CD写真

 

「カ・ピリナ」

テレサ・ブライト

フランク・ヒューイット

レイ・レコードLEIR-0035

GENERATION TK2220
Teresa Bright, Frank Kawaikapu Hewett/Ka Pilina


【 解  説  】

ハワイ人のルーツを辿ったアルバム

 このアルバムのタイトル「カ・ピリナ」はハワイ語で「つながり」を意味しており、作者の二人すなわちテレサ・(ナニアリイ)ブライトとフランク・(カヴァイカプオカラニ)ヒュウイットの共通の祖先の紹介にはじまり、火の女神ペレなどの伝説までさかのぼった壮大な構成のアルバムに仕上がりました。そしてアルバムに収録された全ての曲をフランクがハワイ語で作詞作曲しています。

ふたりは親戚の間柄

 まずジャケットの写真に注目して下さい。画面の左半分を占める横顔はもちろんテレサですが、その左上で笑っている顔は彼女の祖母リリア・ハルアラニの写真で、テレサの右上の小さな写真はリリアの母親ナカエア・アコナのものです。 一方、画面右下はフランクの写真ですが、彼の上にある横顔の写真は彼の祖母イヴァのもので、右上の写真はイヴァの母親テレサ・アコナで、ナカエアの夫ジョン・アコナとは兄妹の間柄とのことなのです。すなわちテレサ・ブライトとフランク・ヒュウィットとは遠い親戚筋にあたるわけです。

ハワイの歴史を語るにはチャントが最適

 このアルバムを普通のハワイアン音楽のつもりで聴かれた方は、最初の曲のナレーションが終わったところで「チャント」と呼ばれる音楽が登場するのに驚かれるかも知れません。チャントとは、一般的に歴史上の物語や身の回りの出来事など(つまり何でも)について書かれた歌詞を、カヒコすなわち古典フラを踊る為に、打楽器のみをバックにあまり音程変化のないメロディーで歌う事を言います。従ってアウアナすなわち現代フラを踊る場合には、全く同じ歌詞に西洋風(?)メロディーを付け、ウクレレやギターなどの楽器をバックに歌うこともできるのです。 ただ、このアルバムのように神話や歴史上の出来事を取り上げる場合は、チャントのほうが歌詞の内容に則しているように感じられます。さいわいにして、このアルバムにはすべての曲に解説と歌詞の英語訳が付いていますので、それも参考にしていただき、ぜひチャントというものに親しんで下さい。最初は単調に思えたメロディーが、何度も聴いていくとそれ自体で荘厳な雰囲気を醸しだしてくれることでしょう。

ペレもハワイ人の祖先もタヒチから渡来

 このアルバムでは火の女神ペレにまつわる物語が中心的テーマになっています。伝説によるとペレはタヒチの大家族の家に生まれ、小さい時から火を扱う能力が秀でていたので、叔父のロノマクアが彼女に火の秘密を伝授しました。一方長姉のナマカオカハイは水を司っていたため、この二人の間にいさかいが絶えず、ついにペレが負けて新天地を目指して船出をしました。鮫を司っていた兄のカモホアリイを船長に、たくさんの兄弟姉妹を乗せたカヌーが北に向かい、ハワイ諸島に辿り着いたとのことです。 実はこのタヒチからハワイへの移住というのは、単に神話や伝説というのではなく歴史的にも確認されている出来事なのです。まず6〜8世紀にマルケサス諸島から移住してきた最初の民族がハワイに根をおろし、続いてタヒチからたくさんの人達がやってきたのが12世紀以降という仮説が、日本人学者の篠遠博士達の研究で、各地に残る釣針の形状や放射性同位元素の分析により証明されてきました。文字を持たなかったハワイ人が口伝えで受け継いで来た「歴史」がそのまま神話の世界とオーバーラップするのもうなづけます。

タヒチ人はハワイ諸島の北側に到着

 深い海底にあり南東から北西方向に移動しているプレートが、地球中心部側の固定噴出点からのマグマの噴出が盛んな時期に海底火山となり、それが大きく成長した結果、島として海面に顔を出す形でハワイ諸島が次々に誕生しました。私たちに馴染み深いハワイの8島が南東から北西にほぼ一直線に並んでいるのはこの為なのですが、このハワイ諸島すなわち八つの島の距離を更に3倍以上伸ばした範囲にも、同じ現象により誕生したと思われる(従ってもっと古い)無数の小さな島々が点在しております。 これらの島々は「北西ハワイ諸島」と呼ばれ、大半はハワイ州に属していますが、面白いことにその東南部分の地域すなわち八つの島に近い側の島のみがハワイ語の島名を持っています。おそらくペレの伝説どおり、タヒチからの移住者は八つの島に近い小島のひとつで直径が5〜60メーターという小さな島モクパパパにまず立ち寄り、続いてそれより南東側で300倍も大きな(といっても面積が1平方キロ未満 の)ニホア島に、さらにニイハウ島の北端にあるレフア島(これも1平方キロ程度)そしてニイハウ島、 カウアイ島と移動していったと想像されます。 単に地図を眺めているかぎりでは、タヒチに最も近いハワイ島にまず到着すると考えるのが順当でしょうが、伝説も実際もこれとは逆だったのです。おそらく、目印となる星ホクレアがカウアイ島の上空で輝いていたとか、海流や風向きがハワイ諸島北端に向いていたからではないかと想像されます。

卵から孵ったヒイアカ

ペレが故郷のタヒチを発つときに母親のハウメアが彼女に大きなタマゴを渡し、航行中しっかりと身体に抱えているようにと指示し、ほどなく卵はペレの胸で孵り、少女ヒイアカとなりました。ペレは末妹のヒイアカを大変可愛がり、ペレが永住の地と定めたハワイ島キラウエア火山のハレマウマウで一緒に暮らしていました。

たくさんの伝説に彩られたアルバム

 ヒイアカはペレに命じられてカウアイ島のロヒアウを迎えに行くのですが、幾多の困難のために約束の40日間でハワイ島に戻れなかったため、嫉妬に狂ったペレがヒイアカの親友ホーポエを石に変えてしまう話「ホーポエ」がこのアルバムのクライマックスになっています。そしてそれ以外の伝説から作った歌もフランクのチャントで、そしてテレサの軽快な歌声で次々に歌われます。 カウアイ島ハーエナでペレがロヒアウ王に逢い、恋するようになった歌「ナニ・ワレ・クウ・イケ・・オ・ハーエナ」、ペレを追いかけてきた長姉ナマカオカハイがついにペレをマウイ島のカヒキ・ヌイ(偉大なタヒチ)で打ち負かした話「ピイ・ケ・カイ」など次々に歌われる歌は、どれもがストーリーを持っているので興味が尽きないだけでなく、次の世代へこれらの伝説を歌として残す努力をしているフランクの偉大さにつくづく頭が下がる思いです。なお解説では全く触れていませんが、チャントの最後に言う「ヘ・イノア・ノー〜」というのは「誰々(〜)の名前歌である」と言っているのです。

マット・コバヤシ 


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