CDジャケット写真
    

「ウクレレ・パラダイス」/JOY
ラッツパック・レコード LEIR-0049

「 Living In Paradise/Joy」
Roy Sakuma RSCD3811



ロイ・サクマの秘蔵っ子ジョイのセカンド・アルバムこのCDは4人の若い女性によるユニット「JOY」のセカンド・アルバムです。99年夏にもPALOLOと帯同して日本各地で演奏し、TVにも出演した彼女たちのステージをご覧になった方々も多いのではないでしょうか。大学4年生を筆頭に3年生、2年生そして高校2年生という女性4人組JOYのファースト・アルバムは2年前の1997年にリリースされ、ウクレレを中心とした歌のアルバムとして、ハワイの若者たちの圧倒的な支持を獲得、長いことベストセラーにランクされていました。
まだまだ音楽的にも身体的にも成長を続けている彼女たちのセカンド・アルバムを是非!という要望が強くなった為、ロイとキャシーのサクマ夫妻はこのアルバム作成に踏み切りました。このアルバムはいわばJOYとしての区切りを付ける意味も含めてあり、サクマ夫妻が彼女たちの将来まで束縛せず、自由にそれぞれの音楽生活を送ってほしいという願いも込められています。

すべてはウクレレ・フェスティバルから始まった

ハーブ・オオタの高弟で、ハーブの持っていた教室をも引き継いでハワイ最大のウクレレ教室主宰者となったロイ・サクマは、ウクレレの本場でありながらあまり重要視されていなかったこの楽器を、もっと普及させたいと考え、ハーブ・オオタの姪で、ウクレレのインストラクターでもあるキャシー夫人とビッグ・イベント「ウクレレ・フェスティバル」を1971年からスタートし、2000年には30回を迎えるまでになりました。
ハーブ・オオタが演奏一筋であるのに対して、持ち前の社交性を生かしたロイは、楽器メーカーや放送局、さらにはハワイ州政府にまで働きかけて、このイベントを盤石の存在に育てあげました。

JOYは超テク集団スーパー・ケイキの卒業生

ウクレレ・フェスティバルではロイ・サクマ教室の生徒を幼児、小学生のグループA〜D、初心者グループ、ウクレレ・バンドと呼ばれる中級者300〜400名の板付きグループ等いくつかのグループに分けて出演させていましたが、なかでも一際目立つ存在が「スーパ・ケイキ」と呼ばれる7〜8人の男女のグループでした。
ケイキというのはハワイ語で子供のことで、子供とは思えない実力の持ち主たちの演奏、歌そしてフラはウクレレ・フェスティバルの目玉とも言える存在でした。
彼等の年齢が「ケイキ」とは言えない年代になったのがきっかけで、ロイとキャシーはその中から4人の女性を選んで「JOY」を結成することにしました。おもしろいのは4人とも日系の姓を持っていることです。PURE HEARTの3名中2名(ジェイク・シマブクロとジョン・ヤマサト)が日系の姓であるのもこれに関連するかも知れませんが、日系の家族が音楽教育に熱心であることの現われと見たら間違いでしょうか。

4人のプロフィール

ジャケット内部に各自の名前付きの写真がありますので、それを参考に見ていただきましょう。
まず、リーダーのリリ・アナマです。ファースト・アルバム時の彼女は結婚前であったので、リリ・サトウとクレジットされています。彼女は大変優れた能力を持ち、9歳からウクレレを始めて14歳でインストラクターの資格を獲得、それ以来ウクレレ・フェスティバル・バンドのとりまとめから、カイムキ地区における教室の指導者、1991年からはスーパー・ケイキのリーダーを、そしてJOY結成に伴い、このグループのまとめまで受け持っているスーパー・レディーです。ステージをご覧になった方はお分かりでしょうが、彼女がいつも裏に回って他のメンバーの演奏をサポートしている姿は、若いプレイング・マネージャーそのものです。
私はここの所、毎年ウクレレ・フェスティバルを見物に行っていますが、忙しいなかをゲストの世話までしている彼女の姿勢には、いつも感激させられます。ネリー・トヤマは5歳でウクレレを始めましたが、その一方、日本の歌謡曲の教室にも通い、子供とは到底思えない声量、音程、そして小ブシの回しかたなどで当時から注目されていました。JOYのファースト・アルバム収録の「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」での彼女の絶唱は必聴ものです。
彼女は昨年ハワイ大学を卒業、ロイ・サクマを助けてアイエア地区等での指導者として活躍しています。
4人のなかでただひとり西洋系の顔立ちをしたジーナ・シマブクも姓から判断すると日系それも沖縄系なのでしょうか。ジーナは作曲の才能があり、ファースト・アルバムでは彼女の作品「レイン・ガーデン」がメンバーの作品として唯一収録されていましたが、今回のアルバムではメンバー中で最大の4曲が収録されています。 彼女はウクレレだけでなくギターも達者で、舞台では隣に立っているネリー・トヤマと一台のギターを交代で弾いていました。
メンバー最年少のキャンディス・ナリマツは、その小さい体からはじけるようにウクレレ・ソロをバリバリ弾きまくります。
ファースト・アルバムでの「クマーナ」を聴いてびっくりされた方も多いと思いますが、今回のアルバムでも「12番街のラグ」で妙技を披露するとともに、いくつかの曲でのソロ・パートでトロイ・フェルナンデスばりのスリー・フィンガー・ソロを聴かせてくれます。実際のステージでも興にのると背中弾き、頭上弾き、はては股間弾きなどのアクロバティック演奏が登場します。

もうひとりの秘蔵っ子ダニエル・ホー

今回のアルバムには何人かのミュージシャン達がJOYの演奏をサポートしていますが、その中でロイ・サクマのもう一人の秘蔵っ子ダニエル・ホーだけは紹介に値する重要度を持っております。
彼はこのアルバムのタイトル・ソング「リビング・イン・パラダイス」を作曲するとともに、ピアノ・キーボードそしてパーカッションで参加しています。実際の彼はそれらの楽器は勿論のこと、ウクレレ、スラック・キー・ギターそしてベースまで演奏するマルチ・タレントなのです。ユニークなグループ「カヌー・クラブ」のリーダーであるとともに、何枚ものウクレレ、スラック・キー・ギターのアルバムもリリースしております。
99年のウクレレ・フェスティバルではPALOLOのベース担当ネーザン・ナヒヌがチノ・モンテロとともにギターを弾いたために、ダニエルが飛び入りでベースを弾くという思わぬ場面が出現し、観衆を楽しませました。彼がロイ・サクマ・プロダクションからリリースしたハワイアン音楽をウクレレで弾いたCDも是非聴いてみることをお勧めします。

曲目解説

  1. リビング・イン・パラダイ
    スダニエル・ホーとフェイス・リベラの共作になる今回のアルバムのタイトル・ソング。この天国ハワイに住んでいるのに、自分はひとりぽっちで寂しいと歌う。曲中の「カープール」は二人以上が乗車している場合だけ走行を許されるレーンのこと。
  2. サラウンド・ミー・ウイズ・ラブ
    「たくさんの失望があったり、真の友達が見つからなかったとしても、あなたがその愛で私を包んでくれさえすれば、それで幸せだ。たったひとこと、あなたが必要とだけ言わせてほしい」と切々と歌う、愛のバラード。
  3. モーニング・ライド
    ジーナ・シマブクの作品。姉妹でサーフボード乗りに出掛ける様子を歌う。ライドは波に乗ることで、歌詞にあるチューブは波が作るトンネル、コルクスクリューは波の上で回転するテクニックを表わしている。
  4. 12番街のラグ
    古典的名曲。「ラバー」同様、何故かウクレレのソロとしてたくさんのプレイヤーが手がけている曲。最近のJOYのステージではキャンディスのソロとして必ず、演奏される。途中からアップテンポになりエンディングに至る演奏は必聴もの。
  5. プレイ・ザ・レゲエ・ミュージック
    彼女たちの大好きな、というかハワイの若者のお気に入りのリズムであるレゲエによるキャンディスのオリジナル曲。歌詞の中にある「ブラダア」および「シスタア」は仲間や先輩の男女を呼ぶ場合に使われ、語源はもちろん「ブラザー」「シスター」。
  6. スマイリー・ボーイ
    帽子の陰にある目でいつもほほえんでいる彼が、私の心を射抜いた。昼も夜も彼が大きな音で音楽を鳴らしている周りにはたくさんの人が集まっているが、あとでも良いから私にも時間を取っておいてね。電話を待っているから。というジーナのオリジナル曲。
  7. イット・ウイル・ビー・ゼア
    同じくジーナのオリジナルのラブ・ソング。やや片思いのような雰囲気であるが、とにかくあなたがそこに居てさえくれれば、そこに「何か」が待っている(愛が見つめている)ので、お願い、そこから動かないで、と歌う。
  8. ゾンビ
    クランベリーズ1994年のアルバム「No Need to Argue」でリリースされた曲。たくさんのカバーバージョンが存在している。タイトル「ゾンビ」はあの恐ろしいゾンビそのもののこと。惨劇は静かに静かに行われると歌われる。
  9. ホワット・ユウ・トーキン・アバウト
    レゲエのビートに乗って、変わった少年のウワサ話を歌っている。なにしろ彼は本を読むのが嫌い、オンナの子が嫌い、クルマもボートも嫌い、そしてこんなに楽しいレゲエのビートも嫌い。彼はちょっとオカシイんじゃない?・・・という内容。
  10. ワン・ドロップ
    ボブ・マーレイとウェイラーズ1979年リリースになるこれまたレゲエの名曲。ドロップ、ラップ、ストップそしてギャップと韻を踏んだ歌詞。中に繰り返し出てくるジャド(Jah'd)はジャマイカのレゲエ愛好者の信奉対象のこと。
  11. メイク・サムワン・ハッピー
    次の曲はガラッと変わって、スタンダード・ナンバーからの曲。JOYのユニゾンの美しさが聴きどころ。誰か素敵な彼をハッピーにしてあげなさい、もし彼を見つけることができたら彼の周囲にあなたの世界をつくりあげるように、とJOYがしっとりと歌う。
  12. ティックル
    ふたたびジーナの書いたレゲエ調のオリジナル曲。タイトルのティックルとはくすぐるとかうきうきするような気持ちを意味する。レゲエの音楽が流れると、うきうきして、自然とからだが動きはじめ、あなたの心をくすぐると歌う。
  13. ドゥー・ザ・フラ・スィング
    突然素朴なウクレレ・ソロの登場。ロイ・サクマはJOYのファースト・アルバムのタイトル曲「アイ・アム・ホワット・アイ・アム」をはじめとして、彼の生徒たちの為に沢山のオリジナル曲を手がけている。この曲もそのひとつで、入門者用のやさしい曲。
  14. モア・イーチ・デイ
    JOYのリーダーであるリリのオリジナルで、歌も彼女自身。ほかのナンバーと違ったソフトな雰囲気はリリの持つ性格そのもの。愛する人を毎日毎日、それまで以上に愛すると歌う曲は、リリが結婚した夫に捧げるメッセージと思われる。

マット・コバヤシ 


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