CDジャケット写真
       

ビデオ「イズ・ミュージック」

ラッツパック・レコード
LEIV-0048



■ イズの追悼ビデオこのビデオ「イズ・ミュージック」は、先にレイレコードからリリースされたイズ(イズラエル・カマカヴィヴォオレ)の追悼CD「イズ・ライブ」(LEIR-0040)と同一の原タイトルTHE MAN AND HIS MUSICをもち「THE MAN」という最上級の表現によってイズに対する尊敬の気持ちをあらわした追悼ビデオですが、CDとは多少異なった内容を持っています。CDが1993年から1997年にかけてのイズのライブコンサートの演奏曲目から選んで作成されたのに対して、ビデオの方はハワイ島ミロリイでのライブだけはCDと共通ですが、あとは主として「アイランド・ミュージック・アイランド・ハート」と題するTV番組シリーズとして放映された彼の演奏と、TVスタジオ内での彼の「語り」を組み合わせた構成となっています。従って全14曲中、CD「イズ・ライブ」と共通の曲は7曲しかありません。
このビデオ中のイズの「語り」を聴き取るのには大変苦労しました。ハワイ訛りの英語(ピジン・イングリッシュ)というよりは、英語訛りのハワイ語とさえ誤解しそうな訛りようで、文法もなにも有ったものではありません。例えば冒頭の「私の名前はジョージ・ワシントン・・云々」の部分などはテープが擦り切れるまで何度も聴き直したのですが、遂に理解できませんでした。

■ ハワイ人の復権運動をサポートしていたイズ 今から百年と少し前に、米本土から住みついていた実業家達の陰謀でハワイ王朝が転覆され、女王リリウオカラニがイオラニ宮殿に幽閉されるという事件があって以来、ハワイ人達はそれまで持っていた権利を剥奪され(実際には彼等に権利意識が無かったために簡単に奪われてしまったのですが)下層階級の生活に甘んじていたのです。
最近になってやっと民族意識の芽生えとともに「ハワイ人の復権運動」が興り、ハワイ語による学校教育も行われるようになったのですが、イズは決して政治的ではなく音楽を通して「復権運動」をサポートしておりました。このビデオはイズ自身の語りによって、CDなどからではなかなか知ることのできない彼の信条を(聴き取りにくいとは言え)理解できる貴重な資料と言えましょう。

■ 四個所で収録 このビデオは、まずTVスタジオでの「語り」と、同じくスタジオ内のスクリーンをバックにした「エ・アラ・エー」に始まり、随所に「語り」をはさみつつ演奏場所がオアフ島マノア・ヴァレーにあるワイオリ・ティー・ルーム、ワイマナロ・ビーチそしてハワイ島のミロリイと代ります。マノアでは観客こそ居ませんが仲間と楽しく演奏しており、ワイマナロでは彼がウクレレ1本だけでしっとりと唄い、最後のミロリイでは観客と一体となった演奏を、と多彩な内容のビデオができあがりました。
最後のミロリイでの記録は、本来であれば「ハワイ・アロハ」で終わるべき内容で、クレジットもそこに挿入されているのですが、このあとに「ボーナス・カット」と称して「ハワイ‘78」が1曲追加されています。


■ 曲目解説(曲目のうしろにキー:調子を示しました)

1.エ・アラ・エー(C)
彼の語りは「母親が代々それぞれの子供たちに子守り歌を歌って聞かせているように、自分にとってハワイ音楽は後世まで大切に伝えていきたい音楽だ」というものですが、この曲は「大地と海が与えてくれた場所に住んでいる我々は、子孫が制約なしに暮らせるように、いま立ち上がるべきだ」とハワイ復権への呼びかけをしています。
2.ヘネヘネ・コウ・アカ(C)
「私にとって音楽というものは、密かな合図によって自分の心を伝える手段だ。特に学校嫌いや浜辺で遊んでいる連中がそれを分かってくれる。」と語ります。歌は「恋人と二人で路面電車(以前はホノルルにも走っていました)に乗ったり、ビーフ・シチューを飲んだり、海で泳いだり、ワカメを食べたり・・」したときの恋人の楽しそうな笑顔を歌っています。
3.カマラニ(A)
イズのグループはマカハ・サンズ・オブ・ニイハウのオリジナル・メンバーであった従兄弟のメル・アミナ(ギター)、ベースのアナル・アイナそして音楽監督でキーボードのゲイロード・ホロマリアとイズの4人組(パーカッションのマイケル・マルドゥーンが加わることも)ですが、イズは語りで「みんなで演奏するのは大変楽しい」と言っています。この「カマラニ」はカウアイ島の名歌手ラリーリベラの作で、カマラニ(首長の子供のこと)に呼びかけている唄です。
4.メン・フー・ライド・マウンテンズ(G)
この曲こそ「大変楽しい」ジャム・セッションの例と思います。イズは「私が音楽を楽しむ時は最小の努力で最高の効果が出るように(早い話、何もしない!)している」と無責任な発言。それでも、この曲のように掛け合いで唄えるのは最高ではないでしょうか。山に登るのであれば「クライム」を使えば良いのに、この曲は「ライド」すなわち山にまたがってしまう人達のお話です。
5.グリーン・ローズ・フラ(F)
「私はロックン・ロールもハワイアン音楽も好きで、どちらか一方ばかりと言うことはないが、何と言ってもハワイアン音楽が我々のルーツだからこれを演奏できないようだったら、他の音楽を演奏することなんてありえない。」と語り、ハッピーな「グリーン・ローズ・フラ」の演奏に入ります。歌詞の最初に登場する「ロケラウ」が緑色のバラのハワイ名です。他のフラ・ソング同様、この花に喩えて恋人に語り掛ける唄です。
6.プープー・オ・ニイハウ(A)
ここからがワイマナロ・ビーチでのイズのソロ・ヴォーカルになりますが、残念なことに最初の曲「プー・プー・オ・ニイハウ」は僅か1コーラスと少しでイズの語りに突入してしまいます。この曲はニイハウから来た恋人を貝(プープー)に喩えて「一緒に暮らしたい!」と呼びかけている唄です。ハワイアン音楽では花や山を唄った曲が多いのですが、貝の唄も比較的多く見受けます。有名な「真珠貝の唄」の原曲「プープー・アオ・エヴァ(真珠湾の貝)」とか子守り歌「プープー・ヒヌヒヌ(光り輝く貝)」などがそれです。
7.カ・プア・ウイ(C)
イズの語り「なにしろこのデカイ身体なので心臓を鼓動させるのに酸素ボンベが必要なんだ。ボンベをお供に演奏旅行をすると、ファンが心配して手紙を沢山くれる。もうあれが最後の旅じゃないのか、お前のタイヤはペシャンコになってしまったんじゃないのか、と。でもみんなが考える程ヒドくはないんだよ、大丈夫!」・・・・・でもやはり逝ってしまったのです。この曲「カ・プア・ウイ」はイズの好んで唄う曲のひとつで、可愛い(ウイ)花(プア)に喩えて恋人をたたえた唄です。
8.ホワイト・サンディー・ビーチ(F)
ふたたびイズの語り「両親や兄姉を亡くしたときには彼等をとても愛していたので死ぬことが怖かったが、自分自身が死ぬことは怖れていない。その時が来ても私のために泣かないで欲しい。」そしてウィリー・ダンの作品「ホワイト・サンディー・ビーチ」は、毎晩のようにあなたの夢をみているちょっと寂しい人物の唄です。「夢の中で二人は手をつないで白い砂浜を歩き、楽しく遊んでいる。夏の日に砂浜に横たわっていると、海の響きは心を癒してくれ、時間の経つのも忘れる。ゆうべも同じ夢を見た!」という内容です。
9.ホークーレア・スター・オブ・グラッドネス(G)
さあいよいよハワイ島の小さな漁村ミロリイでのライブに出発です。アロハ航空の全面的協力により、特別車?による搭乗、そして特別席?に座るイズ。ミロリイの町には素朴で親切な人がたくさん待っていました。ライブはなんと海岸の一角で行われ、子供たちも周りで遊び回っています。ところでホークーレアというのは、その昔タヒチを船出して、ながい航路を星だけを便りにしてハワイまでたどり着いた人達がおり、神話や伝説に残されていましたが、その航海の経路を古代の航法に則って辿って行こうと計画されたプロジェクトで用いられた船の名前なのです。この唄はその航海のことを唄っています。
10.マウイ・メドレー(A)
このビデオの特徴のひとつとして、それぞれのミュージシャンの手元のアップ場面が多いことがあげられます。この軽快な曲では、ギターのソロの際に手元がしっかりとアップで写っていました。他の曲の中でもギターのソロのアップ場面がたくさん見受けられ、ギターを勉強されている方には大変良いお手本になると思います。普段CDで聴いていてもギターのメロディーを採ることは可能ですが、手元のアップがあると、使用しているポジションから指使いまでわかりますので、勉強になります。
11.ウア・マウ(G)
ふたたびイズの好きな曲「ウア・マウ」です。前項でギター・ソロに触れましたが、もちろんイズのウクレレのアップが随所に出てくる事が、このビデオの最大のメリットと言っても過言ではないでしょう。イズの唄だけでしたらCDでたくさん聴くことができますが、イズが「ローG調弦」のスタンダード・サイズのウクレレを弾いているのを初めて間近にみた方も多いのではないでしょうか。彼のアルペジオ(和音を分散して弾く弾き方)や独特のストラム(和音をまとめてジャカジャカと弾く弾き方)は現代のハワイアン音楽の主流ですので、ウクレレ愛好者には大変有り難いビデオと言えます。
12.マルガリータ(G)
一転して陽気な曲「マルガリータ」に変わります。これはタヒチへの旅人が出会った娘マルガリータに呼びかける唄。曲中で何度も出る「ヨーラナ」と聞こえる歌詞はIa orana(タヒチではハワイのLの代りにRが使われます)でハワイ語のアロハに相当する挨拶の言葉です。モオレア島でビールを注いでくれた裸足の娘マルガリータの笑顔が私を虜にした。一輪の花を髪に差し、真紅のドレス以外なに一つ身に纏っていないマルガリータよ、あなたのキスは(カクテルの)マルガリータの味がする、どうかいっしょに踊ってくれ、そして私の滑らかなサカナ(意味不明)に触れて欲しい、と唄っています。
13.ハワイ・アロハ(G/A)
いよいよミロリイでのライブも終わりに近づきました。オリジナルのプログラムはこの曲が最後の予定だったようで、スタッフのクレジットがスーパー・インポーズされますが、やはりこの曲は最後に置くべきで、「ボーナス・カット?」を後に付けるという手抜き編集は雰囲気を壊します。それはともかく「ハワイ・アロハ」はハワイの讃美歌とも言える曲で、ロレンツォ・ライアンズ師が作りました。「我々の生まれ育ったこのハワイの地に愛と栄えあれ」という歌詞を持ち、いろいろな集まり、特に音楽会のフィナーレに参加者全員が手をつないで唄う曲なのです。
14.ハワイ‘78(D)
‘78とは1978年でもあり、その100年前の1878年も意味します。前述のよう米本土から住み着いた実業家達の陰謀によってハワイ王朝が転覆されて百年が経過したのですが、神聖な土地の上にあろうことか高速道路が走るような現在のこのハワイの荒れようを当時の王や女王が見たら何といって嘆くだろうか、王も女王も神に対し、そして人々に対し涙を流すことだろう。我々ハワイ人が大きな危険にさらされようとしているのを彼等は押し留めようとするだろう、と唄い、最後の部分でハワイを統一した王(もちろんカメハメハ一世)が現代のハワイを見たらやはり嘆き、泣き、そして危機に瀕している我々を助けようとするだろう、と締めくくっています。

マット・コバヤシ 


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