CDジャケット写真

ジョージ・ヘルム「トゥルー・ハワイアン」

マカニ・レコード MAKR-001

解 説

(HANA OLA HOCD3000 The Music of George Helm/A True Hawaiian) 幻の名盤が復刻されました このCDは1977年に行方不明となった男性歌手ジョージ・ヘルムの記録として、彼が出演していたホノルルのレストラン「ゴールド・コイン」の経営者が、レストランでの演奏の録音テープから2枚のLPにまとめたアルバムの復刻版です。

自費出版でありながらこのアルバムの評価は高く、翌年の第一回ナー・ホークー・ハノハノ・アウォード(ハワイのレコード大賞)の男性ボーカリスト賞にノミネートされただけでなく、今でも多くのハワイアン歌手のバイブルとして扱われているほどです。

ハワイアン音楽専門の放送局KCCNで古い名盤を発掘する番組「テリトリアル・エアウェーブス」を担当しているハリー・ソリア・ジュニアがジョージの2枚のLPに注目し、CD1枚の収録容量限度いっぱいまで曲を詰め込んで作成したのがこの復刻CDです。

カハウアヌ・レイクとの出会い モロカイ島カラマウラに生まれ、スポーツの奨学金を貰って地元の高校からオアフ島ホノルルのセント・ルイス高校に転校したジョージに、高校合唱団の指導者ジョン・レイクが自分の従兄弟で有名なミュージシャンのカハウアヌ・レイクを紹介してくれました。カハウアヌは彼を可愛がり、彼に音楽理論はもとより、ハワイ語の歌詞に隠された意味やハワイアン音楽の大切さなどを教えました。

高校卒業後はハワイアン航空のPR演奏家として米国各地を巡回しましたが、自分にはハワイアン音楽をもっと推進する仕事が適していると考え、ホノルルに戻って自分のスタイルの演奏を開始しました。 自然保護運動家ジョージが行方不明に ハワイの八つの島で最も小さいカホオラヴェ島は、第2次世界大戦中から米軍の爆撃演習地であったため一般人は立入禁止でした。

ジョージはこの島の自然や遺跡の保護と米軍の演習中止を呼びかける組織「カホオラヴェを守る会」の主要メンバーとしても活躍し、新聞に意見を発表したり、カホオラヴェ島に不法上陸をしたりしていました。

1977年3月はじめ、先行上陸していた二人のメンバーを連れ戻す為に仲間二人と島にたどり着いたジョージは先の二人(実は米軍に拉致されていました)を見つけられないままマウイ島に戻る途中、一人の仲間とともに波に飲まれ、帰らぬ人となってしまいました。

7年後の1984年に二人を追悼した本「ホイホイ(戻る)・ホウ(もう一度)」すなわち「もう一度戻っておいで!」が出版されましたので、詳しく知りたい方は是非この本をご覧ください。

ライブ演奏ならではの自然な録音 レストラン「ゴールド・コイン」の経営者リチャード・ウォンはジョージの演奏を単なる記録のつもりでテープ・レコーダーの最低速でしかもモノーラルで録音していたので、追悼LPを制作する際にもいろいろな苦労をしました。

たとえばベースの入っていない曲は普段ジョージと組んでいたベーシストのスティーブ・マイイ(後年今をときめく女性歌手テレサ・ブライトとデュオ「スティーブ・アンド・テレサ」を組んだ人物)にあとから重ね録音をして貰うとか、雑音を除くために演奏の最後部の音を急激に絞る等がそれです。これらの努力の結果ジョージの演奏は大変自然に聞こえ、その語りからは彼の性格さえも想像できるようです。

また彼独特のギターの弾き方「モロカイ・ストローク」や甘いファルセットも素晴らしいものです。スタジオ録音ではないので、ギターのミス・タッチや音の揺れも何箇所か聴かれますが、それを上回る歌の心が十分私たちに伝わってきます。

【 曲目解説 】                

このCDに2枚のオリジナルLPに収録されていた28曲全部をとりあげると、CDの容量限界の74分を越える為、編集者は比較的ポピュラーなカウラナ・オ・ヒロ・ハナカヒ、カ・ウア・ロク、エ・クウ・モーニング・デューそしてハナレイ・ムーンの4曲を割愛した24曲 (その合計時間は72分強)を選定しました。

(1)  カラマウラ: 彼の出身地モロカイ島カラマウラの美しさを歌ったフラ・ソング。ハンナ・ドゥードワの作と書かれた資料もあります。 

(2)  マノワイオプナ:尊敬するアルビン・アイザックス(スチールの名手、故バーニー・アイザックスの父親)の作品。日本ではコウラとも呼ばれています。

(3)  ワイキキ: アンディ・カミングスの3大名曲のひとつ。1938年演奏旅行先のイリノイでワイキキに対する強烈な思いを込めて作られました。

(4)  ホオナネア: メドレー風に次の曲になりました。この曲はレナ・マシャードが1935年に作った曲。ホオナネアは「くつろぎ、安らぎ」の事です。

(5) モロカイ・ワルツ: 恩師カハウアヌ・レイク好みのモロカイ島東端ハラヴァへの愛を歌った曲。カハウアヌのアルバムではマシュー・カネ作と表記。

(6) マイレ・スウィング: 盲目の音楽家ジョニイ・アルメイダ作で、マイレの葉で作ったレイの香りに包まれながら愛を獲得した喜びを歌った軽快な曲。

(7) クウ・プア・イ・パオアカラニ: イオラニ宮殿に幽閉中の女王リリウオカラニへ届けられた彼女の庭園ウルハイマラマの花の香りに、ハワイ王朝の不滅を願う歌。

(8) カマラニ・オ・ケアウカハ: 録音ではアルバート・ハレア作と説明していますが、ハワイ島ヒロ地区ケアウカハの領主の息子(カマラニ)にレナが贈った曲。

(9) プア・ママネ: この曲も歌手で作曲家のレナ・マシャードの作品。プアは花のことママネは高地に生える花も実も黄色の豆科の植物の名前。

(10) ナ・モク・エハー: 日本では「お玉杓子は蛙の子」として知られていますが、本当は太平洋(パキピカ)に浮かぶ四つの(エハー)島(モク)を、各島の花と山の名を入れたJ.ケアロハの作品。

(11) ロイヤル・ハワイアン・ホテル: CMソングのはしりと言える曲。「貴方はホテルの素晴らしさに酔うでしょう。ベッドは心地よく、砂浜からは海の音楽が届きます」

(12) クウ・レイアロハ: 別れた恋人レイアロハに「もう一度昔のように過ごしておくれ!貴女のいない毎日は淋しくてやりきれないから」と呼びかける曲。

(13) キモ・ヘンダースン・フラ: ヘレン・デシェィ・ビーマーが、モアニケアラに住む友人のジェームス(ハワイ語でキモ)・ヘンダースンに捧げた名前歌。

(14) ハワイアン・カウボーイ: オリジナル・アルバムではこの曲が一枚目の最後なので、彼のライブ時のクロージング風景そのままが収録されています。

(15) カレナ・カイ: キングが採譜し版権登録をした民謡。オアフ島北岸モクレイア近くの古い交易所カレナを歌ったフラ・ソング。カイは「海」です。

(16) カウオハ・マイ : 鍵穴から自分の家の中を覗くと、そこでは二人が取っ組み合い??。否定的な(マイ)約束(カウオハ)即ち「内緒にしてネ!」 

(17) ハオレ・フラ: 作者はハワイ生まれの作曲家ですが、歌詞はこの曲のように英語中心で作っています。ハオレは白人(すなわち米国人)の意味。

(18) アリカ : アリカは北極のことで、北極を目指した船を歌ったとも北極号という船の歌ともとれます。この船は歌詞が進むに従い何とアジアのマカオやヒマラヤまでも目指して進みます。

(19) モク・キア・カヒ: 一本(カヒ)マスト(キア)の船(モク)という歌。短調部でチャントの感じを出し、長調部分でモダンな雰囲気を出しています。

(20)  ヒイラヴェ: ハワイ島プナから来た少女の同島ワイピオ谷ヒイラヴェ滝での情事を、おしゃべり鳥が谷中に告げてまわるという歌詞です。

(21) パパーリナ・ラヒラヒ: 自分に身も心も預けたおいしそうな(ラヒラヒ)ほっぺ(パパーリナ)を持った少女が自分にジャレついて来るさまを歌った曲。

(22) キラキラ・オ・ハレアカラー: ハレアカラー(マウイ島最高の山)の荘厳さ(キラキラ)を歌った曲で、途中のテンポの遅いスタンザ部は別の曲カウ・アナ(馬の歩調を整える意味)から借用されました。

(23) アウヘア・オエ: 警官でハワイアン歌手というスターリング・モスマンが得意としていた、貴方(オエ)は何処にいるの?(アウヘア)という歌。

(24) ヘ・アロハ・ノ・オ・ホノルル:オアフ島のホノルル港をあとにハワイ島コハラ地区のカワイハエまでの船旅を歌った、このアルバムの締めくくりにふさわしい曲。          

マット・コバヤシ 


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