日本特殊教育学会 第44回大会(群馬大学)発表論文


障害者用駐車スペースをめぐる新しい動き

  松村 みち子(タウンクリエイター)

   KEY WORDS : 障害者用駐車スペース、バリアフリー思想、利用基準

  はじめに

 日本において車を運転する車いす使用者(以下、車いすドライバー) は増加する一方
である。警察庁の運転免許統計によれば、身体障害者用車両限定の運転免許保有者数は、
2004年の時点で約 20万6千人である。バリアフリー思想の進展で、障害者用駐車スペー
スを設置する施設は増えつつある。また「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定
建築物の建築の促進に関する法律」(略称:ハートビル法 1994 年 制定)では、車いす
使用者用の駐車スペース(幅 350 cm 以上)を基礎的基準として1以上、誘導的基準とし
て総数の2%以上設けるよう規定しており、設置基準を満たす施設も増加している。一方
で駐車スペースが適正に利用できていない実態が明らかになっている(国際交通安全学会
 2001年 調査 ほか )。諸外国では障害者用駐車スペースに停める権利を持つ者には駐
車カードが交付されており、カードを呈示しない車が障害者用駐車スペースを不正に利用
すると、罰金や罰則(駐車権利の剥奪等)が科せられる(日本特殊教育学会第 40 回大会
発表)。筆者は障害者用駐車スペースの実態について、その後も国内外で調査を継続して
いる。車いすドライバーや自治体へのヒアリングも行った。本稿ではその一部を報告する。

新しい動き

(1)不正改造の発覚
 障害者用駐車スペースをめぐり、新しい形での不正の実態が明らかになった。法律や条
例で義務づけられている障害者用設備を設置した施設をいったんは建設し、行政の完了検
査後にそれらの設備を撤去したり改造する工事を行うというものである。
* ビジネスホテルチェーンT社では、設計段階で図面を2種類用意し、基準を満たした図
 面により確認申請しては改造するという方法を用いた。ホテル正面に設置した障害者用
 駐車スペースはロビーやゴミ置き場等に改造された。発覚したのは 2006年1月である
 が、国土交通省の調査では数年前から同様の偽装工事を繰り返していた。同省の指導に
 より、法令違反が見つかった 22都道府県の系列ホテル 63軒のうち、06年3月末まで
 に21軒が是正工事を完了させた。

(2)行政の動き
(1) 警察庁は2003年「違法駐車問題検討懇談会」を発足させ、駐車違反取り締まりの一
 部民間委託について検討した。筆者は委員の一人として検討に加わった。障害者用駐車
 スペースの不正利用に対しての罰金・罰則の導入については盛り込まれなかった。
(2) 「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」
 (略称:交通バリアフリー法 2000 年5月公布、同年 11 月 施行)と、ハートビル法
 を一体化させる動きがある。国土交通省は総合的なバリアフリー法の制定に向けて、ユ
 ニバーサルデザインの考え方で検討を行った( 06 年4月末現在 国会審議中)。

( 3 ) 民間の動き
* 車いすドライバーの当事者として、(社) 全国脊髄損傷者連合会(妻屋 明 理事長)
 では「高速道路のSA・PAにおけるバリアフリーに関する調査研究」を実施し、 2001
 年には国土交通省にて調査結果を発表する一方、(旧)日本道路公団(現在は分割民営
 化されている)に対しても提言を行った。同公団の回答によれば、2002 年4月1日現
 在、全国の SA・PAにおける障害者用駐車スペースの合計は695、うち上屋が整備され
 ているものは399である。
* 健常者のドライバーに対し、障害者用駐車スペースに駐車しないよう呼びかけるなど
 の啓発活動をする団体( N P O)が増加している。ステッカーやチラシの配布を行って
 いる。
* 障害者用駐車スペースの不正利用に対し、警告を発する機器等、 I T 技術の開発が進ん
 でいる。(例: I・BOX)

まとめ

 車いすドライバーにとって使いやすい駐車スペースは、広い幅を有していること、表示
がわかりやすいこと、施設にアクセスしやすいことであるが、筆者の調査では佐賀市庁舎
がそれらをすべて満たしていた。庁舎周辺は歩道と車道の段差をなくした「佐賀モデル」
を採用している( 2003年5月に「市有施設バリアフリー検討会」を発足)。全国的には
障害者用駐車スペースの数は増加しているが、看板等が置かれ必要な人が必要なときに使
えない状況は改善されていない。不正利用も多く、毎日新聞(扇澤秀明氏)の調査
( 2006年3月)によれば、千葉県内の郊外型スーパーで障害者用駐車スペースに駐車し
た車は5時間で約 30台であり、国際シンボルマークをファッションで車に付けている人
もいた。またスペースの路面のカラーも統一されていないことから、(社)全国精髄損傷
者連合会山形支部では、全国統一モデル(青地に白の国際シンボルマーク)を提唱してい
る。諸外国( ヨーロッパの E U諸国、アメリカ、韓国等)ではマナーや啓発活動では限界
があることから罰則の導入に踏み切った。
 現段階での問題点は、以下のようにまとめられる。
(1) 「国際シンボルマーク」が量販店でも売られており、障害のない人の乱用を許してい
 る。
(2) 障害者用駐車スペースを誰が使っていいのかという明確な基準がない。誰もが分かる
 利用基準が必要である。

参考文献
国際交通安全学会(2002)『障害者用駐車スペースの利用の適正化に関する総合的研究』
(MATSUMURA Michiko)

本学会における発表事例(2006年9月16日)

*パイロンやバリケードが置かれている例:石川県広坂庁舎、東京国際フォーラム
*不正利用の例:羽田空港P1駐車場
*不適切な位置に設置している例:東京都内の病院(坂道)
*不正改造したTホテルの是正工事完了後の写真
*(社)全国脊髄損傷者連合会山形支部が提唱している統一モデル
*山形県福祉のまちづくり整備マニュアルの紹介
*佐賀市庁舎の駐車スペースと佐賀市「市有施設バリアフリー検討会」について
*栃木県小山市役所の妊産婦(子連れ)用駐車スペース
*不正利用に警告を発する機器の開発:山口県庁に設置されたI・BOX
*国際シンボルマークと四つ葉のクローバーマークについて


表紙に戻る