MASAMI'S Ukulele Jam Selections

 ベスト・オブ・ウクレレ/オータサン
ビクター・エンタテインメントVICG-41150(2005年3月9日発売 税込2,000円)

ベスト・オブ・ウクレレ/オータサンウクレレの多彩な魅力が楽しめるアルバム

 皆さんが「ウクレレ」と聞いてまず思い浮かべるのはテレビにウクレレを持って登場する何人かのミュージシャンや芸人さんたちでしょうか、それとも「小さなギター」とか「オモチャのような楽器」というイメージでしょうか。オモチャのようなイメージがあることはたしかなのですが、最近ではこの小さな楽器の「ウクレレ」はハワイアン音楽はもちろんのこと、ジャズやクラシックまでも演奏できる万能の楽器として認められるようになりました。そしてその功労者のひとりがこのアルバムでウクレレを弾いているオータサン(ハーブ・オータ)なのです。

 もともと1879年にハワイへ移住してきたポルトガル人が、彼らの民族楽器「ブラギーニャ」をハワイの風土に合うように改良して作り上げた楽器が「ウクレレ」である、と文献では紹介されています。そしてこの可愛らしい楽器は当時のハワイ国王カラーカウアをはじめ、たくさんの人たちに愛され、進化を続けながら今日にいたっているのです。

 当初、この楽器はカラーカウア王が復興したフラ(フラダンス)の伴奏用として重用されていたのですが、次第に使われる分野が広がり、1930年代には米本土で芸人たちがこの楽器を弾きながら唄う「ボードビル」が盛んになり、大抵の家庭にこの楽器があるような時代となりました。当時のウクレレは主として歌の伴奏に使うため、何種類かのコード(和音)が弾ければよかったのですが、ギター製作者たちがウクレレ製作にも手を染める頃になると、メロディー弾きに耐えるだけの音程の正確なウクレレが容易に入手できるようになったのです。

 この時期に「ウクレレ・ソロ」奏者として有名であったのがエディー・カマエでした。彼はこの小さな楽器を駆使してあらゆる分野の音楽を演奏したため、一般の人たちが持っていたウクレレへの認識、すなわち「オモチャのような楽器」という認識を完全に覆したのです。そして、このアルバムの奏者オータサンはエディー・カマエの弟子でありながら師匠に「彼には何も教えることがない!」と感嘆させた実力者なのです。そして現在のオータサンは自他ともに認めるウクレレ・ソロの第一人者であり、最近人気上昇中のジェイク・シマブクロの話では、彼も一時期オータサンに師事したことがあるとのことでした。

 オータサンは1960年代から現在まで100枚にものぼるウクレレ・ソロ・アルバムをリリースしてきました。そしてそのレパートリーは6000曲以上と言われています。今回のアルバムはそのたくさんのレパートリーの中から、ウクレレという楽器の素晴らしさを皆様に知って頂けるような曲を選曲いたしましたので、お楽しみ頂けましたら幸いです。

曲目解説

  1. ワイキキ
    最初の曲は1938年に作られたスロー・テンポの曲で、当時ハワイで最高の人気を誇るグループのリーダーであったカミングスが、米本土を巡業中にミシガン州の寒い田舎町で暖かい故郷ハワイのワイキキ海岸を想って作った名曲です。オータサンは彼独特の親指の爪を使ったトレモロ奏法を用いて持続するメロディーを演奏しています。

  2. カウラナ・ナー・プア
    19世紀末にハワイ王朝がアメリカに併合される動きがあった際、それに反対する人たちによって歌われた抵抗の唄です。ここではオータサンの息子であるハーブ・オータ・ジュニアがオータサンとウクレレの共演をしています。イントロ部分でソロを弾いているのがジュニアでそれ以降のメロディー部は主としてオータサンの演奏です。

  3. ナ・レイ・オ・ハワイ
    オータサンはトレモロ奏法だけでもたくさんの異なる弾き方をしています。この曲では右手の五本指を使ったトレモロに始まり、親指の爪によるトレモロに移り、続いて親指と人差し指の二本によるトレモロへ、さらにこれらの組み合わせにと多彩な演奏を聴かせてくれます。曲は「ハワイのフォスター」と呼ばれたキングの作品です。

  4. プアマナ
    アルリが作ったオリジナル曲は8小節でできている典型的なフラ・ソングでしたが、これにホフマン、マニングの二人が中間部分を加えSea Breezeというタイトルに変更しました。ここではその変更バージョンで演奏されています。ここにも2.と同様ハーブ・オータ・ジュニアが参加していますが、ソロは取らず伴奏に徹しています。

  5. マウナ・ロア
    マウナ・ロアはハワイ島にある山の名前ですが、曲自体は裏の意味ももつセクシーな曲です。ちょっと聴くと二台のウクレレによる演奏とも思えますが、実際には山内雄喜のスラック・キー・ギターとオータサンのウクレレによる演奏です。スラック・キー・ギターはハワイで生まれたギターの特殊奏法で、ハワイでは人気があります。

  6. 古きハワイの唄〜カマアイナ・ケイキ
    ノーブル、ビーチャー作の名曲とオータサンの作品のメドレーです。スティール・ギター奏者のグレッグ・サーディナがメロディーの主要部分を担当しています。スラック・キー・ギターが従来からある6弦ギターの調弦だけを変えたハワイ生まれの特殊奏法であるのに対して、スティール・ギターは純粋にハワイで生まれた楽器です。

  7. エ・マリウ・マイ
    グレッグのスティール・ギターの演奏で始まり、途中からオータサンとグレッグの演奏が絡みます。前半部分ではグレッグ自身が二重録音した演奏によるスティールの掛け合いですが、後半はオータサンとグレッグによる掛け合いとなります。オータサンはスティール・ギターの持続音に対抗すべくトレモロ奏法を使い演奏しています。

  8. シューフライ・パイ・アンド・アップル・パン・ダウディー
    オータサンの長年の盟友であるライル・リッツは、もともと一流のスタジオ・ミュージシャン(ベース奏者)として活躍していたのですが、ウクレレが大好きでよくオータサンとウクレレのデュオ演奏を行っています。この曲はそういうデュオ曲の一つで、オータサンとライルの二人が楽しそうに弾いている様子が目に見えるようです。

  9. サンバドゥーロ
    この曲もオータサンとライルのデュオで、オータサンによる無伴奏のソロに続いてライルの伴奏、さらにはオータサンが伴奏に回りライルがソロを取るという賑やかな曲となっています。実は同じウクレレでありながらライルの調弦はオータサンの調弦よりも四度低い調弦となっているため、ライルの演奏はソフトな音色で聞こえます。

  10. ハワイ・コールズ
    「スィート・レイラニ」でアカデミー音楽賞を受賞したオーウェンスの古典的名曲で、彼が一時期音楽監督を務めたことのある有名な放送番組「ハワイ・コールズ」のテーマ曲としても使われたことがあります。ここではライルがベースにまわり、ギター奏者のダニー・オットーがオータサンのウクレレと交互にソロ演奏をしています。

  11. ワイレア
    オータサンの日本ツアーで何回も来日しているトリオ(ウクレレ:オータサン、ピアノ:ボブ・アルバニーズ、ベース:ブルース・ハマダ)による演奏でオータサンのオリジナル曲を演奏しています。特にボブによる華麗なピアノとオータサンのトレモロ奏法がこの曲を引き立てています。ワイレアはマウイ島の南岸にある保養地です。

  12. ハワイ
    同じトリオによる演奏で、これまたオータサンのオリジナル曲を聴かせてくれます。この曲はポップ作の「ソング・フォー・アンナ」と並んでオータサンの代名詞とも言える曲です。日活の映画俳優であった故・石原裕次郎もこの曲を大変気に入り彼の次の映画の主題歌に、と言っていたのですが、彼の死によって実現しませんでした。

  13. レインフォーレスト・ワルツ
    オータサンがレコーディングでよく使用するスタジオのひとつがホノルルの裏山であるヌウアヌの雨林の中にあるのですが、たまたまそのスタジオで日本のテレビ映画のバック曲としてのオータサン作品の選曲が行われ、選ばれた曲に曲名がなかったため、場所に因んだ「レインフォーレスト・ワルツ」と名づけられたのがこの曲です。

  14. エキゾティック・ムーンライト
    オータサンはオリジナル曲のアルバムを2枚リリースしています。その一枚目は上記13.の収録されている「レインフォーレスト(VICP-62350)」そして二枚目は「クール・タッチ(VICP-62765)」ですが、エキゾティック・ムーンライトはこの二枚目に収録されています。ここではジム・ハワードがフルートと電子ピアノで活躍します。

  15. クウ・ホメ
    ハワイ語の曲名はクウ(私の)ホメ(家)すなわち「私の家」ですが「Old Plantation」という英語のタイトルも付けられています。ここでの演奏はアルバムの最後にふさわしくオータサンの無伴奏でのソロに始まり、ベース、ギター、ヴァイブによる伴奏をバックに、オータサンが各種トレモロ奏法を使って美しく歌い上げています。

マット・コバヤシ 


Jam Selections