48ページ・フルカラー解説書(全20曲のイメージ・フォト、歌詞、伴奏用コード付き) 同封

 メレ・フラ・ベスト・コレクション 
ビクター VICP-62876 2004年10月21日発売

● ハワイ島発の珠玉アルバム
このアルバムのタイトルにある「メレ・フラ」とは「フラを踊るための音楽」を意味します。…と紹介すると、フラに興味のない人達にとっては無関係の音楽だろうと誤解される心配がありますが、そうではないのです。私たちが親しんでいる「ハワイ音楽」はそのほとんどがフラの「振り」をもっており、踊りが付いても付かなくても音楽のもつ素晴らしさは少しも変わりません。
  このアルバムはフラを意識したタイトルにもかかわらず、逆にフラを踊る皆様には手ごわい内容を持っています。例えば「ワヒネ・イリケア」の場合、ウクレレだけのバックで唄われており、慣れ親しんでいた雰囲気と大きく異なるので戸惑うかもしれません。ほかにもこのようなパターンの曲がたくさん収められていますので、そのような場合は踊りを諦めていただき、じっくりと「ハワイ音楽」としての素晴らしさを鑑賞してください。
  このアルバムはハワイ島の新旧ミュージシャンがハワイ島のスタジオで録音したもので、商業主義に影響されたオアフ島と違った「素朴なハワイ島発」の音楽を実現した珠玉のアルバムと言えましょう。

 1996年末にハワイでハワイ音楽評論家の鳥山親雄氏が発行人の「Musical Images Of Hawaii」というユニークな本が出版されました。マヒ・ビーマーと従姉妹のゲイ・ビーマーのハワイ語の英訳、ジョセフ・マトスの解説による50曲のハワイ音楽の歌詞が紹介されているのですが、それにも増して注目されたのは、この本の編集者でもあるハワイ在住の写真家カズエ・クレバヤシさんの撮影になる一曲一曲のイメージをあらわす美しい写真が添えられていたことです。カズエさんは20年近くホノルルに住み、カタログやカレンダー等の商業写真から結婚写真などの人物写真までと広範囲の活躍しているプロの写真家で、この本の着手から完成までの2年間は音楽のイメージを求めてハワイ諸島を飛び回ったとのことです。 今回のアルバム「ベスト・オブ・メレ・フラ」はこの本に掲載された50曲にもとづき、カズエさんと下記でご紹介しますミチコさんおふたりのプロデュースによりリリースされた「Mele Hula」「Mele Hula 2」「Mele Hula 3」という三枚のベスト・セリングCDのなかから20曲を厳選して収録したもので、そのうち18曲はこの本にも紹介されているという大変うれしい企画になっています。
 この三枚のオリジナルはM&Hハワイというレーベルでリリースされました。このレーベルの責任者ミチコ・ウラタさんは日系二世の音楽家で日本人移民の労働歌である「Holehole Bushi」の採譜・保存に貢献したハリー・ウラタ氏の夫人であるとともに、ウクレレの達人オータサン(ハーブ・オータ)のマネージャー/プロデューサーとして長年活躍している方です。

実力派ミュージシャンたちの横顔

 今回のCDに登場するマヒ、ニーナ、マカ以外の歌手としては、オアフ島にありがちな商業主義に毒されないハワイ島在住の実力あるミュージシャン達を中心に選び、それぞれのもつ個性を生かした録音を行いました。ここに代表的なミュージシャン達の横顔を簡単に紹介いたしましょう。

マヒ・ビーマー
ハワイの大作曲家であったヘレン・デシェイ・ビーマーを祖母にもつハワイ音楽の名門ビーマー・ファミリーの重鎮で、カメハメハ・スクールというハワイ音楽の伝統を継承する高校を卒業後、ジュリアード音楽院で学んだ本格派のミュージシャン。歌手、ピアニストとして現在も活躍しています。

ニーナ・ケアリイワハマナ:
ハワイ音楽の名門ロドリゲス・ファミリーのルーツであるヴィッキィ・イイの娘。ふたりの姉ラニ、ラヘラそして兄のボイシィとともに「ハワイ・コールズ」の全盛期を支えた歌手。他の姉兄の引退後もソロ歌手として現役を続けています。

マカ・カアイフエ:
上記マヒ、ニーナそしてこのマカの3名のみがオアフ島在住の歌手ですが、マカとしてはこのアルバムが彼女の初レコーディングなのです。彼女の大変低く、それでいてしっかりとした歌声が認められ、参加いたしました。

ジョン・ケアヴェ・シニア:
ハワイ島在住のスラック・キー・ギター奏者の御所。スラック・キー・ギターおよび唄によるアルバムを沢山リリースしており、ナー・ホークー賞の受賞者でもあります。

メアリー・アン・リム:
名門音楽一家リム・ファミリーのお母さんであり、伝統あるフラの大会メリー・モナーク・フラ・コンペティション常勝ハラウのナー・レイ・オ・カホロクーの創設者でもあります。

エルマー・サニー・リム・ジュニア:
メアリー・アンの息子で、現在はリム・ファミリーおよびEMNトリオの中心として唄とギター、ウクレレで活躍しています。

ボボ・ブラウン:
有名なブラウン・ファミリーの一員。彼の力強い歌声が認められ、今回のアルバムではハワイ・アロハのリード役として参加して貰いました。

ダニエル・アカカ・ジュニア:
ハワイの歴史に造詣が深い人物で、マウナ・ラニ・ベイにある歴史資料館の責任者を務めるとともに、チャンター、歌手、ギター奏者としても活躍しています。

クニア・ガルデイラ:
ハワイ音楽の伝説的人物であるギャビイ・パヒヌイの孫。ウクレレと唄で売り出し中の若手のホープ的存在です。

ケヴィン・ケアロハ:
1995年にフリ―・アンド・イージーというグループでCDデビューした実力派です。サニー、クニアと組んだEMN(エコル・メア・ヌイ)トリオで活躍しています。

カハレワイ・マウ:
ギターの演奏ではハワイ島でトップクラスの実力者。彼の歯切れの良いギターがこのアルバムを支えています。

エディー・クー:
自身のアルバムを何枚かリリースしている本格派のミュージシャン。今回のアルバムでもカハレワイとのコンビで軽快に唄っています。

カレイ・ブリッジス:
エディー同様、自身のアルバムを数枚リリースしている歌手。彼のファルセットは天下一品です。

チャールス・リケイド:
自分の録音スタジオを所有し、今回のアルバムの幾つかも収録しました。さらにコハラという癒し系ギター・トリオの一員としても活躍中です。

ブリックウッド・ガルテリア:
ハワイ音楽専門AM局KCCNのパーソナリティー、ナー・ホークー賞のプレゼンターを経て、現在はナー・ホークー賞主宰団体ハワイ・レコード演奏家協会(HARA)の会長として活躍しています。

歌詞にコード・ネームがつけられています

 このCDにはそれぞれの曲の歌詞だけでなく、CDで演奏されているキー(調子)にあわせたコード・ネームが付いています。厳密に言えばイントロ部、バンプ部そしてエンディング部の各部分は演奏者独特のコード付けがされておりますので、ここでは歌詞部のみにコード・ネームが付けられていますが、それでもCDと一緒に演奏できるという満足感がえられます。

曲目解説

  1. プア・カーネーション:
    ケヴィン・ケアロハの弾くウクレレ1台をバックにクニア、ケヴィン、サニーの三人が唄います。曲はハワイの生んだ大作曲家チャールス・エドワード・キングの作品で、「すべての花のなかで最も美しい」とカーネーションに託した女性への愛の唄です。フラのバック用の曲というよりは純粋な歌曲に近い構成の曲なので、三人もその雰囲気で唄っています。

  2. ヘネヘネ・コウ・アカ:
    カハレワイ・マウの弾く、しゃれたリズムのギターに乗ってエディーがマルチ録音によるコーラスで唄います。歌詞はガタガタ揺れる路面電車にのってワイキキのあちらこちらに行く、というもので、カカアコでビーフシチューを食べたり、ワイキキで泳いだり、更にはカパフルでワカメを食べたりという他愛のないことを二人で楽しんでいる様子を唄っています。

  3. プア・リーリーレフア:
    ウクレレ奏者で作曲家、バンドリーダーのカハウアヌ・レイクが愛する女性マイキ・アイウに捧げた愛の唄で、後にマイキは彼と結婚いたしました。当時マイキが住んでいたパロロ谷にはリーリーレフア(サルビアの花という意味もあります)という雨の女神がいて、モオという怪獣に守られていたところ、モオが彼女に嫉妬したという伝説をもとに作られました。

  4. ヘ・ウイ:
    ヘ長調(F)のバンプからすぐにイ長調(A)に転調してメロディーが始まるというしゃれた構成の曲をニーナ・ケアリイワハマナが唄います。ニーナは数多くの曲をレコーディングしていますが、この曲を唄うのは彼女にとっては初体験とのことです。この曲は男性歌手としても有名であったダニイ・クアアナが若い女性への敬愛と讃美を唄って作ったものです。

  5. カ・ワイレレ・オ・ヌウアヌ:
    打楽器によるリズムと滝の効果音をバックに、ウクレレによる荘厳なイントロが演奏されたのちにクニアの唄が続きます。この曲はジェイ・カウカが毎日自宅からヌウアヌ峡谷をとおって通学していた頃、運転していた父親が峡谷にある滝を「永遠に終わらない滝」と教えてくれたことを父の死に際して思い出し、父への永遠に変わらない愛を誓って作曲しました。

  6. カーヴィカ:
    ハワイ王朝最後の王であったカラーカウア王(彼のファースト・ネームのデイヴィッドがハワイ語でカーヴィカ)の偉業を称えた曲です。特に財政的な援助をイギリスとフランスの王室に求めるなど、ハワイ国民のためにいかに心を砕いたかを唄っています。彼は長いあいだキリスト教の宣教師達に禁じられていたフラと音楽を復興したことでも知られています。

  7. カウラナ・カワイハエ:
    ハワイ島の南コハラ地区にある美しい港カワイハエの唄をケヴィン・ターヴァスとチャールス・リケイドが唄います。曲中にあるプアカイリマというのは以前カワイハエ港内にあった島の名前で、イリマの花が咲き誇ることで有名な場所でしたが、ハワイ島を襲った津波によって単なる珊瑚礁のひとつに変わり、さらに港内整備のため浚渫されてしまった地元民の思い出の島なのです。 

  8. ナー・モク・エハー:
    ダニーのオヘ(鼻笛)ではじまり、彼のチャントに続くという古典音楽の形式に則った演奏です。さらにニーファイ・ブラウンの弾く軽快なギターに乗って毎回短調と長調が交互に出現するというアレンジもユニークなものです。この曲の作者はJケアロハと登録されていますが実際にはトラディショナル曲でしょう。ハワイ諸島中の大きな四つの島にある山と、それらの島を代表する花のことを唄った唄です。

  9. カ・マカニ・カーイリ・アロハ :
    マシュー・カーネの作曲した曲でメアリー・アンの得意な唄のひとつです。妻に逃げられた夫が悩み苦しんだ末にカフナ(呪術師)のところへ相談にいきました。そして話を聞いたカフナは彼にある薬を与えたので、夫はその薬をかつて二人が何度となくデートを重ねたマウイ島の海に注いだところ、彼女が無事に彼の元に戻ってきた、というめでたいお話です。

  10. カラマウラ:
    モロカイ島の南岸の町カラマウラの素晴らしさをケヴィン・ケアロハが唄います。この町出身の歌手で、史跡保護運動中に消息を絶ったジョージ・ヘルムの得意とした曲を、現在は彼の姪である若手女性歌手のライアテア・ヘルムが持ち唄としています。歌手によってはハイナ・ヴァースの一部を息継ぎなしで唄いますが、ケヴィンはストレートに唄っています。

  11. ケ・アロハ:
    愛するふたりが過ごす夢のような一夜の出来事を唄ったレイ・コリンズとマディー・ラムの作品。アロハという単語は「愛」「こんにちは」「好意」「親切」そのほか無数の意味を持ちますが、ここでは「愛」そのものを表しています。1997年のナー・ホークー・ハノハノ・アウォード女性歌手賞受賞者ダーリン・アフナがギターとベースをバックに唄っています。

  12. プア・オーレナ:
    ウォーレン・カネアオのギター弾き語りでしっとりと聴かせてくれます。カウアイ島という世界有数の多雨地帯に広く群生するウコンの黄色い花を唄った曲で、カウアイ島のジェームス・K・カホロクアが作曲しました。リム・ファミリーの父親エルマー・リム・シニアが健在であったころ、リム・ファミリーの唄ったこの曲が大ヒットをしたことがありました。

  13. ワイキキ:
    のちにスラック・キー・ギターの神様と呼ばれたギャビイ・パヒヌイをスチール・ギターに擁した1940年代の人気ハワイアン・バンドのリーダーでウクレレ奏者のアンディー・カミングスが、演奏旅行に訪れた寒いデトロイトの郊外で故郷のワイキキを想って作った名曲。唄い手は晩年のアンディーの勤務先における同僚ブリックウッド・ガルテリアです。偶然ハワイで録音に参加した関西のジャズ・ギタリスト畑浩の素晴らしいアドリブもお楽しみください。

  14. ワヒネ・イリケア:
    クニアが自身のウクレレ多重録音のみをバックに美しいモロカイ島の自然と肌の白い女性を唄います。歌詞に登場するヒナ、ハーナー、モオロアはいずれもモロカイ島にある滝の名前で、肌の白い女性をも代表します。作者は伝説のバンドであるサンズ・オブ・ハワイにギャビイ・パヒヌイに代わって加わり、数多くの名曲をつくったデニス・カマカヒ師です。

  15. カレナ:
    普通はカレナ・カイというタイトルで知られている曲ですが、ここでは「Music Images Of Hawaii」の表記どおりカレナとしてご紹介いたします。オアフ島にあるいろいろな場所とそれらの場所への愛情を唄った曲で、トラディショナル曲のためハイナ・ヴァースなどはいろいろと異なる歌詞で唄われています。エディー・クーが軽快なウクレレで唄います。 

  16. プア・マエオレ:
    ラジオ・プログラム「ハワイ・コールズ」全盛期の看板女性歌手であったハウナニ・カハレワイを彷彿させる低音でマカが唄うこの曲は、歌手、作曲家のジョン・スクィーズ・カマナが自分の娘の名前をプアマエオレと名づけ、彼女に贈った愛の唄なのです。プア・マエオレは永遠に枯れることのない花を意味し、愛娘がいつまでも元気でと祈って作られました。

  17. ノホ・パイパイ:
    いつも集まって演奏しているクニア、ケヴィン、サニーの3名が息の合ったコーラスを聞かせてくれます。この曲は盲目の作曲家、歌手、バンドリーダーであったジョン・カメアアロハ・アルメイダの作品で、ロッキング・チェアーで揺れている恋人ふたりを唄っていますが「揺れている」は「ふたりでいいことをしている」という性的な意味も表わしています。

  18. プープー・ヒヌヒヌ:
    ケオラ・アンド・カポノ・ビーマーの曾祖母であり、ハワイ音楽の権威マヒ・ビーマーの祖母でもある大作曲家のヘレン・デシェイ・ビーマー作になる有名な子守歌。ハワイの子供たちは小さいときにまずこの歌から覚えるといわれています。プープーは「貝」ヒヌヒヌとは「輝く」という意味。ジョン・ケアヴェがスラック・キー・ギターを弾きながら唄います。

  19. エコル・メア・ヌイ:
    新約聖書のコリント書にもとづいてマウイ島のロバート・J・K・ナーヴァーヒネが自分の所属する教会の日曜学校のために作詞作曲をしたハワイ生まれの賛美歌。エコル・メア・ヌイとは世の中における三つの大切なもの、すなわち希望・信仰・そして最も大切な愛情を指しています。ハワイの歴史家でもあるダニエル・アカカJr.が解説を加えて唄います。

  20. ハワイ・アロハ:
    ハワイでのパーティーの最後には全員が手をつなぎ、この唄をうたいますが、その雰囲気を出そうと考えた二人のプロデューサーは、マヒ・ビーマーのピアノとボボ・ブラウンのリードに合わせてCDレコーディングのためにスタジオに集合していたミュージシャン全員にこの曲を唄って貰ったのです。そしてこのアルバムもこの曲でめでたく終了となりました。

マット・コバヤシ


Jam Selections