エイミー
【 解 説 】
■ ナ・ホクで実力が認められたアルバム
1997年5月17日、エイミー・ギリオムは彼女のセカンド・アルバムのプロデューサーであり、バック・ミュージシャンとして、さらには作曲家としてサポートしてくれたウィリー・カハイアリイと二人で栄えあるナー・ホークー・ハノハノ・アウォード(ハワイのレコード大賞)のセレモニーの壇上に立っていました。この日、彼女のアルバムが「ベスト・アルバム賞」「女性歌手賞」「ハワイアン・アルバム賞」という三つの大賞を獲得し、彼女は名実ともに一流歌手の仲間入りを果たしましたが、彼女にはこれに先立つこと1年にわたる忍耐の日々があったのです。
1年前にリリースされた彼女のデビュー・アルバム「ネイティブ・チャイルド」は今回のアルバムと同様に、ハワイ音楽の伝統を重視する姿勢を持って新しい曲をつくり、演奏したのですが、ナ・ホクでは受賞はおろか新人賞を含むいかなる部門のノミネートさえもされなかったのです。一般にはナー・ホークーがハワイ音楽界の好みを反映していると認識されているので、この徹底した無視の姿勢には彼女にとってはデビュー・アルバムが認められなかったという印象になり、かなり落胆したのではないでしょうか。デビュー・アルバムの欠点を敢えて探せば、「あまりにもハワイ的に作りすぎた」点にあるかも知れません。なにしろハワイの伝統に則ってアルバムはチャント(詠唱)からはじまる構成になっていますが、大変美しいジャケットに魅せられて購入したCDから女性の歌が聴こえると思っていると、太いしわがれ声の男性のチャントが飛びだしてくるので、ビックリする人が少なくなかったと思われます。さらには曲自体はハワイ音楽の伝統に従ってつくられていても、彼女の歌がオーケストラをバックに歌われるため、コンテンポラリー(現代音楽)とトラディショナル(伝統音楽)のいずれであるかが大衆には判別できなかったのではないでしょうか。
■ ウィリーKの強力なサポート
失意の?エイミーのもとに、彼女の実力を知っているハワイ音楽界の有名人から、彼のステージで歌って欲しいとの依頼が舞い込みました。彼の名前はウィリー・カハイアリイ、一般にはステージ・ネームのアンクル・ウィリーKで知られているナー・ホークーを何度も受賞している大スターです。彼はコンテンポラリー音楽の歌手であると思われていますが、ギターだけでなく伝統の演奏法であるスラック・キー・ギターやウクレレの演奏でも超一流のミュージシャンなのです。その彼がエイミーの伝統音楽の実力を認め、それ以後の彼のステージには必ずエイミーを出演させるようになりました。そしてエイミーの歌の時はあくまでもバックにまわることで、彼女の歌を引き立てるようにしていました。この作戦?が奏功し、ウイリーKの名前に集まった聴衆が新人のエイミーの歌に感激して帰るようになったのです。 私もその一人であったと言わせていただきます。或るところで思いもかけず彼女の歌を聴き、その迫力ある歌い方や、ハワイアン音楽としての雰囲気に引き込まれ、以後会う人ごとに「エイミーという凄い歌手がいる!」と言って歩いていたので、今回の大賞の受賞は我が事のように嬉しい気分で一杯です。
■ エイミーは祖母の影響を受けました
彼女はどこのステージでも必ず今回のアルバムのトップを飾っている曲で彼女の祖母ジェニー・ウッドの作品「ハレイヴァ・フラ」を歌ってきました。ジェニーは1930年代にに活躍したフラ・ダンサー兼クム・フラ(指導者)であったハワイ音楽界の大先輩なのです。当時米本土では憧れの夢の島ハワイを描いた映画がハリウッドで次々と制作され、ハワイから遠く離れた東海岸でもハワイをイメージした音楽が沢山作曲されていました。ジェニーも米本土に渡ってハリウッドのスター達にフラを教え、ハリー・オウエンスやレイ・キニーのショウではフラを踊ったりコメディアンとして活躍をしたりもしました。カリフッルニアの音楽学校でクラシックの勉強をして戻ってきたエイミーに対し、ジェニーから「ハワイ音楽も勉強してみないか?」という投げかけがあったことがエイミーをハワイ音楽に溺れさせるきっかけになったのです。それからのエイミーはハワイ語の勉強をし、ハワイ語の歌を作って歌う日々を過ごすことになりました。 エイミーはジェニーへの感謝の気持ちを込めて、このアルバムのトップに置いたジェニーの作品にジェニーの声も入れています。
(1)の最後の部分に入っている「会話」がエイミーとジェニーの声なのです。
■ 見事なハワイ音楽アルバムの誕生です
プロデーサーとしてのウィリーKは、エイミーのデビュー・アルバムの欠点を認識し、大衆に受け入れられるアルバムづくりを心がけました。まず、オーケストラは使わない事、そしていかに伝統とは言え、チャントは使わない、そしてたとえ新曲といえども徹底してハワイ語の歌詞を使うようにすること等々。これらのポイントを踏まえて完成したのがこのCD「ハワイアン・トラディション」なのです。
ジャケットの写真の鏡の前に祖母のジェニーが座っている白黒部分が過去を象徴しており、後ろに立っている人物と額のなかの女性がカラーになっていて現代をあらわすことで、タイトルの「ハワイアン・トラディション」を示しております。
【 曲目の紹介 】
このアルバムに収録された13曲中10曲がオリジナルなのですが、いずれの曲に対しても懐かしさを覚えるのはなぜでしょうか?おそらくそのように思わせることがウィリーKのねらいだったのでしょうが。
マット・コバヤシ