CDジャケット写真
「ウクレレスタイル VOL.2」
HIDDEN Treasures

レイ・レコードLEIR−0047

パアニ・レコード原盤のオムニバス第2弾
このCD「ウクレレスタイルVOL2」はレイ・レコードから発売中の「ウクレレ・スタイルVOL1」(LEIR-0027)に続くパアニ・レコード原盤によるオムニバスのウクレレCDシリーズ第2弾です。


 パアニ・レコードというのは、ミュージシャンのフレディー・フォン・パレスが設立した中堅レコード会社で、やはりレイ・レコードからリリースされているハーブ・オオタJr.の「デビュー」(LEIR-0034)や、ナ・ホク賞(ハワイのレコード大賞)のハク・メレ賞(ハワイ語歌詞賞)を受賞したモエ・ケアレの「イマジン」等、ユニークなミュージシャンをサポートしたCDをリリースしています。
 ハワイ生まれのフレディーは小さいときから音楽が好きで、ワン・スモール・ステップ、トランジトロン、トライアド等有名なヴォーカル・グループに所属し、作曲に、演奏にと活躍していました。そしてハワイのレコード会社で音楽プロデューサーの仕事をして有名になり、ハリウッドのワーナー・ブラザースで4年働いてからハワイに戻り、1996年に彼の会社パアニ・レコードを設立しました。このとき彼は長年の友人で上記ヴォーカル・グループでも一緒であったアラン・ホクフェルソン、スティーヴン・ホクフェルソンの二人にも仲間に入って貰いました。スティーヴンの方は現在は引退して西海岸に住んでいますが、このCDを作った頃は積極的に参加していました。

 余談ですが、筆者がハワイへ行った際、フレディーに会えないかと思い、電話帳でさがしたのですが、掲載されていません。止むを得ず、CDジャケットの住所を尋ねて行きました。ところがアウアヒ通り1142番地のスイート3205がどうしても見つからないのです。すぐ近くの楽器屋さんに飛び込んで「パアニ・レコードって何処か知っているか?」と聞いても、皆「知らないヨ」との返事。その付近を何度もぐるぐる周って、遂に発見したのは私設私書箱店。まさしくそこが1142番地で、スイートならぬ私書箱3205がパアニ・レコードでした。


実力派のミュージシャン達

 パアニ・レコードはあまり陽の当たらないハワイのミュージシャンを一般に知らせたいという意志を持っており、今回のCDにも無名ではあるが実力のあるミュージシャンを収録し、原題の「ヒドン・トレジャーズ」というのは彼等を指しているのです。
 まずアンジェラです。彼女はハーブ・オオタの生徒として幼少のころから勉強していました。実際に会ったことがないのでオータサンに「アンジェラってどんな人?」と尋ねたら「まるで男の子みたいな少女だよ」との返事でした。ここで弾いている2曲はオータサン譲りのテクニックがうかがわれます。
 ゴードン・マークはジャケットの解説では今回の演奏がソロ演奏のデビューであると書いてありますが、かなり前にサウンズ・オブ・ハワイ原盤でGoldenUkuleleというLP(SWG-7142)を出していますので、この説明は間違いです。アル・キャノピンはジャケットにはエディー・ブッシュやオータサンと組んでいたとありますが、その2名のほかにロイ・サクマのサポートもしたことがある器用な人物です。
 ディノ・ガスマンはターマイツというグループのオリジナル・メンバーの一人で、今回の録音が初めてのソロ演奏だそうです。
 チョーキー・ペレスは有名なハワイアン・グループであるヌウアヌ・ブラザースのメンバーでしたが現在はグアム島に住んでいるとのこと。
 イムア・ガーツァは、とあるショッピング・モールで演奏しまくっているところをパアニ・レコードのスタッフに見出されたもので、そのときまだ11歳という若さでした。
 そして最後は歌手として、DJとして有名なサム・カプJr.です。彼は「チョット・マッテ・クダサイ」などというコミック・ソングでも有名ですが、大変楽しい人物です。「この曲しか知らないヨ」といいながら弾くクレイジーGは、しっかりと我々ウクレレ・ファンの愛好曲となりました。


曲目解説
1.ティコ・ティコ (Am/C) ハイG調弦
 ジャケットにはTiko Tikoとありますが、Tico Ticoが正解です。ツェキーナ・アブリュー1941年の作品。
 師匠のハーブ・オオタが1962年に録音した演奏が「レジェンダリー・ウクレレ」に入っていますので、比較して聴くのも楽しいでしょう。
2.ヒイラヴェ (G,C,E,D等) ローG調弦
 スラック・キー・ギターの神様ギャビイ・パヒヌイの演奏で大変有名になったハワイ島ワイピオ谷のヒイラヴェ滝での伝説を歌った曲。
 この単純なハワイ民謡をスラック・キーのイメージをふんだんに盛り込み、しかも次々とキー(調)を変えながらの演奏です。
3.ラバー (E) ハイG調弦
 これまた上記「レジェンダリー・ウクレレ」に収録されていますが、ミュージカル作曲家として有名なリチャード・ロジャース1932年の作品。
 ウクレレのソロ曲として誰もが挑戦する名曲のひとつでしょう。
4.ブラジル (G) ハイG調弦
 ブラジルの作曲家アリー・バロッソ1939年作のサンバの名曲。ディズニー映画「ラテン・アメリカの旅」やリパブリック映画「ブラジル」の主題歌としても使われました。アンジェラはここでもオータサン・スタイルでバックにベースとパーカッションを従えながらバリバリと小気味良く演奏しています。
5.ウエーヴ (D) ローG調弦
 この曲はアントニオ・カルロス・ジョビン1967 年作のボサ・ノヴァの名曲。
ジャケットのThe WaveではなくWaveが正式タイトル。この曲はウクレレとしては難しいコードがたくさん含まれているので、テクニックの見せ場とも言えましょう。
6.クウイポ (C) ローG調弦
 この曲の正式タイトルはクウ・イポ・イ・カ・ヘエ・プエ・オネという極めて長いもので、よくクウイポと省略しますが、別にクウイポという曲も存在するので厳密にはフル・タイトルを言うというミュージシャン泣かせの曲です。内容は砂丘を越えて恋人がやってくるというもので、ゴードンは深みのある演奏でしっとりと聴かせてくれます。
7.ブルゼット (A) ハイG調弦
 残念ながらこの曲の詳細は不明です。アルが彼のテクニックをふんだんに使っての演奏は我々ウクレレ・ファンの参考になると思います。
8.バックヤード・ジャム (B) スラック・キー調弦
 チョーキーは自宅の裏庭で繰り広げられるハワイアン・パーティーをイメージした自作曲をウクレレをB調弦にしてスラック・キー・スタイルで演奏しています。普通のウクレレをスラック・キーにするとオープンG(1弦からG−D−B−G)またはオープンC(1弦からG−E−C−G)になりますが、この曲はB調なので、オープンGの調弦で4フレットにカポタストをはめたか、全体をオープンBとなるように再調弦したと思われます。
9.オン・ファイア (Am/C) ハイG調弦
 もちろんカアウ・クレイター・ボーイズの、それもトロイ・フェルナンデスのウクレレで一世を風靡した名曲です。11歳のイムア少年がバック・ミュージシャンとともに弾いているところは、ハワイのウクレレ演奏家の層の厚さを感じさせます。
10.クレイジーG (G) ハイG調弦
 「やあ子供たち、サムおじさんだよ! 君たちはクレイジーGを教わったかい? この曲はおじさんの知っている唯一のウクレレ曲だから一緒に弾こうネ」という言葉に続いての演奏は大変楽しいものです。
 ハワイの幼稚園でまず教わる曲とのことですが、弾いてみると意外と難しいので、ハワイのレベルは高いんだ、と今更ながら認識しました。

日本ウクレレ協会 小林正巳(JASRAC会員)
Jam Selections