「メレ・フラ〜ハワイアン・メロディー」
【 解 説 】
■ ハワイ島発の珠玉アルバム
このアルバムのタイトル「メレ・フラ」は「フラを踊るための音楽」を意味します。・・・と紹介すると、フラに興味のない人達にとっては無関係の音楽だろうと誤解される心配がありますが、そうではないのです。私たちが親しんでいる「ハワイ音楽」はそのほとんどがフラの「振り」をもっており、踊りが付いても付かなくても音楽のもつ素晴らしさは少しも変わりません。
このアルバムはフラを意識したタイトルにもかかわらず、逆にフラを踊る皆様には手ごわい内容を持っています。例えば「フラ・オ・マキ」は1番から7番までの歌詞を唄っていますが、ふつうフラを勉強されている方は1、2、5、7番しか振りを教わっていないことが多いので、この曲を聴くと知らない歌詞が登場し、当惑してしまうのではないでしょうか。また、「ワヒネ・イリケア」の場合、ウクレレだけのバックで唄われるので、慣れ親しんでいた雰囲気と大きく異なるので戸惑うかもしれません。ほかにもこのようなパターンの曲が沢山収められていますので、そのような場合は踊りを諦めていただき、じっくりと「ハワイ音楽」としての素晴らしさを鑑賞してください。
このアルバムはハワイ島の新旧ミュージシャンがハワイ島のスタジオで録音したもので、商業主義に影響されたオアフ島と違った「素朴なハワイ島発」の音楽を実現した珠玉のアルバムと言えましょう。
■ ハワイで活躍する二人の日本女性の協同作品
1996年末にハワイでハワイ音楽評論家の鳥山親雄氏が発行人の「ミュージカル・イメージ・オブ・ハワイ」というユニークな本が出版されました。マヒ・ビーマーと従姉妹のゲイ・ビーマーのハワイ語の英訳、ジョセフ・マトスの解説による50曲のハワイ音楽の歌詞が紹介されているのですが、それにも増して注目されたのは、この本の編集者でもあるハワイ在住の写真家カズエ・クレバヤシさんの撮影になる一曲一曲のイメージをあらわす美しい写真が添えられていたことです。
カズエさんは20年近くホノルルに住み、カタログやカレンダー等の商業写真から結婚写真などの人物写真までと広範囲の活躍しているプロの写真家で、この本の着手から完成までの2年間は音楽のイメージを求めてハワイ諸島を飛び回ったとのことです。今回のアルバム「メレ・フラ」はこの本に掲載された50曲のなかから17曲を選んで収録したもので、本とCDが大変緊密につながっていると言えます。そしてこのCDは本に書かれた歌詞に忠実に唄われているので、鳥山氏の日本語訳の助けもあり、私たちにも歌詞の意味が容易に理解できます。
このCDはM&Hハワイというレーベルでリリースされました。このレーベルの責任者ミチコ・ウラタさんは日系二世の音楽家で日本人移民の労働歌である「ホレホレブシ」の採譜・保存に貢献したハリー・ウラタ氏の夫人であるとともに、ウクレレの神様ハーブ・オオタ(オータサン)のマネージャーとして長年活躍している方です。M&Hハワイからは レイ・レコードでもおなじみの「デジャ・ブー」や「チョット・マッテ・クダサイ」など6点のオータサンのウクレレCDをはじめ、たくさんのアルバムがリリースされています。今回のCDもオータサン以外のアルバムとして、ミチコさんがカズエさんとの二人三脚で取り組んだ意欲的な作品と言えます。
■ ハワイ島の演奏家たちの横顔
このCDはハワイ島のカムエラにあるチャールス・リケイドのスタジオで収録されました。チャールスはスタジオを持つかたわら、沢山のCDをプロデュースしています。最近MGCレーベルからリリースされた「イージー・・・・ビッグ・アイランド・スタイル」というオムニバス・アルバムも彼の代表作で、やはりハワイ島(ビッグ・アイランド)のミュージシャンにスポットを当てています。そして今回のアルバムではミチコさん、カズエさんの選んだハワイ島のミュージシャンに混じって自分自身もベースやギターで参加しています。
ミチコさんとカズエさんの眼がねにかなった14名のミュージシャンの横顔は、ジャケット見開きに写真とともに紹介されていますので詳細はそちらにゆずりますが、リム・ファミリーの「お母さん」メアリー・アン・リムやスラック・キーの大御所ジョン・ケアヴェのような超ベテランから、エディー・クーや日本ではスチール・ギターのアレン・アカカのお兄さんとしても知られているダニエル・アカカ・ジュニアのようなバリバリの現役、そしてギャビィ・パヒヌイの孫クニア・ガルデイラのような若手までと多岐にわたり、それぞれが独特のアレンジで唄っているところは、さながらハワイ音楽の歴史を一望しているようにも思えます。
【 曲目の紹介 】
マット・コバヤシ