かった。
2月の朝はまだ寒く、薄暗かった。





そのころ、メタキンは悩んでいた。
やはりドラクエVが欲しくなっていた。

母親に相談した。
メタキンの母親は日ごろから、子供達には普通の生活をと思っていた。
昨日のニュースでドラクエVが、いかに子供達の間で人気があるかも知っていた。

母親はメタキンに、買っても良いと言ってドラクエVを買うには十分過ぎるお金を渡した。

メタキンは兄弟の期待を一身に背負って家を出た。
長屋の玄関で病身の妹が見送っていた。




マヒロ少年はイトーヨーカドーについて驚愕した。
すでにシャッターの閉まったままの店舗前には
少年達が列を成しており、整理券が配られ始めていた。

すぐにマヒロ少年はその最後尾について整理券を手に入れることに成功した。
整理ナンバー121
すでに100人以上の少年達が並んでいたのだった。


店の店員が、用意した整理券を配り終え、少年達にこの場を離れるように促した。
店の前には「整理券の配布は終了しました」という看板が掲げられた。



少年達は店が開く10時まで駅前で時間を潰さなければならなかった。

真下マヒロ
「整理券を貰ってとりあえず、安心しましたね。そこにはクラスメートも何人か来ていて、お互いの健闘を称えあったりしていました。お前何時に来たんだよ?6時?とかね。あとはゲームの内容について検討しあったり。戦士がどうしたとか僧侶がとか。とにかく、どきどきわくわくしてました」

しかし、ひとつの噂が少年達を不安の境地に陥れた。

整理券の数だけソフトが入荷されないのではないか。
整理券を持っていても買えないのではないか。
結局は玩具売り場への先着順になるのではないか。


玩具売り場はイトーヨーカドーの六階にあった。

少年達は開店前の店舗前に行った。
そこには、同様の不安を持った少年達が集まっていた。



6階まで行く為に、考えられるルートは三つだった。

エレベーター。

エスカレーター。

階段。


一階からエスカレーターを駆け上がるルートが最速だと考えられた。



その時、誰かが言った。

一階横の階段から、
開店前に直接二階に行けるルートがある。


開店前の二階入り口シャッター




開店前に直接二階に行き、階段で三階までのぼり
その後はエスカレータを駆け上がる。


それしかない。それでいこう。



マヒロ少年と仲間達はそのルートを選択し、開店前のシャッターの前に待ち構えた。




真下マヒロ
「人生で一番長い2時間でした」






その時、見知った顔が近づいてくるのに気が付いた。






メタキンだった。


必死の形相だった。


誰かが呼びかけた。


「メタキン!おめぇドラクエV買わないんじゃなかったのかよ、
っていうかさ、もう、整理券とか終わったぞ。
いまさら来ても、もう買えねぇぞ」



「え?」



その一言にメタキンの顔色が変わった。



真下マヒロ
「あの時のメタキンの顔は、忘れられません。人は失意のどん底に陥るとあんな顔になるのでしょう。無罪だと思っていたのに極刑を言い渡されたような、そんな顔でした」

失意のメタキンにかける言葉も無く、少年達は開店時間を待った。

そして、

午前10:00。
イトーヨーカドー開店時間。


シャッターが開き始めた。
少年達は開店の放送を待つことも無く、シャッターを潜り抜けた。


少年達は階段を駆け上がった。


そしてエスカレータを六階まで息つく事も無く駆け上がった。


なぜかメタキンも一緒に駆け上がった。


百人以上の少年達が階段とエスカレーターを駆け上がった。


そして6階玩具売り場。


玩具売り場のレジには少年達が群がり、店員がそれを一人づつ処理していった。


無事に赤いパッケージのドラクエVを手に入れた少年達は
手に入れたドラクエVを手にしながら、至福の時間を味わっていた。



その場には当然買えなかったメタキンもいた。



その時、メタキンが言い放った。



メタキン
「一万円で買う。誰か売ってくれ」


さすがに誰も売らなかった。





結局、
メタキンはドラクエVを買うはずのお金で、
誰も聞いた事もないようなファミコンソフトを買っていた。


もう、だれもメタキンに声は掛けられなかった。







――その頃




ソウタは余裕で近所のおもちゃ屋に向かった。


そのおもちゃ屋に予約し、

予約番号2番。


買えない訳がなかった。


ソウタの頭の中は、すでに冒険のイメージでいっぱいだった。




おもちゃ屋について財布をとりだした。


そして、店の店主に言われた。





「ああ、それ入荷しなかったよ。ごめんね」







『ドラゴンクエストV
そして伝説へ…』





旅立ちの勇者


待ち構える洞窟、塔

冒険につぐ冒険。

目の前に広がる世界。


その日、少年達は徹夜した。


そして次の日の夕刻。

マヒロ少年は学校から帰ってきて、ファミコンのスイッチを入れた。


ぼうけんのしょ1がきえました
ぼうけんのしょ2がきえました
ぼうけんのしょ3がきえました




「目の前が真っ暗になりました」


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